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最悪の始まり…


最悪の始まり

 

この物語の主人公、柏木雪乃(16)は日本有数の大企業、柏木グループ会長兼社長で柏木幸之助《かしわぎこうのすけ》の孫娘であるが、アイドルグループ、エンジェルウィンクAGW48のメンバー(訳あって本名は一切明かさず有村美雪という芸名を名乗っている)でもあり、 大東京都多田区田園朝布の高級住宅街にある280坪程ある家に住み、所謂《いわゆる》お嬢様として優雅な暮らしをしてきた。

 しかし、そんな優雅な暮らしも、悲しみに包まれる悲劇が訪れてしまう─

それは、雪乃がアイドルデビューをする一年程前──

中学生最後の夏休みに入り、15才となる7月22日の誕生日を迎える前の日の夜だった──


 あれはそう、誕生日を迎える前日だったわ──

 一週間程前に父から会わせたい人がいるから予定のない日を教えて欲しいと言われ、誕生日当日ダメと断って渋々夏休みに入った前日に承諾し、当日の夕方、家の前で父と待っていると──

天皇陛下が乗っていた車と同じ高級国産車を改造したリムジンが家の前に止まり、中からスーツを着た人が降りて来た。


天龍寺経盛《てんりゅうじつねもり》と名乗った黒縁の眼鏡を掛けたその人は、父は知っているようで握手を交わし、私にも握手をもとめられて嫌という感じはしなかったので握手をした。


車に乗り高速を降りた先にある高級ホテルの中にあるレストランへと連れていかれた。

そこで出会ったのは”天龍寺総一郎”と言う人で、天龍寺と言う名と顔を見て知らなくはなかった。


 父、柏木由紀夫とは、ライバル関係にある大企業の会長で、テレビなどで時々見かけていたから知っていたけど、画面から見る容姿は40代くらいで年齢が85歳と出ていて驚いたのを覚えている。

 確かに実際会って見ても、85歳には思えないほど肌の艶がよく、40代くらいに思えるほど若く見え精力も衰えていない様子が、私へのイヤらしい視線で感じた事も覚えている。

 

 挨拶もそこそこに終え、お手洗いを済ませ席に着こうとした時だった──

何やら慌ただしくした総一郎氏が今日の会食は中止にしてほしいと願い出て、私達は急いで迎えに来てくれた同じ車に乗り、高級ホテルのレストランを後にした。

 

 車の中では総一郎氏が落ち着きのない状態で父に謝っていて、ここは安全だからと言うおかしな言葉も発していて、それが私を不安に駆らさせ、シートベルトがしっかり締まっているか再確認した。


 総一郎氏は落ち着いたのか車に備え付けの冷蔵庫からワインやウイスキーを出し父達は、後ろでお酒を飲みながら事業の話など談笑していた。

 後部座席は真ん中にはテーブル、その奥には革張りのソファーがあり父達はそこに座っていた。

 シートベルトを確認した時、父達はシートベルトをしていなかったので、私は先程の不安が続いていたので少し強い口調で父に進言した。


『お父様っ、シートベルトをしてくださいっ!

今はする事が義務付けられているのですから万が一の事も考えてください』

『ん?雪乃、まぁ今日は堅いこと言うな。天龍寺会長と今後の新しい事業について語っているところだ』

 最近の父は、総一郎氏と共同で新しい事業を始める為、忙しく動き回っているらしく、すれ違いでなかなか会えないでいたけど、彼が娘に会ってみたいとの事で、父の頼みを断れず、食事を承諾したのだった。


『雪乃さん、この車に乗っていればシートベルトをしなくても安全じゃ。この車は事故に遭わず無事家まで送り届けられる事は分かっておるからのぉ』

 イヤらしい人って、そんな変な事も言うのかと思っていると、隣にいた運転手の人が、総一郎氏へ同じような進言をし出した。

『旦那様、万が一の事もございますので、シートベルトはお付けになられた方が、宜しいかと存じます』

『ん?お前、国森ではないのか?』

『えっ?あっ、はい。私は徳川でございますが、どうかなされましたか?』


 総一郎氏は何故かまた先程のように慌て始めていた。

『くっ国森はどうしたんだっ?』

『はぁ、国森氏でしたら急な用事が出来たらしく、私と変わってほしいと連絡がございました。

——それで旦那様とはお会いせずに、乗り込んだ後で交代して欲しいと言われまして──私も少し不思議に思いましたが、国森氏は旦那様には伝えてあるとの事でしたので、旦那様達が車に乗られた直後に変わった次第でございます』


