第36話 袁家(二)
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呂布は郭図と張遼を伴って禁裏に向かった。
「我は羽林中郎将の呂布。執金吾袁紹殿に用があるので入らせてもらう」
「今は何人たりとも中に入れる事を禁じられている。早急に立ち去れ」
「これを持っていてもか?」
「そ、それは…」
呂布が懐から取り出したのは立ち入り許可を記した木簡だった。そこには丞相何進の署名が入っていた。
「門番殿、これもありますが」
「…」
呂布に続いて郭図が取り出した木簡は少帝劉弁の署名が入った立ち入り許可証だった。
「何とか言ったらどうだ?」
「し、失礼致しました。お入り下さい」
「職務に忠実なのは感心だが、言葉遣いに気を付けた方が良いぞ」
「承知致しました…」
呆然と立ち尽くす門番の横をすり抜けるように呂布たちは禁裏に入った。
*****
「郭図殿、羽林中郎将すら立ち入りを拒むのは我々の動きを察しての事では?」
「恐らくそうでしょう。一部の兵士が戻らないので余計にそうさせていると思われます」
袁紹は何人たりとも禁裏に入れるなと命じていたが劉弁や何進が直接出した許可に対して拒む手立てを考えていなかった。呂布が何進と懇意だったとしても許可証を手に入れる事は不可能だと高を括っていた。
「屋敷で耳にした情報通り袁紹子飼いの猛将が待ち受けている可能性が高いと見ました」
「どうした張遼?今更怖気づいたとは言わせんぞ」
呂布は含み笑いを浮かべながら張遼に圧を掛けた。
「何を言われるかと思えば。私が怖気づくとすれば呂布殿や老将軍から睨まれた時くらいでしょう」
「それでこそ張遼だ。期待しているぞ」
これくらいで怖気づくようなら師匠である高順から何を言われるか分からないと張遼は苦笑いした。
*****
呂布たちが執金吾が居る区画に入ろうとすると二人の兵士が立ち塞がった。
「我は羽林中郎将の呂布。執金吾袁紹殿に会わせてもらう」
「駄目だ。ここは誰も通さん」
「これを持っていてもか?」
呂布は先程と同じように何進直筆の許可証を兵士に見せた。
「そんな物、何の価値もない」
「そうか。貴様らは丞相より偉い立場なんだな?」
「何の力も持たない男に何の価値がある?」
「俺たちがその力だとすれば?」
「そうだとしても力付くで排除するだけだ」
二人は呂布と張遼の素性を確認する事なく近付いてきた。対する呂布と張遼はそれぞれ獲物を定めて兵士に向かっていった。
「馬鹿な連中だ。幷州の兵士は武器だけでなく格闘にも長けているのを知らないのか…。というか知るわけがないな」
郭図は独り言を呟きつつ呆れた様子で兵士を憐れんだ。幷州軍の兵士は武器を失っても戦う術を叩き込まれている。焔陣営は典型的なそれであり、そこに所属していた張遼は言わずもがなである。
「某は幷州の張遼。貴殿の名は?」
「貴様に名乗る名はない」
素早く横に動いて殴りかかってきた兵士を上手くいなすと腕を掴んで関節を決めに掛かった。
「無茶をすれば折れるぞ!」
「虚仮威しに騙されるか!」
兵士が暴れようとしたので張遼は仕方なく力を入れた。すると兵士の腕から嫌な音が聞こえた。
「腕が、腕が!」
「だから言っただろが」
兵士の肘がだらんとなっており関節が外れているのが一目瞭然だった。張遼が離れると兵士は倒れ込んで呻きながらのたうち回った。
「文醜!」
「お前、仲間の事を気にする暇があるのか?」
呂布と組み合っている兵士が張遼に倒された仲間を心配しようとしたが呂布は笑みを浮かべて挑発した。
「お前らをズタズタにしてやる!」
「出来るものならやってみろ」
兵士は力任せに呂布を押し込もうとするが、呂布は一歩も下がらず涼しい顔をしていた。
「どうした?」
「黙れ!」
「面白くない。もっと鍛えてから挑んでこい」
呂布は組手を外して兵士の胸ぐらを掴むと壁めがけて力任せに投げ飛ばした。兵士は壁にぶち当たり気を失ってピクリとも動かなかった。
「あ、兄者が…」
文醜と呼ばれる兵士はグッタリして動かない仲間の兵士を見てあまりの衝撃と痛みで気を失った。
「張遼、相変わらずだな」
「これでも老将軍には及ばないので鍛錬あるのみです」
「爺さんは化け物だな」
「老将軍と互角にやり合う呂布殿も大概だと思われますが」
「褒め言葉として受け取っておくぞ。誰か、気を失っている二人を医者に見せてやれ」
「承知致しました」
呂布は気を失っている二人の介抱を指示すると袁紹が居るであろう執務室を目指した。




