第7話「新入り交換留学」(前編)
LRAの属する時野谷財閥内の企業同士で新入社員を一か月入れ替えて派遣する「新入り交換留学」。これは財閥内の企業が一丸となって人材を育成するためのプログラム。
しかし、ベニコとナツの二人と入れ替わりで来る二人、サカエ(平子榮)とアカリ(新妻燈)は超がつくほどのクセモノで…。
ミチコ(舘野美智子):ねー。ベニコ。
ベニコ(末柄紅子):はい。
ミチコ:最近ツイスタブック始めたんだけどさ、これ、ナツコのアカウント?
ベニコ:(遅っ)
社長、ベニコにナツのSNSのアカウントのトップ画像を見せる。そこにあったのは、コスプレ姿で模造ナイフの刀身の峰の部分を舐めるそぶりをしているナツの姿だった。「思わず他人のふりをしたくなる」というフレーズの背景にあるような感情がベニコの足元から全身に駆け巡る。
ベニコ:え、あ、いやその…違うと思います。ええ。
ミチコ:えー?いやだってほら「共通の友達2人:末柄紅子さん、安良岡愛美さん」とか出てるよー。
ベニコ:・・・。
…と、そこにアイミが出社してくる。
アイミ(安良岡愛美):舘野ー。おはようー。
ベニコ:あ、おはようございます!
ミチコ:ん。おはよう安良岡ー。
アイミ:んで、朝から舘野とスーちゃんで何やってんのー?
ミチコ、アイミにナツのSNSのトップ画面を見せる。
アイミ:あー!これね。なっちゃんのブッ飛び具合ホント好き!
ベニコ:中学からずっと一緒だとクッソ疲れますよ…。
と、そこに噂の張本人・ナツが出社してくる。
ナツ(谷田貝夏):はざまーす。
アイミ:英雄の領分に足を踏み込んだヤタガンティーヌさんおはようー!
ナツ:負けるわけがねえんだよ!
アイミ:上司相手に大した自信だね!あとでホールド技かけてあげるからよろしくー!
ナツ:安良岡常務のそういうとこ大好きっすー!
アイミ:興味のない人から向けられる好意はちょっとキモいかなー!
ナツ:さっすがー!「ら」が違うけどさすがっすー!
ミチコ:意味わかんねえ…ついてけねえ…。
ベニコ:ついてく必要ないと思います…。
二つとも地味に元ネタが解るのが悔しいベニコであった。
ナツ:なんだか色々ヘンなコトが起きてるが気にしない方向で頼むぞ末柄君。
ベニコ:やかましい。巻き込むな。人違いだっての。
ミチコ:んで、ベニコ。ナツコ。
ベニコ:はい。
ナツ:なんでしょ!
ミチコ:そろそろ毎年恒例のアレ…新入り交換留学の時期なわけだが。
ベニコ:…なんですかそれ?
ミチコ:おいおい…入社式の日にちゃんと伝えたでしょ…時野谷財閥に属する会社同士で新入りを一か月入れ替えて、グループ会社にはどんな会社があってどのような業務を行っているのか、どんな社員が入ったかを知る「毎年恒例のアレ」だ。
ナツ:楽しみにしてました!谷田貝はどこの会社を体験させてもらえるんですか!?
ミチコ:なんでいきなり一人称が苗字になるんだ…。ナツコは本社の総務部だ。
ナツ:やったー!本社昇進!栄転!出世街道はじまった!
ミチコ:社長を前にしてうちが左遷先みたいな表現すんじゃないよ。財閥でも上から数えた方が圧倒的に早いんだけど。
ベニコ:えーっと、私はどこになりますか?
ミチコ:ティーリア・ソリューションズ。イヴァーヒの。
ベニコ:…ティーリア?
ナツ:ハワイア
スワジュン、慌ててナツの口をふさぐ。
スワジュン:下界のどこかが解る発言はすんなって何回いえば…。
ミチコ:メーティアの北をずっと行って、フィダーチャの州境を越えてすぐのところ。あんまり知られてないがリルモンテやロアデーツはもちろんウードパラゾよりも都会だぞ。
ベニコ:へー!いじりがいのある物件があるといいですね…!
ミチコ:おいおい…帰ってこない気満々か?