『何っ!?ワシは聞いとらんぞっ!経盛《つねもり》とは接触しているんだろうなっ?』

『それが…国森氏は経盛様にも伝えてあるとの事でしたので、連絡を取らず変わってしまったのですが……』

『なっ!』


 総一郎は慌てるようにシートベルトをしようとするが……慌てていて閉められず、それは直ぐに起こった……。

 首都高速入口を入って本線に合流しようとしていた時だった……追い越し斜線を走っていたダンプカーが急に左へハンドルを切り、総一郎氏が座っている後部座席目掛けて、勢いよく車の右側に突っ込んで来たっ!

 

 グゥガガガァァアァ───ン!!!

  グゥワシャャァァ──ン!!!

   バリバリィィ──ッ!!!

 グッグァァァ───ン!!!

  グォゴォォ────ッ!!!

   グゥガガガァァアァ───ン!!!

ガッグッワァァァ────!!!

ガッシャァァァァ─────ン!!!

 

 強固に作られていたリムジンは拉《ひしゃ》げることはなかったが高速道路の防音壁を突き破りダンプカーとともに轟音を響かせながら真下へと落ちていく──ダンプカーはそのまま真っ直ぐに落ち──正面がグシャグシャに潰れ仰向けになって倒れた。リムジンは空中で一回転し、ダンプカーとは少し離れた場所へ運転席側を下にして落ちてから仰向けに倒れた。

 

 ───辺りは大変な騒ぎになっていた──

車の交通量は幸いにも少なく、落ちた下に他の車はなかったが、人通りはあって衝撃で転んだり、飛び散ったガラス等の破片で怪我をする人達がいた。


 私は前面や側面、四方から全身を包み込むように出る最新のエアーバッグに守られ激突した時や落下した時の衝撃が和らげられ何とか意識を保っていた。

 開いた時の衝撃で脇や腕に痛みがあったけど、私は後ろの父が気になり「お父様、大丈夫ですか?」と声を発しながら何とかして後ろの席へ行こうともがいていた──

 

エアーバッグの圧力で動けなかったけど徐々に緩《ゆる》み始め、シートベルトの着脱スイッチに手が届き、エアーバッグがクッション替わりとなって逆さまの状態でも、すんなり腹ばい状態になれた。


私はすぐさま父がいる後部座席へ

『お父様!お父様!大丈夫ですか?返事をしてください!』と声を発し這いずながら向かった。

 途中、チラッと運転手を見たが、意識はあるようだった──


這っていく中、粉々になった窓ガラスを踏んで痛みが走り、脇や腕にも痛みがあったけど父が気になり痛みを堪え後ろの席へと向かった──


 ──後ろは見るも悲惨な状況となっていた……

上からぶら下がっている後部座席用のエアーバッグも萎んでいたが、白色のはずなのに何故か赤くなっていて、それがすぐに血だと分かった……。

 私は直ぐに右奥で顔中血だらけになっている父を見つけ、近寄った──

『お父様!しっかりして!目を開けて!!返事をして!!!』揺すっても何も反応がない……

すでに息絶えていた……

『イヤァァ──!お父様ぁぁぁぁっ──!』

 私は号哭《ごうこく》し、悲しみに打ち拉《ひし》がれていると──左側から悲しみを忘れるほど眩しい光を放っているモノに気づいた。

気づいたのは、もしや父の魂ではと思ったが両手で抱えるくらいの大きな球体だったので落胆して再び悲しみに暮れた──


 でもあまりに優しく光る球体だったので、ふと一緒にいた天龍寺氏も気になり辺りを見回すと、その球体の下で──血だらけになって倒れていた……


 頭部が陥没しているのが見え、首が変な方向に曲がっていて息絶えているのが判るほどだった……

しかし、先ほどの若々しかった姿とはまるで別人で、髪の毛は抜け落ち薄い白髪頭になっていて、どう見ても年老いた人にしか見えなかった。

ただ服装などから天龍寺氏である事は間違いなかった。

 突然だった───白く光る球体の中から突き破るように無数の色がついた球体が一斉に溢《あふ》れだし車の外へと出ていく。

 球体は渦を巻きながら、意思でもあるかのように流麗《りゅうれい》な光のタワーを描きながら空へと急上昇していき、スカイツリーよりもさらに上空へとあがり、花火のように鮮やかに円を描き、方々へと散っていった。


