第26話 引退(二)
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「後継者としてお前を指名したい」
「冗談はよしてくださいよ」
呂布は予想通りの展開に頭を抱えそうになったが、とにかく後継者になる事を避けたかったので辞退した。
丁原と喧嘩するわけにいかないので下手に出た。
「儂がこのような場で冗談を言った事があるか?」
「確かにありませんが、俺には無理ですよ」
「何故だ?」
「薛尚書や高将軍が居るじゃないですか」
「二人は固辞してお前を推している」
「粗暴な性格の人間に州牧は務まりませんよ。俺は一兵士として暴れるのが性に合ってます」
この後も丁原と呂布は互いに譲らず日暮れと共にこの日の話し合いは打ち切られた。
「前世で州牧を務めて散々な結果になっている。大将には悪いが同じ轍を踏むわけにいかんのだ」
「薛尚書や爺さん|《高順》が駄目ならオッサン|《侯成》が居る。それも駄目なら郭図や鍾繇、それに張遼がいるじゃないか。俺には不向きなのだ」
呂布は普段と異なり誰とも顔を合わせる事なく逃げるように政庁を後にして自宅に戻った。
*****
自宅に戻った呂布は意気消沈していた。その様子を見た夫人の麗氏は呂布に酒を勧めた。麗氏は呂布より三歳年上で女官として勤めていた時に丁原夫人が間を取り持つ形で結婚した。二人の間には娘の呂麗綺が産まれている。
「何かあったのですか?」
「大将から後継者になれと言われた…」
「その様子からして拒否されたようですね」
「そんなところだ」
「奉先様なら出来ると思いましたが」
「戦とは勝手が違うからな」
戦において不利な状況であれば自分がひと暴れして展開をひっくり返す事も可能だが、前世の経験がある事から政治は全く別物だと呂布は自覚していた。
「丁原様は早々に引退したいと言っておられたので奉先様への説得は続くと思いますよ」
「だろうな。大将とは喧嘩をしたくないから強く言えんのだ」
「断ったとしても丁原様は引き下がらないでしょうね」
「どうしたものか…」
考えれば考える程先が見えなくなって悩む呂布に慰める麗氏のやり取りが堂々巡りのように続いていたが、来客を知らせる下男の言葉でようやく終わりを告げた。
「突然伺いまして申し訳ございません」
「こんな夜分にどうした?」
呂布を訪ねたのは郭嘉である。郭図の家に居候している事から二人は何度か顔を合わせており面識があった。
麗氏は客人をもてなす用意をする為に部屋から出て行った。
「蔡琰と結婚する事になりましたので報告を兼ねて伺った次第です」
「結婚する事になったのか」
「蔡邕殿の許しも得ましたので」
蔡邕は二人の交際を認めていたが結婚は早いと中々首を縦に振らなかったので郭図だけでなく丁原と薛蘭も加わったがそれでも駄目だった。傍観していた戯志才も説得に乗り出したが不調に終わっていたので呂布は何が起きたのか分からなかった。
「侍医から病が癒えたとお墨付きを頂きましたので出仕する事を決めたと伝えたところあっさりと認めて頂けました」
「我々と同胞になるという事か?」
「その通りです」
「郭図には伝えたのか?」
「伯父上から呂布殿に許可を貰って来いと条件を付けられました」
丁原や薛蘭ではなく自分に許可を貰えと告げた郭図に対してまどろっこしい事をするものだと感じた。
「俺は歓迎するぞ。明朝には大将と薛尚書に伝えるから安心してくれ」
「伯父上は呂布殿の了承を得れば仕官を認めて貰った事になると申しておりました」
「どういう意味だ?」
「新たな并州牧に呂布殿が内定しているので大丈夫だと」
「あいつ…」
郭図は郭嘉を上手く利用して呂布をその気にさせようとしていた。その意図にようやく気付いた呂布はため息を付いた。
「俺は大将からの要請を断った」
「聞いておりますよ」
「それなら」
「私の話を聞いてから丁原様に返事をしても遅くありません。私の話が納得出来なければ上手く断る方法をお教えします」
「郭嘉の考えを聞かせてくれ」
郭嘉は次のように説明した。州牧には四種類存在しており武に長けた者・政に長けた者・両方に長けた者・両方とも駄目な者に分けられる。丁原は武に長けた者に属して董卓は政に長けた者に属するという。丞相何進も董卓と同じ部類である。郭嘉から見て呂布は武に長けた者に属しているから政に長ける配下が居れば問題ないと伝えた。
「俺は戦場で暴れるのが性に合っている。政庁で喧々諤々するのは苦手だ」
「政は薛蘭殿や鍾繇殿、軍略は伯父上、謀略は戯志才殿に任せておけば良いのです」
「俺が動けない時は?」
「高順殿や候成殿が居るじゃないですか」
郭嘉の言葉を聞いて思うところがあった。何でも自分で抱えようとするから辛くなるのであって出来ない事は出来る奴に任せれば良いのである。それに気付いた呂布は気が楽になった。
「郭嘉、お前はどうする?」
「そうですね…。呂布殿専属の補佐役を務めましょうか」
「お前はまだ無理が利かない身体だ。晋陽に居るべきだ」
「専属の補佐役は?」
「郭図にやってもらう。お前は軍略の責任者に据えるから頑張れよ」
「という事は…?」
「お前が来た時点で俺の負けだろう。お前を寄越した郭図にしてやられたと言うべきか?」
「伯父上も喜びますよ。一世一代の策が成功したと」
呂布は郭嘉の説得に応じて州牧に就く事を承諾した。郭図は新たに設けた中軍師に地位に就いたが事実上の降格人事だったので心配する者も少なくなかった。郭図本人は自分より有能な奉孝が自分より上の地位に就くのは当然の事だと一笑に付して雑音を鎮めた。
*****
<丁原引退後の体制>
幷州牧・呂布
尚書令・薛蘭
中尚書・鍾繇
左軍師・郭嘉
右軍師・戯志才
中軍師・郭図
前将軍・高順
後将軍・候成
左将軍・成廉
右将軍・宋憲
牙門将軍・秦宜禄
牙門将軍・魏越
牙門将軍・魏続
牙門将軍・張燕
偏将軍・李封
偏将軍・郝萌
偏将軍・李鄒
偏将軍・曹性
偏将軍・高雅
偏将軍・張遼
偏将軍・華雄
偏将軍・趙雲




