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どちらかが馬鹿 13


それからどのくらい時間が経ったのかは分からない。ただずっと黙っていた真野がぼそりと「帰ろう」と言った瞬間、全身から力が抜けた。御影の手首を握りしめていた手からも。

のろのろと店を出る。いつの間にか、空は暗くなっていた。どのくらい、ああしていたのか。

自分の手のひらを見やる。力を入れすぎて血の気が失せ、青くなった手。強張るそれをゆっくりとのばすと、少しずつ血が巡りはじめるのが分かる。

「二人で大丈夫か」

「大丈夫です」

静かに御影が答えた。真野にあいさつし、自分に振り返る。

「帰ろう。ともりくん」

「…ん」

力なく。返すと、まだぎこちなく強張ったままの右手を、今度は御影が掴んだ。ふわりと風のようにやわらかく攫い、ゆるく手首を握られる。そっと引かれた。従うようにして、歩き出す。帰る道を。

「…中学時代綾瀬さんがあそこのお店によく来てたなら、中学以外でも蕪木くんに会う機会はあったみたいだね。…学校でだと同級生の目を気にして話しかけらなかった相手にも、学校の外のあそこならもう少し気軽に話しかけられたかもしらない。蕪木くんから話しかけたかもしれない。原因はともりくんじゃなく、蕪木くんだった」

「……」

「そこの関係で、恐らく、何かがあった。…もしかしたら、綾瀬さんが外部受験した理由もそこにあるのかな」

つい、と、

自分の手首を引く御影の腕を、逆に引いた。

立ち止まった御影が振り返る。手を上げ、その細い腕を掴んだ。袖口を捲る。

真っ赤に残った痕。くっきりと指の形を持ったそれ。

痛みというものが、どういうものなのか。自分が一番よく知っているはずなのに。

無我夢中で縋り付き

しがみ付くようにして耐えることしか出来なかった。

「…ごめん」

小さく呟く。自分でも思っていた以上に声は掠れていて弱々しかった。

「ごめん。痛かった、だろ。…何があったにしろ、俺が原因だったんだーーー御影じゃない。巻き込まれただけだ。…なのに、こんな、」

「真っ直ぐ走るだけなのにね」

御影が笑った。困ったように、少しだけ、嘆くように。

「ただ真っ直ぐ走るだけのことなんだ。そうしていればいいはずなんだ。ーーーそれだけのことなのに、なんでだろう、こんなにも難しい」

何について言っているのか。…全部について、言っている気がした。

「痛くないよ。気にしないでいい。気にすることじゃない。こんなこと、本当、どうでもいいんだ。

ただ辛くて、きつくて、脇道に逸れて転んでばっかりで、…それだけのことだよ。たった、それだけのはずなんだよ」

たった、それだけ。

それだけのはずなのに、こうも心細くて、生き辛い。

「心配してくれてありがとう。走って来てくれて、ありがとう。そうだね、君にここまで心配をかけ続けるのは嫌だからーーー何でもやろう。どんな手でも、使おう」

いつか自分が言った言葉をなぞり、彼女は微笑んだ。

「…何する気?」

「内緒」

ふは、と、幼い子供のように彼女は笑った。


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