015話 ニャんか、インタビューってより、尋問されてるみたい
『(逃げなきゃ!)』
がばっと起きると、そこはなんてことのない、自室のベッドの上だった。
『(夢でしたとか、そんな感じのやつ?)』
変な姿勢そのまま眠ってしまったから、変な夢を見たのか。そのままベッドの上に座り、あらためて自分の身体を確認してみる。とりあえずどこかがバラされたり、すりつぶされているようなことはないな。腕を振り回してみたり、ぐっぱーぐっぱー指を動かしてみたり、首を回してみたり、顔の周りをさすってみるが、とくになにかいじられたようなあともなさそうだ。
普段との違いは正直わからない、生き死にの境にいるわりに普通だなと思った。さっきまで普通に眠かったし、今こうしておなかも減ってるし、だすものだしたいと思っている自分がいる。
『(それにしても何時間くらい寝てたのだろう?)』
時計を確認しようと上体を動かすと、見慣れぬ白布が視界に入ってくる。
『(タオルなんてつかったっけ?いやこんなぺたぺたした布は?)』
よく見ると白布は中に何かがいて、呼吸をするように動いている。だらんと広がったはしのほうには、ぴこぴこと突起がふたつ動いている。そして黒のフェルトを貼り付けたような寝顔や寝息が貼りついていて、緩やかに動いている。リーサがベッドのとなりですやすやと寝息をたてていた。
『(あぁ、ほったらかしにしちゃったからな、寝てるのか)』
そうっと手を伸ばし、頭のあたりにふれると、やわらかい感触が心地よい。そのまま布の部分をきゅっとつかんでみる。今ならひっぺがして中身が確認できるか?ネコサンいってるけど絶対猫じゃないよね??
『(これ、ひょっとしてチャンスか?)』
一度つかんだのははずし、手をそのままスライドして、耳の間のところへするするとはこぶ。
(このままぎゅっとつかんですぽんとひっこぬけば!)
あと少しと思った次の瞬間、リーサのフェルトの目がぱちっと開いた。
「おはようございますニャ!」
(ぐぅぅぅぅ)
「おキャらだのほうもうまくうごいてくれてるみたいでよかったですニャ」
おなかのほうが返事をしてしまい、耳のあたりが熱くなるのを感じた。
『あ、あぁおはよう。戻ってすぐ寝ちゃったみたい、なんかゴメンね』
ごまかすようにあたまをナデナデすると、広がった布がだらんとのびる。
「ノットジンジャーなのー。パーリィはすごい疲れるから、慣れないうちは短時間でもヒーローコンバインになっちゃう、スゴイ人とかでも一日一時間くらいしか戦えニャいくらいだし~」
『そういうもんなんだ』
時刻は十一時を回ったところ、八時間ちかくぐっすり休んでいたことになる。たしかに普段ならこんなに長く爆睡はしない。目覚め自体は快適だが、ふたたびおなかのほうが執拗に催促をしてきていた。まずはこれをなんとかしなくてはならないな。
『いろいろ聞きたいとおもってたけど、とりあえずおなかはちゃんと減るんだね』
「もちろん。ミィのチカラでニャんとか生命を維持してるけど、ハートを動かしたり、身体をぽかぽかさせるにはちゃんとクウネルアソブが必要ニャの。”地獄が見えるようでは健康じゃニャい”です」
ところどころ言ってることがわからくなるが、なんとか意思疎通はできているな。
『えぇと、ネコサンはナニ食べるの?ネギとかダメなんだっけ??キャットフードとかネコカンとかって知ってる???』
まずは昼ごはんをつくって、話を聞くのはそのあとかな。
「食べニャくても平気だけど、せっかくだキャらこうして~」
だらんと広がった白布がしゅるっと近づき、身体をおおってくる。
出かけたときと同じ、”ネコミミ付きのパーカーの姿”だ。
「(これニャら感覚をシェアできて、味とかをたのしめるの、なんかおいしいのつくってほしいニャ)」
『(なるほど、じゃちゃちゃっと用意するよ~)』
だいぶ頭もすっきりしてきた。そのまま寝て散らかっている周辺はそのままに、置いておいたお茶を一口飲んでから台所へ向かう。
「(うまいニャ!ショウはすごい料理上手なんだニャ!!)」
サバの味噌煮缶にひと手間をかけてつくった和風スパゲティと野菜ジュース。親が忙しい時に作って、そのまま定番料理のひとつになった料理だ。玉ねぎもいれているし、味付けは強めだが、ネコサン的に問題はないらしい。手ばなしのほめちぎりは、家族につくったときと似た気恥ずかしさがある。
(でもまぁ、悪い気はしないよな)
心なしかフォークを持つ手に力が加わり、ほどなく皿はカラになった。身体は動いているようだから、こうしてとった栄養もきっと身体を治したり動かしたりのチカラになってくれるはず、そう思いたい。
食後にひとしきり落ち着き、片づけを済ませたあと、合体状態は解除してテーブルごしにリーサと向かい合う。ミルクとコーヒーを置いて、お茶うけにかつおぶしを置いてみる。
『とりあえず落ち着いたけど、このあとまた別の”パーリィ”におよばれしたりするの?』
今はまだ学校がはじまる前だが、こんなのが続くようだと、生存はともかく学業が大変なことになってしまう。
「一回お呼ばれしてるから、今日とかはたぶん大丈夫ニャの」
テーブル向こうのリーサは、小さい身体をクッションの多段重ねでだるまおとしみたいな状態になっているが、しっかり安定はしているようだ。
『それなら、これからいろいろインタビューさせてほしいな』
大学ノートの一冊目を広げ、ネコサンに向き合う。
「ニ、ニャんか、インタビューってより、尋問されてるみたいだニャ。でもいいのかニャ。そのノートって学校で使うんじゃニャいの?」
フェルトの目のあたりが若干ジト目ぎみになっている。
『まあ、命に関わるって点で、今のオレには大学の講義よりも重要なんだよなぁ。まあ頼むよ』
結局少しずつ話を聞いてはノートにとってゆく形で、ほどなくノートのページが埋まるくらいのメモはできあがっていった。




