013話 かえりみち
ヘッドセットを外すと、つける前と同じコンビニのトイレの景色がとびこんでくる。実際は一歩も移動していなかったわけだが、なんとなく戻ってきたような気分になる。
鏡を通して全身を見るが、見た目ではとくに異常はないようにみえる。服が破けていたり、血が出ていたり、ネコミミがしおれたりといった変化は見られない。
『(もう帰って平気っていうなら、さっさと帰らせてもらおう。変な時間だし)』
無造作にヘッドセットをバックパックにおしこみ、いちおう水を流して外に出る。トイレだけ借りてさよならってわけにもいかないから、ドリンクの棚をのぞいて、エナジードリンクを一本取り出す。
「二百五円です。袋はいりますかー?」
店員は生気のない顔で形式的な言葉を発する。私が出て行ったら、またスマホか携帯ゲーム機でもいじりだすんじゃなかろうか。
『あ、いらないです、だいじょうぶです。ありがとうございました!』
派手な色の缶もバックパックにするっとおしこみ、コンビニをあとにする。まぁ、今じゃなくて、あとで必要な時にでも飲めばいいだろう。
『(とりあえず、今回の”パーリィ”とやらは終わりでいいんだよね?)』
コンビニからの帰り道、クールダウン気味にゆっくり歩きながら、心の中でリーサに問いかけてみる。
「(ハイですニャ、だいたいさっきのように目的を達成したらパーリィは終了ニャ)」
外見上はパーカーに擬態して貼りついている状態だが、こうやって対話をすることは可能だ。ぶつぶつつぶやく必要があったら通報ものだが話しかけるつもりで思えば伝わるというのはなかなか便利に感じる。
『(まぁ、ああいうやばいのが日常の隅に潜んでいるってことはわかったけさ。でももしあのままあの赤黒いかたまりにゲージ全部をやられてたら、どうなってたの?)』
あの”赤黒く脈打つかたまり”が敵の姿で、あんなのが頻繁に発生しては、こちらの人間を引きずり込もうとしているというのだろうか。
「(刺されたところから二次元に浸蝕され、ぺらっぺらの二次元世界に引きずり込まれ、二度と戻ってこれない状態になっていたニャ。そのあとコンビニの店員さんも無抵抗で同じ目にあっちゃう感じ。発生した歪みはそこまで長い時間維持されニャいから、今回はそのくらいの被害に落ちついたんじゃニャいかと。ま、そう遠くないうちに次の襲撃が発生するから、その先の計算は趣味でもなキャしニャいの)」
いきなりゲームオーバーの可能性もあったわけだ。いちおう回復はしてくれているし、結果勝ったから問題ないとはいえ、行方不明者二名のバッドエンドと隣り合わせだったことを思うと、背筋がぞくぞくしてくる。
『(ひきずりこまれて、戻ってこれない?)』
いちおう向こう側、二次元の世界にさらわれる扱いなのか。そんな甘いものじゃないと思いつつ、異世界転移とかそういった言葉が脳裏をよぎる。
「(だいたい、ぺらっぺらの二次元の存在に墜とされちゃって、その時発生するエネルギー的なものは引きずり下ろした相手がもってっちゃう感じ、そこから助かったって事例はほぼニャいです)」
拉致、というより喰われるイメージに近いな。”ほぼない”は、”わずかならある”の裏返しだが、正直助かるイメージがうかばない。
『(そうなったら、二次元世界の人として生きなければならなくなっちゃうかんじ?)』
チートスキルのような恩恵もなく、ただ力を奪われて放り出されて、それでもなんとか生き続けることはできるのだろうか。
「(その世界も、開いて閉じてでいつまで残っているかわからなくなっちゃうから、被害者のやられ損みたいなとこがあるニャ。そうやって失われたエネルギーがどこに行ってるかもわかってニャいの)」
あぁそうか、そういえばそんな話があったな。割と救いがない、パーリィってよりはデスゲームといったほうがいいようなしろものだな。
『(なんにせよ命がけなんだな。まぁ世界の危機とか言ってるくらいだからそれはもう仕方がないか。オレ自身の命が現在進行形でヤヴァいんだし)』
「(まーそーねー。協力してくれニャいと助けることも難しくニャってくるし。でもほら、今回の危機は、発生した異常進化個体ごと吹き飛ばすことで、ニャんとか回避できたんだニャ。そこはショウのおかげ、まずは胸はってよいとこニャの)」
『(まぁ自分が生きるためってのが先にきてるけどな~)』
「(ついででもニャんでも、いいことしたのにかわりはニャいの)」
『(生き返るついでで世界とかを救うパーリィに参加してけばよいってわけか)』
「(ま、だいたいそんなかんじで~)」
深夜の帰り道はまだ肌寒く、照らすあかりも少ないからほぼ真っ暗だ。それでもまぁ、そこに道があるなら人は歩んでゆくものだ。ちょっと忙しい大学生活になりそうだが、それも悪くはないかもないかもな。
「今回のパーリィは終了しました。次回開催は、またあらためてご連絡させていただきます」
帰ってから確認のため、再度ヘッドセットをつけてみたが、モノクロの画面に同じアナウンスが繰り返されるだけだった。声質は案内してくれていた声と同じだが、こちらは自動再生っぽいな。
『(その”次回”がいつになるかわからないってのは、キッツいなぁ)』
おちついて時計をみたらもう三時半、まだ学校は始まっていないし、エナジードリンクを飲んでまで起きつづける必要もないだろう。冷蔵庫をあけ、入れ替えでお茶のペットボトルを取り出す。
『(直撃だったとしても、一撃でピンチってのは、ちょっとバランス悪いよなぁ』
ヘッドセットを無造作にテーブルに置き、他のパーツもがちゃがちゃと置く。。
『(それにしてもなんで”パーリィ”なのか、あぁいうのはミッションとか指令、クエストとかそういう呼び方なんじゃないの?)』
お茶を一口だけ飲んで、それもテーブルの上に置く。そしてそのままベッドに倒れこみ、あおむけのまま天井を見つめる。
『(あんなんでも、命がけの闘いなんだよな。ゲーム感覚といっても、半ば強制のデスゲームというのはちょっとなぁ)』
あぁ、目周りが急にしょぼしょぼしてきた。思ったより目にクるな。でもまぁとりあえず、シャワーくらい浴びておいたほうがよいよな。喰らった攻撃がどんな影響があるかは知らないが、心情的に全身を洗っておきたい気分だ。そして、そのあとリーサにはいろいろと聞いておこう。講義とは別にノートが必要になるかもな。
いろいろ考えようとするが、頭が働かなくなってきているのを感じる。ほっとしたせいかひどくけだるい。
『寝てる場合じゃ、ないのになぁ』
ほとんど気絶や失神に近い状態で、意識がすぅっと遠のいていった。




