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どちらかが馬鹿 12


「お前が双子ねえ」

合流した真野がなんとも言えない顔付きでぼやきながらアイスコーヒーを掻き回す。ガムシロップとポーションを落としただけのそれ。御影なら絶対に飲めないそれ。

「お前がどうこうって話じゃなくて、昔お前の双子の兄と何か揉めた人間が、その兄のことをお前だと勘違いして嫌がらせをしているかもしれない、と? 可能性的には十分高いんだろうけど、双子なら学校で話題になるだろ」

「…高校別々だから」

「中学とか」

「中学も別々。あっちが私立に行って、俺は公立」

真野が黙った。渋面を作り、何ともコメントし難いもいうような空気を生む。

「…片割れくんは、どんな性格をしてるの?」

家に引き継ぎホットの紅茶を注文した御影が隣で首を傾げる。

「ともりくんとはやっぱり違うんでしょう?」

その言葉になんとなく、ゆるく呼吸が止まった。どくん、と胸が鳴る。

「…さあ。あんまり仲良くないから」

「誰かと揉めそうなタイプなのか」

「…可能性は低くない」

「…この顔が二つなあ。兄が女誑しの可能性は十分ありそうな気がするけど」

苦笑いし損ねた真野を見てため息を吐いた。おもしろくもなんともない。

外せない用事があるという三木とは別れ(三木は相当渋ったが御影が説得した)、真野と合流し綾瀬の家の最寄駅のコーヒーショップに来ていた。どこの駅でもよく見かけるようなチェーン店で、空席もあるが程よく混み合っている。林場に連絡して聞いた、綾瀬の上方だった。

『クラスの女子にメールして聞いたけど、中学までは私立だったらしいよ。中高一貫だったのに他校の高校受験したんだってさ』

学校名も書いてあった。光の行っていた中学の名前が。光はそのまま内部進学しているが。

『性格は昔から大人しかったらしいけど、昔は友達とよく駅前のコーヒーショップに来てたらしい』

ここに来たからと言って、綾瀬が来るとは限らない。そもそも自分たちが今何を探っているのかも。でもじっとしていることは出来ず、とにかく行ってみようとの思いでやって来た。

隣に座っていた御影が立ち上がった。

「ばらけて座っとこうか。ともりくんと真野さんはここにいて」

「え、なんでだよ」

「だって当事者のともりくんと私が一緒にいたらあんまりよくないかなあって」

仮に綾瀬さんが来たら困るでしょう? と首を傾げられ、とりあえず真野は納得したようだった。

「だからともりくんは出来るだけ目立たないようにしてて。はいこれ」

想定していたのかポケットから黒いニット帽を取り出すとぎゅうっとかぶせてきた。視界を覆うそれをずらし、まあ確かにと髪だけ隠すようにしてかぶる。金髪が目立つご時世とは言わないが、まあ特徴的ではある。

じゃあ、と言い置いて御影は少し離れた席にひとりで座った。髪をサイドでゆるくまとめ、黒縁の眼鏡をかける。小手先の変装だったが、それでもぱっと見別人のように見えた。

「何事にも一生懸命って、ああいうとこ?」

訊ねると真野は睨んで来た。気にせず返答を待つと、ややあって大きくため息を吐かれる。

「お前といるとため息ばっかだ。そうだよ」

「俺っていうよりあの女二人もなかなかだと思うけど」

「…まあな」

くしゅん、と御影がくしゃみした。三木もきっとしているだろう。

「…あんた御影たちのクラスメイトに会ったことある?」

「何人かは。まあ、個性的だな。男女仲が良くて、けど誰もクラス内で付き合ってないって言ってたな。驚いたよ」

「ふうん。…三木さんとは特に仲がいいのか」

「そうだな。しょっちゅう二人で出かけてるみたいだしーーー御影は車運転出来るしな。三木も安全だろ」

「安全、て?」

「気付いてないのか。三木の片眼は義眼だよ。完全に視力がゼロの状態だ。片眼だけの視界だから、通常より狭いんだよ。人ごみの中とか歩く時は、あの二人いつも腕組んでる」

初耳だった。だって、三木はカメラマンーーーいや、片眼だけあればファインダーは覗ける。そういうことか。

「御影が隣にいるとあいつは自由自在に動き回れる。三木がいると御影はずっと笑いながら戦える。そういう二人なんだよ、あいつらは。きっとずっとそうだ」

「…ふうん…」

そんな三木も、知らない。

あの日何故御影が泣いていたのかをーーー落ちていく御影が、うれしそうな顔をしていたことを。

まるでーーー死を望むかのように。

御影を見やる。小腹が減ったのか追加でアップルパイらしきものを注文していた。フォークで削り口に入れ、ふわっと笑う。ひとりでも問題なく楽しそうな女だった。

なんとなくもやもやしたものを抱えつつ、自分もアイスティーを飲んだ。どのくらい待てば成果が出るのか。未知の領域過ぎて分からない。

ーーーと。その時。

何かに引っ張られるような心地で、顔を上げた。

自然と視線がそちらを向くーーー自動ドア。

何も気負わず、ごくごく普通に入ってくるひとりの人間。

どくん。耳の中で、嫌な音がする。

鏡を見ているんじゃないかというくらいそっくりな歩き方。微かに聞こえるオーダーの声は嫌というほど聞き飽きた声。財布から硬貨を摘まみ出す自分の指。

耳鳴りがする。真野が何か言っているようだが何も聞こえず、背中を冷たい汗が伝い、ほとんど消えかけている痣が痛みを思い出す。身体中に。溢れ出す。喉元を込み上げて来るのは焦がすような吐き気。気持ちが悪い。

ーーー怖い。気持ちが、悪い。

しにたく、なる。ーーーと。

ふわりと、自分の隣に誰かが座った。

寄り添うように。ーーー守るように。

いつもと違う髪型。パソコンをいじる時にしかかけないPC用の眼鏡。黒目がちな目はこちらを見ない。ただ、自分と良く似た別人から隠すように隣に並び、ぎりぎり触れないくらい近い位置から体温を伝えてくる。

自分の手の横に置かれた手を、強く握った。強く強く。折れそうな、華奢な手首を。

死にたくなる。死にたくなる。ーーー何かが自分を引き摺り込まないように、しがみ付くように。

御影は何も言わなかった。何も言葉をかけず、身じろぎひとつしなかった。

痛むはずの手を振り払うことも、しなかった。


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