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ラジオネーム 泡なしビール

 枕もとのスマホが振動している。間違い電話とも思ったがこの時間だとおそらくそうだ。頭まで布団をかぶっているのでスマホのバイブ音しか聞こえない。さっき決心をつけたばかりなのにまだ悩んでいる。こういうところが嫌になる。だがもうここまできたのだ。後に引けない。布団から手を伸ばした。

『恐れ入ります。FM Blendsの鈴木です。こちら××〇〇さんのお電話でお間違いないでしょうか?』

 一瞬悩んだが、

「はい」

 鈴木はほっとした様子で、

『ありがとうございます。talking planetの相談者に選ばれましたので、今かかってる曲の後に太田さんとつなぐのでこのままお待ちください。』

 段取りもあるのだろう。急いでる様子だったので観念して、

「分かりました」と覚悟を決めた。



『My Hair is Bad『歓声をさがして』に続いては、ハンブレッダーズ『フェイバリットソング』をお届けしました。ハンブレッダーズ、大阪の四人組バンドなんですけど、彼らの曲はあの頃の青春のモヤモヤや熱い気持ちを思い出させてくれますね。さて、太田ヒロトがお送りしているover the connection、今日最後の相談者とつながってます。こんばんは。ラジオネームお願いします』

「ラジオネーム、泡、無しビールです。よろしくお願いします」

『泡無しビールさん、ちょっと緊張してますか?』

「はい」

『急に電話となると緊張しますよね。でもリラックスして話してください』

「はい」

『いつもこの番組は聞いてるんですか?』

「はい。欠かさず聞いてます。」

『ありがとうございます。ちなみにどういうきっかけで聞いてくれたんですか?』

「親が聞いてたので」

『そうなんですね、親子で聞いてくれてありがとうございます。これからもよろしくお願いします。さて、泡無しビールさん、今回のお悩みをお願いします』

「はい。えーと、今、フリーターなんですけど、将来に不安というかどうしたらいいかなと思ってて……」

『そうなんですね。確かに不安感じますよね。ちなみに泡なしビールさんは今何のバイトしてるんですか?』

「居酒屋でバイトしてて、時々日雇いのバイトもする感じです」

『それでラジオネーム泡なしビールなんですね』

「そうです。(笑)」

『泡なしビールさんはお酒は飲むんですか?』

「飲まないですね」

『そうなんですね(笑)。居酒屋のバイトは長いんですか?』

「そうですね。四年くらい働いてますね」

『すごいじゃないですか』

「まあバイトですし」

『いやいや、バイトとか関係なく続けることはすごいことです。でも、確かに不安を感じるのは分かりますね』

「はい。このままでいいのかなって」

『んーん、じゃあストレートに聞きますが、泡なしビールさんは今の生活に満足していますか?』

「うーん、満足はしてないですね」

『今のフリーターの生活から変わりたいって感じですか?』

「うーん、分からないです」

『そうなんですね。やっぱり将来のことっていろいろ考えますよね。フリーターを肯定するわけではないけど、僕は就職が全てではないと思いますね。もちろん自立することは大切ですけどその方法はフリーターでも正社員でも何でもいいと思います』

「はいーー」

『まだ不安に感じますか?』

「そうですね。周りにどう思われているのかなって気になります」

『確かに他人にどう思われているか。気になりますよね。でもそういう時、僕は「誰が決めたん」って考えるようにしてるんですよ』

「はい?」

『二十歳そこそこで就職して働かないといけないって、誰が決めたん。自分の人生だから他人の意見を介入させなくていいんです』

「はい。でも、やっぱり三十になったんで、気になりますね」

『年齢ね。確かに年齢のことって考えますよね。よく言いますもんね。』

「はい」

『でも僕の考えですけど、年齢っていう概念なくなってほしいんですよね』

「概念ですか?」

『そう。年齢があることで、色んなことに挑戦する枷になってる気がするんですよね。年を重ねるごとに変なプライドができたりして、あいつは年下だし、年上だしみたいな一つの基準になっちゃうじゃないですか?』

