14話
苦虫を噛み潰したような表情のイリナは、軽くテーブルを叩いて不満を表現。
「んだよ。さっきから秘密ばっかりじゃねーか。全然埒が明かねーって。なぁ、ブリジット?」
一番楽しみにしていたはず。それを壊されて。言葉少なだけど、精神的にかなりきてるのでは、と発言権を渡す。文句、言ってやれっての。しかし。
「え、まぁ、そう……かな」
当の本人は曖昧な返し。ブリジットが話を聞いていなかった、というわけではもちろんない。ただ、それとは別に思うことがあって。
その返しにヴィズも引っかかりを感じた。
「? どうしたの?」
心ここにあらず、という風に、俯き加減でブリジットは脳内で音を再現。その曲は。
「……いや、オーロールさんの演奏を、思い出して。なにが本当かとか、そういうの、私にはわからないけど。でも、すごくよかったな、って」
「今ぁ?」
それはリサイタルの内容について。正体よりも奏でた音に興味を示していたようで、イリナも呆れた顔をする。
正反対にオーロールは含み笑いで和む。
「そっちもよかったよん。ショパンも泣いて喜んでる。なんていうか、挑戦的な感じで。あえて難しい曲にチャレンジしたみたいな。もっと保守的な演奏するか思ってたのに」
ショパニスト感たっぷりを予想していたし、実際にリサイタル中もソツのない丁寧な印象を受けた。素晴らしい演奏。しかしアンコールでは。『レント・コン・グラン・エスプレッシオーネ』では、強い感情を曝け出していた。そっちの方向でリサイタルももう一回聴きたい。どっちが上、とかじゃなく。
実際にブリジットは、それぞれの曲に深く潜った時、どう弾くことが自分らしさを出せるかを模索していた。ショパンの意志を踏襲して近づくか、それとも自分らしさを表現して離れるか。あまり音の強さを細かく指定しないショパン。踏み込める余地はあった。
フォルテをピアノに。ピアノをフォルテに。フォルテをフォルテッシモに。ピアノをピアニッシモに。自分なら。自分なら。飽くなき探究。終わらない。楽しい時間。