ベニコ:え、いや…。
と、そのとき。来客のチャイムが鳴り、インターホン越しにサキが応対する。
サキ(大出咲):いらっしゃいませ。リルモンテ・リノベーション・アライアンス、大出咲です。お名前とご用件をどうぞ。
???:お世話になりますー。ティーリア・ソリューションズの新妻と平子です。新入り交換留学で早く来すぎてしまったんですが、ご挨拶しに来ました。
ミチコ:ん?もう来たのか。
ベニコ:あれ、この二人の所属って私の行き先ですよね?
ミチコ:ん。名刺と情報は交換しときなさい。
ベニコ:はい。
そして、ベニコの行き先であるティーリア・ソリューションズから平子榮と新妻燈の二人がやってきた。
ナツ:谷田貝夏です!…んで、こっちは同期の末柄紅子です。
ベニコ:末柄です。よろしくお願いします。
アカリ(新妻燈):新妻燈ですー。同期なんだからさ!カタくしないでゆるーく!
ベニコ:そうだねー。よろしくですー。
サカエ(平子榮):平子榮ちゃんでーす!榮は冠が火二つの方でおねがーい!ねー!
ベニコ:(あ、こいつめんどくせー奴だ絶対めんどくせー奴だ)
中学からのナツとの付き合いで訓練されたベニコのリスクセンサーが反応しているようだ。
ナツ:あ、ちなみにベニコは入社試験でインパクトドライバーを使ってタガログ語を打刻するという離れ業をやってのけた自慢の同級生ー。
アカリ:えー!さっぱりわけ解んないけどすごーい!
ベニコ:違う!インパクトドライバーのカタログを使って入社試験のお題をやり過ごしただけ!
ナツ:おっと。誇大広告だったかな?
ベニコ:それを言うなら虚偽報告だ。
名刺交換の時の話によると、どうやら遠距離なので念に念を重ねたところ間に合い過ぎて前日に到着してしまったようだ。
ベニコ:(魔界だから許されるノリだよなあ…。前日に来ちゃってもウェルカムだなんてさ…。あと、わけ解ってないのに凄いって何なんだ…)
サカエ:遅刻するよりいーじゃん!あと、わけわかんなくても凄いものはー!凄い!って認める素直な感性!超!大切ー!
アカリ:うんうん!
ベニコ:しゃべってないセリフに返事すんのやめてくんない?超怖いんだけど。
アカリ:サカエは他人の心が読めるんだ。
サカエ:いぇす!
ベニコ:怖っ…。周りの人間隠し事できないじゃん…。てか本心見えたらイヤな事の方が多くない?
サカエ:普段は能力しまってるからへーき!
ベニコ:なんだって時野谷財閥は変人ばっか吹き溜まるんだかなあ…。
スワジュン:末柄ー、お前も十分変人だから安心しろー。
ベニコ:・・・。
サカエ:わーん!末柄さんったら「(ピーーーーーーーー)」だってー!こわーい!
アカリ:えー!?やだやだー!
スワジュン:あ?
ベニコ:おま!ちょっとやめろって!
サカエ:わわわ!うそうそー!ごめんねごめんねー!
アイミ:スーちゃん基本的に煽り耐性ないよね。
ミチコ:ん。変なとこまっすぐだよな。
アイミ:だからこそなっちゃんとはベストカップルなのかも!
そんなおせっかいな二人の手元にある電話が鳴る。
ミチコ:お電話ありがとうございます。リルモンテ・リノベーション・アライアンス、舘野が承ります。
??:あ、とっきー?ティーリアの折笠ですー。
ミチコ:おお、ロリ笠!
折笠:だーれがロリ笠だ!つーか久しぶりに呼ばれたよそれ!…んで、うちの平子と新妻がずいぶん早く着いちゃって迷惑かけちゃってるみたいでさー。ごめんねー。
電話の主はティーリア・ソリューションズの社長、折笠であった。ミチコとは大学時代からの旧知の仲であり、「ロリ笠」なるあだ名は大学の文化部連合会の打ち上げでの折笠のコスプレに由来するという。内輪ネタは時に禍根を残すものともいえるだろう。
ミチコ:ん。別に問題ない。そっちの二人も個性派でいいな。…うちの末柄と谷田貝には負けるがな。あ、そういやじきにうちの末柄が世話になるがよろしく頼む。
折笠:なんかすっごく濃いみたいだね。あ、末柄さんの件承知してまーす。こちらこそよろしくねー。そうそう、二人には“ばばどーる”持たせたからリルモンテの皆さんでぜひご賞味あれ。
ミチコ:ん。さっきもらった。相変わらず旨いな。
折笠:んで、とっきー。そっちの電話ってスピーカーモードになったりする?