「あーー。確かに」

『それで失敗できないとか思っちゃって、負けたくないじゃなくて負けられないって思うようになる気がするんですよね』

「分かります」

『だから年齢のことは気にしなくてもいいですよ。自分の意志であったり気持ちを大事にしてほしいですね』

「はい……」

『そう言われても難しいですよね。一曲お届けして考えましょうか? ポルノグラフィティ『幸せについて本気出して考えてみた 』


 ポルノグラフィティ『幸せについて本気出して考えてみた』


 僕がかつて小僧の頃 イメージした壮大な

 人生プランからは多少見劣りはする

 案外普通だし 常識的な これまでだ

 それはそれなりに そう悪くはないのさ


 そのプランなら 今頃じゃ マイケル的生活で

 世界をまたにかけて いたはずなんだけれど

 現実はすまし顔で クルクル時計を回す

 そっちがその気ならと 好きな事してきたし


 あぁ それとなく流れていく日々のそこかしこに

 あぁ 君がいて 次々と溢れる気持ちを胸に


 幸せについて本気出して考えてみたら

 いつでも同じ所に行きつくのさ

 君も幸せについて考えてみてよ

 後で答え合わせしよう

 少しはあってるかなぁ?


 つまんない事 嬉しい事 繰り返して結局

 トータルで半分になるってよく聞くじゃない?

 そんな淋しい事 言うなよって感じだどうにか

 勝ち越してみたい 密かに全勝狙い


 あぁ 誰だってそれなりに人生を頑張ってる

 あぁ 時々はその「それなり」さえも誉めてほしい


 幸せについて本気出して考えてみたら

 意外になくはないんだと気が付いた

 僕は幸せに対して失礼だったみたい

 もう一度丁寧に感じて

 拾って集めてみよう


 がっかりしたかい 小僧の僕 マイケルにはなれなかった

 あぁ ただ僕は大好きな幸せの種を手に入れた


 幸せについて本気出して考えてみたら

 いつでも同じ所に行きつくのさ

 君も幸せについて考えてみてよ

 僕の姿は浮かんでる?

 いつまでも消えないように


『ポルノグラフィティ『幸せについて本気出して考えてみた』お届けしました。引き続き、泡なしビールさんとお話していきたいと思います』

「よろしくお願いします」

『お願いします。泡なしビールさんは、ちなみに何かやりたいこととかあるんですか?』

「うーん、ないですね。でも何かしないとって思っています」

『色々考えますよね。何か新しいことを始めるのって怖いところありますしね』

「そうですね。新しい環境に慣れることができるか不安ですね。今までも親に言われてとか友達が行くからとかで学校とか選んできたんで、これでこのままでいいのかなって思ってフリーターになったんです」

『そうなんですね。でも、フリーターってことを選んだんじゃないですか。そこをもっと自信を持ってほしいです』

「えっ?」

『今、こうやってバイトして生活している。すごいですよ』

「いやバイトですし」

『いやいや働いてるっていう点では、正規も非正規も同じです。自分に自信を持つって言われると難しいかもしれませんが、もっと自分を褒めてください。今日もちゃんと働いてえらい。朝起きれてえらいって感じで』

「それだけでですか?」

『いやいやこれだけでも立派ですよ。もちろん、人から褒められる、認められるっていう経験も大事ですけどそういうこと多くないじゃないですか?』

「そうですね」

『だから自分を褒めて、自分はできるって暗示をかけるんですよ』

「はい」

『とはいっても、確かにこれから新しいことにチャレンジするのって失敗したらとか自分に向いて無かったらとか思いますよね』

「はい。すごく不安に思います」

『うーん、そうですね。やってみないと分からない部分もありますからね、自分に合わなかったら辞めてもいい、逃げてもいいって思っていいと思いますよ。何か一つの道を選んだとしてもそれが全てじゃないですから。何回も方向転換してもいいから、人の目とかも気になると思いますけど泡なしビールさんの気持ちを、本心を大事にしてほしいですね』

