7 幇助
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これは依頼状である。
此度の異常事態及び非常事態に際して、これまでの研究成果と推論からわれわれ
第一階層の管理者は一つ結論を出した。
これは神を救う試練である。
この世界にもたらされた試練である。
神が<アルモクライス>を第7階層より下で支えておられることは周知のことであろう。
昨夜以前からその力の弱体化が観測された。
力ある者よ。
神力を復活させよ。
最下層より下を目指し、神を救うべし。
達成の暁にはそのものに英雄としての伝説と、いかなる要求をも通すことが出来る権利
を授ける。
権威、名誉、国の復古、叡知、快楽・・・全てを満たすことすら可能である。
諸君等には救う権利と救われる権利がある
諸君等には救う権利と救われる権利が与えられる
資格は誰もが持ち、その行為は如何なる身分の者にも妨害されることは出来ない。
国家間の妨害等は許されない。
協力を本意とす。
故にここに誓約を記す。
一、神を救いし英雄には如何なるものも授ける。
一、英雄とならんとする者を妨害することは如何なる理由があろうが許されない。
一、協力・助力等の干渉は認める。ただし、結果として他の者への妨害となること
は許されない。
以上
第1階層管理者代表
ローゼン・ヘルヴァーリ
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手紙を蒔いた後、運んできた白銀の鳥のほとんどは光の粒子となって空に消えた。魔術の類なのだろう。
ただ何かを見張るように上空に数羽、静かに旋回を続けている。
手紙を読む間、静寂が街を包んでいた。早朝のひやりとした空気がその静寂をすりぬけ、建物の隙間を這う。
丁寧に織り込まれた封書の中身を見て全員が戸惑っていた。
印は第1階層管理者のもので間違いない。
第1階層は他と違い特別で、あらゆる叡知と技術を持つと言われている。現に空を舞う鳥を魔術で創り上げるなど、ムートの人間にとって土の中を泳ぐに等しい難度だ。封書を見ても気がつく者は気がつく。整えられた字。何千何万もの封筒。その全てに全く同じ文章が刻まれている。少なくともムートでは不可能な製産だ。
技術と知識を持ち合わせた国。故に第1階層の限られた人間は、この世界を管理し、監視する能力も持ち合わせている。そのままの意味で彼らは管理者と呼ばれ、世界の真理を最も知る者とされている。
高が3年間の教育でも習う知識。
その管理者からの手紙。
だが、皆が戸惑っているのは差出人に対してではない。内容それ自体だ。
硬い言葉で綴られた文章は、旅立ちの幇助。
この国の中だけでも何人の人間が栄光と歓声と欲に眩んだだろう。
それが一時的な高まりに過ぎないと理解している者でも、眩い光に感じただろう。
ただ、ヴェークにはその高まりが無かった。
あったのは疑問。なぜ周囲がこんなにも瞳をぎらつかせているのか。なぜ守るべき物があるのに外へ想いを馳せるのか。
(『内円』に入れって事じゃないか・・・あそこは危険だと教師も父も・・・)
ヴェークの読解が正しければ、第7階層へ向かいその下にいる神を救えと言うことになる。
神はいる。
姿形は分からないが、魔術は神からの授かり物だ。
だから問題は神がいるかどうかではなく・・・
「『内円』を通って北西へ移動・・・今は第5都市が第4階層との御柱で繋がっているから」
隣でアムルトが小さく呟いていた。
紙をつかんだその手は力なく握られ、優しげな表情は思慮の内に閉じ込められている。
「アムルト・・・お前」
「え、あ。何ともないよ。人で溢れかえる前に部屋に戻ろうか」
「・・・ああ」
気づかないとでも思ったのだろうか。
アムルトの身体に広がる外への羨望に。
国の中での窮屈さに。
可能性への高まりに。
その日の内に国の王から通達が出た。
曰く、旅立つ者には全力の支援を行うこと。そして国に幸福をもたらすべく動けと。