 無数の光る球体が噴出したあとも、まだ白い光を放ち続けている球体だが、小さくなっていた。

大きさとしては、バスケットボールくらいだと思う。

 光は柔らく優しく輝いていて危険を感じなかったが、突然どこからか声が聞こえてきた。

「…我に触れよ…」

何か父に誘われているような感覚があり、ふと触れてしまった──

 ──触れたとたん──それが体の中に吸い込まれるように入ってくるのを感じ、光が消えるとともに私は意識を失った──。

 

 ───気が付いたら病院のベッドの上だった──

 涙を流す母の貴美子と、弟の優也がいて心配そうな顔をして『姉ちゃん大丈夫?』と、声を掛けてくれた── 母の涙が、昨晩の父の事を脳裏に浮かびあがらせ私も泣いてしまい、母が側に近寄って一緒に泣き濡れていた──


 ──暫くして、優也が『お父さんの葬儀準備があるから』と、母と自宅へ戻り、私は病院で一人となり、時々父の事を思い出しては泣き──夜中に事故の夢を見て飛び起き、そのあとは眠れず泣き明かし夜が明けた──


 お昼前に女性のドクターが検査をしてくれたが、首を傾げていた──ガラスで切った傷や、指やあばら骨が骨折していたはずなのに、治っているというのだ。

 全て検査しても異状は見当たらなくなったとの事で、その日の内に退院をしてしまった──

 迎えに来てくれた母も驚いていたけど、大丈夫な事を伝えるとホッとした様子で、私は家へと戻った。

 

父の遺体が大広間にあり、今にも起き上がって笑顔を見せてくれるのではと思うほど綺麗に化粧された、その顔は穏やかで、私は暫く正座をして泣き沈んでいた──

その後、悲しみを抑えながらも葬儀の準備を手伝い、通夜を終え、翌日には社葬として大勢の人に見送られての盛大な葬儀のあと、火葬場で泣きながら、父を見送った──。


 会社は、お祖父様が社長を兼任し、父がしていた事を引き継ぎ、天龍寺グループとの新規事業は白紙撤回されたが、会社に損益を出すことなく経営は上手く廻っているとの事だった。

 

 父が亡くなって半月程経った時だった。

 天龍寺家嫡男の経盛氏が訪ねて来た。

 私は丁度、中学生最後の夏休みで昼食も終わり宿題をしょうとしていた所への訪問だったので、話をする事ができた。


 彼は、亡くなった総一郎氏に変わり当主として、傾いた会社を立ち直らせる事に全力を尽くしていた……

傾きは総一郎氏の存在が大きかった事が窺《うかが》える。

 嫡男ではダメだと離れていく人もいたようだが、期待する人もいて立て直しに奔走しているという。

 

 葬儀で会って以来だったけど、父の遺体を前にして、私達家族に【私の家族がとんでもないことをしでかしてしまい、大変申し訳ありませんでした】と、土下座をされたのには驚いた。


 それもあって、もう来ないのではと思っていたので、突然の訪問に少し驚いた。でも、二人きりで話したいとの申し出にはしっかりと驚いた。

 当初、母が【帰ってください!娘はあなたに会いたくないと言っています!今も傷心しきっています!あなた達家族が主人を、主人を……】泣き崩れる母に対して経盛氏は、土下座をして私に会わせてくださいと頼んでいた。


 再び土下座をしている経盛氏を見ていた私は、余程私に伝えたい事があるのかと思い、少しだけならと母を説得して中へと案内をした。


 玄関を入って右側にある狭い方の応接室に案内して、向い合わせでソファーに座った。

 経盛氏とは葬儀で見た時から何か全身が騒つく感じがして今もしているが緊張しているだけだと一蹴した。

 ──彼は、鞄から炎を象(かたど)ったようなモノが意匠された家紋入りの黒光りする状箱を取り出して机に置き、話をし始めた。

『雪乃さん。突然の訪問、誠に申し訳ありません……本来ならもう会うことはないと思っていたのですが、天龍寺家が代々守り続けてきた家業について、お話をしておかなければならない事態が起こりましたので、伺わさせていただきました』

『天龍寺家の家業ですか?』

『はい……』

 彼は黒光りする状箱の蓋を開け中から”天龍寺家秘伝書〔龍光玉伝授《りゅうこうぎょくでんじゆ》・封印法《ふういんほう》及び封印玉伝授作法書《ふういんぎょくでんじゅさほうしょ》〕新編版”と書かれた書物を机の上に置いた。