「はい……」

『将来について、色々悩むことあると思いますけど意外と大丈夫ですよ』

「本当ですか?」

『うん。泡なしビールさんは今の生活に満足していないって仰ってますけど、仕事で埋め合わせる必要はないと思いますよ。それが全てじゃないですから。なんだっていいです。もっと広い目で自分の生活を見て、自分の満足する方向へ向かってほしいですね』

「分かりました」

『もしかしたら年齢のことで焦っているかもしれませんけど、ゆっくりでいいんです。今すぐじゃなくてのんびりとマイペースに、やってみて無理だったら切り替えてまたやってみる。一歩動いてみたら自動的に二歩目、三歩目も動き出しますしね』

「ありがとうございます」

『どうですか。ちょっとは楽になれましたか?』

「そうですね。なんか考えすぎていた気がします」

『僕は泡なしビールさんがどういう道を選んでも応援しますから』

「ありがとうございます」

『だから今までの過去を後悔しないでほしいです。あの時こうしてればとか分かるんですけど、それを選んでいなかったから今得られているものも絶対にありますから』

「はい」

『泡なしビールさん、大丈夫です。未来はいつもおもしろいから。最後にELLEGARDEN『ジターバグ』をお届けします。泡なしビールさん、ありがとうございました』

「ありがとうございました。」


 ELLEGARDEN 『ジターバグ』

 たった一つの事が今を迷わせてるんだ

 数え切れないほど無くしてまた拾い集めりゃいいさ


 遠回りする度に見えてきたこともあって

 早く着くことが全てと僕には思えなかったんだ

 間違ったことがいつか君を救うから

 数えきれないほど無くしてまた拾い集めりゃいいさ


 一切の情熱がかき消されそうなときには


 いつだって君の声がこの暗闇を切り裂いてくれてる

 いつかそんな言葉が僕の物になりますように

 そうなりますように


 たった一つの事が今を迷わせてるんだ

 誰を信じたらいいのか気づけば楽なのに

 初めっからずっと分かってたことがあって

 そのレールはまだ途中で途切れていたりするんだ


 一切の情熱がかき消されそうな時には


 いつだって君の声がこの暗闇を切り裂いてくれてる

 いつかそんな言葉が僕のものになりますように

 そうなりますように


 目を閉じて指先に意識を集めて

 確かめる足元


 一切の現実に飲み込まれそうな時には


 いつだって君の声がこの暗闇を切り裂いてくれてる

 いつかそんな言葉が僕の物になりますように

 そうなりますように


 正直、正解なんて分からない。再び布団にくるまって考える。不安や焦りが消えるわけではない。自分を好きになれたわけでもない。でも今すぐじゃなくていい。そう思うと少し軽くなった。まずは明日のバイトを乗り切ろう。


「ELLEGARDEN 『ジターバグ』お届けしました。本当に将来のこととか色々悩みますよね。周りからどう思われるかとか、イメージとか、固定観念とか気になりますよね。そういうときに僕が大事にしてるのが、『僕はそうは思わない』って言葉ですね。『そう』を強調するのがポイントです。この言葉、伊坂幸太郎さんの小説『逆ソクラテス』に出てくるんですけど、誰かの当たり前、誰かの常識、誰かの思い込みに引っ張られて、周りに流されるってこともあると思うんですけど、それで自分の本当の気持ちがうやむやになってぼやけてしまうことがあると思うんですよ。そういうときに僕はこの言葉大事にしてますね。

 あと、それが全てではないとも思うようにしてますね。実は僕たちって知らず知らずにすごく狭い見方になってるんですよ。仕事とか学校とか人間関係とかそれしかないって思っちゃうんですよ。もちろん大事なんですけど、それって本当に小さな世界なんですよ。ちょっと視野を広げるだけで結構見え方が変わってきますよ。

 さて、太田ヒロトがお送りしてきましたover the connection。リクエスト・メッセージありがとうございました。そして、お電話出ていただいた、おっとりカエルさん、ほうれん草うさぎさん、ダッシュガールさん、泡なしビールさん、ありがとうございました。今日も色々お話聞いてきましたけど、まあ忙しない毎日ですが、無理せず焦らずにマイペースにいきましょう。僕とはまた来週この時間にお会いしましょう。ここまでのお相手は太田ヒロトでした」


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