ミチコ:ん。
折笠:ちょっと切り替えて平子と新妻に替わってもらっていい?
ミチコ:ん。…平子さん、新妻さん。折笠社長からだからちょっと来てー。
ミチコ、サカエとアカリを電話の前に呼ぶ。
折笠:平子ー。
サカエ:はーい!
折笠:新妻ー。
アカリ:はい。
折笠:…呼んでみただけ。ごめん。用事ない。
サカエ/アカリ:・・・・・・。
ミチコ:折笠…すげーつまらんぞ…。
折笠:・・・ま、とりあえず頑張れー。んじゃ。
折笠、電話を切る。
ベニコ:滑ったのがはずかしくなって逃げましたね…。折笠社長…。
ミチコ:そういってやんなって…。
ナツ:んで、二人は今日泊まるとこあんの?
サカエ:あ、…ない。
アカリ:うん。ない。
ナツ:わが社自慢の渾身のリノベ物件、「末柄ビル5階」はいかがでしょうか。
ベニコ:おいまてこら。人泊められる準備してないから!つーかやったの私!会社で手掛けた物件じゃねーから!ホテル取ってもらえよ!経費で落ちんだろ出張なんだから…。
サカエ、ベニコを見つめる。
サカエ:超おしゃれ!行きたい行きたい行きたい!
アカリ:え、マジ?どんな感じ?
サカエ:5階建てのレトロなビルの一番上の階で大通りを見下ろせる電球色の空間に包まれたバーカウンターがあるー!25度のギンミヤ焼酎をロックで飲むのが至福の時なんだってー!
アカリ:いーないーないーなー!
ベニコ:記憶まで読めんかい!人の酒の趣味までバラすなし!
サカエ:ふっかふかなファブリックのソファー!寝たーい!
アカリ:いーないーないーなー!
ベニコ:やーだやーだやーだー!
サカエ:(末柄さん、今私はあなたの心に直接語り掛けています)
ベニコ:やめろ
サカエ:(あなたは今から猛烈に「給料アップ!給料アップ!今すぐ給料アップ!」と叫びたくなります)
ベニコ:うちの会社労組も春闘もどっちもねーから!ラノベに生臭い要素持ち込むなよ!
ナツ:春闘勝利!メーデー!メーデー!メーデー!
ナツ、ベニコの背中を指で「トントントンツーツーツートントントン」のリズムでつつく。
ベニコ:あーもう!つーかそっちのメーデーとそれ関係ねーから!
ナツ:こないだ本社の佐伯さんと(ピー)暮里の生地問屋行ったときに色々使い果たして金欠なのだよ。私の救援信号をきちんと受信したまえ末柄君。
ベニコ:借りパク踏み倒し常習犯の谷田貝夏に物品金品は一切貸さんぞ。あと半年くらい前に貸したメガネレンチ早く返せよ。つーかここ魔界って設定なんだから不用意に(ピー)暮里とか言うんじゃねえよ…。
ナツ、カバンからメガネレンチを取り出す。
ナツ:これのことかね?ただ、ホントに君のだという証拠はあるかね?
ベニコ:ある。19番の穴の近くに“SUEGARA”って彫ってある。
アカリ:なっちゃん!ちょっと見せてー…書いてあるー!
ナツ、ベニコにメガネレンチを渡す。
ナツ:ちぇ…卵でも探しに行くか…。
アカリ:それメーデーじゃなくてイースターなんじゃ…。
ベニコ:新妻さん、そこツッコんだら負け。谷田貝の思う壺。
サカエ:ははーん。さては君たち腐れ縁だなー?
ベニコ:中学からずっと一緒にいるからすげえダルいぞ。特に今日はな!
…と、そんなやり取りをしつつも、サカエとアカリはベニコの自宅へと泊まることとなった。