『雪乃さん……あなたは私の父が亡くなった直後、光る球体を触りませんでしたか?』

『えっ?光る球体ですか?』


 私はあの時の事を思い出さないようしていたのだけれど、聞かれた瞬間記憶が鮮明に甦り、涙が零《こぼ》れ出し泣き伏せてしまった。それを見て経盛氏は慌てて謝りだした。

『雪乃さん、大変申し訳ありませんでした。思い出させてしまったようですね……私も迂闊《うかつ》でした……日を改めてお会いさせていただきます』

 経盛氏はそう言って頭を下げ書物をしまおうとし始めたので、私は沈痛な面持ちの顔を上げて話しを続けた──


『すみません天龍寺さん……取り乱してしまって……あの時の事を思い出してしまって……つい……もう大丈夫です……帰らないでください。話の続きをしましょう』

『本当に大丈夫ですか?日を改めた方がよろしいのでは?』

 日を改めてはと聞かれ先の事を考えてみると、思い出して悲しみを繰り返す日々が続くだけになると思い、何処かで断ち切るには今しかないと決意し、私はしっかり聞く事を決めて話しを続けた──


『いいえ、大丈夫です。確か光る球体を触ったかどうかでしたね。ええ確かに触りました。触ったらすぐに消えましたが……それが天龍寺家と何か関わりがあるのですか?』

『やはりそうでしたか……そうです……天龍寺家に関わる事です。

 私は、父から詳しく聞いていなかったのですが、天龍寺家を引き継ぐ際、地下金庫にしまい込んであったこの書を見つけ、中に書かれている事に驚愕しました……

 

 これから話す事は一切、他人には話さないでください。あなたの身に危険が及ぶ可能性もありますので……』

『それほどまでに隠さなければいけない事って一体何なのですか?あの光は一体?』

『その光の説明の前に、まずは私と握手をしていただけますか』

 

 そう言うと経盛氏は右手を差し出した。今さら何故握手を?と思ったけど、言われるまま私も右手を差し出し、握手をした──


 すると経盛氏の体から青と緑色に光るモノが見え、握手した手を伝って、私の体の中に吸い込まれるように入っていった──

 入って直ぐ、体の火照りを覚え、目を瞑《つぶ》ると青と緑に光る球体が波に浮かんでいるかのように、ゆっくりと円を描きながら回っているのが見える──


私が体に違和感を感じているのを感じ取ったのか、彼は話し掛けてきた。

『今、体に違和感を感じているのは、私にあった龍の力を吸収したからです』

『りゅっ龍の力!?龍の力って……天龍寺さん……私の体は一体どうなってしまったのですか?』

『私もどこからご説明したらよいか戸惑いますが……まずは最近の出来事についてお尋ねします。今巷では奇妙な事件が起こっているのはご存知ですか?』

『えぇ。今は夏休みなので昼のニュースとかを見ているので分かります。確か不思議な力を使う人達の事ですよね?』

『そうです。黒の目出し帽を被った人物が、体が動かなくなっている人から、金品を奪っている事件の事です』

 最近のニュースはこの話題で持ちきりで、今日も銀行での防犯カメラの映像が流れていた。

 完全に人の動きが止まっていて、動く事ができず銀行員が持っていた札束やそれを受け取ろうとする人の鞄から、財布などを取っていく姿が映し出されていた。


『今日もニュースで見ましたが、あれが龍の力なのですか?』

『そうです……雪乃さん……光る球体に触る前……無数の光が飛び出しませんでしたか?』

私は悲しみを堪え記憶を探った……。

『えぇ、確かに無数の色鮮やかな光が、車の外へ飛び出したのを覚えています』

『そうですか……やはりあの時父は亡くなったんですね……私もその鮮やかな光は見ました……非常に残念です……』


 経盛氏は沈痛の表情を見せている。

『天龍寺さん……』

私も父の事を思い出し同じ表情をして悲しんだ……。

『すみません、雪乃さん……弟が……弟がまさか、あんな事をするなんて……本当に、本当に申し訳ない……』経盛氏は土下座をして泣き崩れた——


 それは、ニュースで知った……私達が乗っていた車に、ダンプカーを運転し衝突してきた男は……経盛氏の弟、総一郎氏次男の将希(まさき)だった事を……。 

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