第22話 厄介な連中(三)
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呂布は一騎打ちの相手である張飛に物足りなさを感じていた。前世の張飛は世間に対して抱いている怒りや恨みを呂布にぶつけるかの如く壮絶な一騎打ちを幾度となく行っていた。目の前に居る張飛はただ腕っぷしが強いだけで命じられたままに戦っているだけにしか見えなかった。
「つまらん」
「何だと?」
「何の意味もなく暴れる奴と戦うのはつまらんと言ったのだ」
「俺を何だと思っている!」
「劉備という奴の犬だな」
「てめえ…」
劉備が逃げていく姿を見て張飛が後を追いかけるような事になれば拙いので関羽と同じように怒らせてその場に留めるべく口撃を行った。それにまんまと引っ掛かり呂布への怒りを抱いた張飛の雰囲気は先程とは一変した。
「少しやるようになったな」
「黙りやがれ!」
張飛の攻撃が鋭さを増してきたので呂布は上手く行ったとほくそ笑んだ。
「何がおかしい!」
「俺と互角にやり合えそうな敵が現れた。喜んで何が悪い?」
馬鹿にしたつもりがなかったが、呂布の言い方が癪に障ったのか張飛の怒りが一段と増してきた。
「舐めやがって!」
「お前の本気に敬意を表して本腰を入れようじゃないか」
呂布は不気味な笑みを浮かべると抑えていたものを開放したかのように鋭く重たい攻撃を繰り出した。
「こ、こいつ化け物か?」
「化け物かもしれんな」
勢いを増す呂布に対して一瞬恐怖を覚えたが、気合いを入れ直した張飛も反撃に転じて一進一退の攻防を繰り広げた。
*****
郭図は二組の一騎打ちを見届けつつ北方へ逃げ去った劉備の姿を追い掛けていた。その姿もやがて見えなくなったので一騎打ちに視線を戻した。
「高順殿と呂布殿が上手くやってくれたお陰で劉備は網の中に追い込めた。張遼が逃げ道を塞いでいるから逃亡を図る事は不可能に近い。仮に公孫瓚が戻ってきたとしても李雛と曹性なら返り討ちにするはずだ」
「劉備という男、皇家の血を引いていると自称するだけあって得体のしれない雰囲気があった。世が世なら帝位に就いていたかもしれん。しかし劉弁様が居る以上、天に二日は不要だ。この地で引導を渡さなければ後顧の憂いとなるに違いない」
郭図が劉備の姿を見たのは候成と一騎打ちを行った一瞬だけだが関羽と張飛という強者を従えているのは皇家の血が成すところだと考えた。劉備が丁原の立場に居れば頼もしく心強い存在になっていたと思われるが、敵対勢力として現れたからには害を成す存在として始末しなければならない。
「あの二人なら大丈夫だろう。いや、大丈夫だ」
郭図は目の前で繰り広げられている一騎打ちに意識を戻しつつ候成と張遼が必ず始末してくれると信じて結果を待つ事にした。
*****
「公孫瓚殿はどこに消えたのだ?」
劉備は退却しつつ白馬義従と公孫瓚の姿を探したが一向に見つからなかった。道中の光景から白馬義従か本隊が幷州軍の奇襲を受けて退却したのは明らかだった。
「貴殿が劉備だな。待っていたぞ」
「誰だ?」
幽州軍が居るであろう方向から現れた者の姿を見て味方が探しに来たと一安心したものの陣中で見た事が無かったので一瞬にして不安になった。
「我は幷州の張遼。貴殿を討ち取る為に待っていた」
「どうやって背後に!?」
「間道を使った」
「間道…」
「戦いは二手三手先を読むのが常道」
劉備に向けた視線を外さず鉤鎌刀を握り直した張遼は退路を塞ぐように立ちはだかった。逃げ道が無くなった劉備は賭けに出る事にした。
「我々三人は公孫瓚の配下ではない。頼まれて戦っただけだ。敵意は無い!」
「…」
「幷州軍の強さに感服した。降伏するので末席に加えてほしい」
「…」
「関羽と張飛は説得して武器を下ろさせる」
「駄目だな。貴様のような奴が一番信用出来ん」
「私を斬るのか?」
「軍令だからな」
「斬れば幷州軍は滅びるぞ」
「何故だ?」
「私は中山靖王劉…」
劉備は続きを言えなかった。劉備の胸から戟の刃先が飛び出していたからである。張遼に気を取られて背後から迫っていた候成の存在に気付かなかった。
「中山靖王劉勝の末裔らしいな。だから何なのだ?」
「こ、皇家が…」
「心配するな。系統図から貴様の名前が消されるだけだ」
「そ…」
劉備は胸から大量の血を流しながら馬上で息絶えた。候成は劉備の亡骸を載せた馬の手綱を掴むと張遼に近付いた。
「済まん。お前の獲物を奪った形に」
「この男は候成殿の獲物でした。私が横から掠め取るわけには参りません」
「そう言って貰えると助かる」
候成は張遼に対して深々と頭を下げた。張遼は結果的に劉備を討ち取れたので候成の功績であっても素直に喜んだ。




