12.語り部になろう
サラジェン伯や使用人の人たちに更に二つの物語を語り終えたときには、夕方になっていた。
普通は皆仕事に忙しくしていた時間だったろうに、みんなでサボっていいんだろうかなんて心配したけれど、滅多にないことなので良いとサラジェン伯が許可したのだという。
みんなにやさしい領主なんだな。
使用人たちは、興奮した面持ちで笑顔を見せ合って、何か口々に話をしながら広間から出ていった。
こんな話をするだけで皆の娯楽になったのなら、俺も嬉しいよ。
『 ねえ。まほうのランプってスシローのせかいにいっぱいあるの?』
「ないよ!あれは空想物語だから、そういうランプがあればいいな、ってことだよ。俺の世界では魔人もいないし、魔法使いもいなかったからね。こういう物語は悪は滅びて皆が幸せになりました、って物語の一つだから、最後はハッピーエンドで終わるのさ。」
『 ふ~ん。スシローはいっぱいおはなしをしってるの?』
「そうだな。たぶんこういった話なら三十個くらい知ってるかな。」
『 すごい!じゃあ、ほかのなかまにもはなしてくれる?』
「ほかの仲間?」
『 いずみのせいれいとか、きのせいれいとか、せいれいはみんなおはなしがすきなんだよ。』
「精霊?妖精の他にも精霊っているのか?」
『 いるよ。スシローのところではいなかったの?』
「いない、のかな。居るかも知れないけど誰も見たことがないし、俺も見たことがない。」
『じゃあ、どうやってみずをきれいにしたり、はなやきをそだててるの?』
「文明の力で、だな。人間が工夫して汚い水をきれいにしたり、植物が良く育つように品種改良したり肥料を変えたりしているんだ。」
『 よくわかんないけど、にんげんがまほうでせいれいのやくめをしてるの?』
「そうとも言えるけど、それは魔法の力でも何でもなくて、いろんな道具や機械や薬を使ったりして、魔法が無くても出来ることをしていった、って感じな。」
『 ふ~ん。』
ファンは不思議そうにしていたけれど、サラジェン伯達から通訳をせがまれて、今の話を訳していた。
それにしてもちょくちょく魔法が出てくるな。
オウラを持っていると魔法が使えるって言ってたよな。
俺にもオウラが一杯だとも言ってたよな。
もしかしたら、俺にもまほうが使えるのか。
だとしたらいいな~。
超能力も魔法も俺の妄想世界、夢の世界だけの話だったけど、ファンみたいな妖精やら精霊がいるのなら、魔法は身近にあるのか。
タハヤと言う王都があるところで、本物の魔法使いに会えるはずだから、俺にも魔法が使えるか聞いてみて、使えるのなら使い方を習いたいよな。そんで、人助けとか魔物を退治したりして人に感謝され足りなんかして、可愛い子とお付き合いしちゃったりなんかして。
ぐふふ。なんかファンタジー世界のお約束爆裂だ。
俺がそんなことを一人思いめぐらしていると、ファンがこちらのほうに飛んできた。
『 ゆうはんをたべたら、また、ものがたりをきかせてくれる?』
「いいよ。またここにいる人たちとかサラジェン伯も?」
『 ううん。よるにあつまれるだけのひとがあつまって、いちばんおおきいおおひろまでみんなにきかせてほしいんだって。できる?』
これより大人数?ここより広い大広間で?なんか、高校の講堂で演説するみたいじゃないか。
まあ、一人だろうが、数十人だろうが変わらないとは思うけど。
よっぽど娯楽に飢えてるんだろうか。
それとも異世界人が物珍しいのか。
どちらともかもしれないけれど、人にお願いされるのは気持ちがいい。
愚民どもよ、わが話を聞くが良い、なんちゃって。
「謹んでお話をさせていただきます、って伝えてくれるか。」
『 わかった~。』
軽やかに領主のもとに飛んで行き、それを伝えているようだ。
サラジェン伯とクレスチンが椅子から立ちあがっていたが、興奮した面持ちでこちら近づいていきなり手を握っていった。
『先ほどの物語はどれも素晴らしかった。語り部の話は祭りの時にしか聞けないし、そういくつもあるものではないから、聞き飽きた事もあった。こうして知らない世界の知らない物語を聞けて、本当にうれしく思っている。特に、シンドバッドの冒険は面白かった。ありがとう。』
そんなに感激してくれるとは、俺も話した甲斐があったというものだ。
夕食後は、ヘラクレスの話とかでもするか。
冒険ものが好きなら、これは欠かせないよな。
この世界で、何もできないとか思ってたけど、語り部っていう職業もあるらしいから、いよいよ食いっぱぐれそうになったら、街角に立って吟遊詩人みたく話をして小金を稼いでもいいんじゃなかろうか。
うん。商売ができなかったら語り部になろう。
どうせ短い人生なんだ。この世界で長く生き残れるとは思えない。
せいぜいグータラしながらこの世界を放浪して、楽しんで生きていこう。
この時は楽観的にそう思っていた俺だったが、人生設計が百八十度違ったものになると知ったのは王都に着いてからだった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
次はやっと魔法使いの師匠との出会いです。
お楽しみに。




