第7話 調教師からの評価
ムーンショール Couture Colors Twentyfour Kt Gold Guaranteed Gold
Brass Monkey
Yellow Diamond White N Gold
Kalis Sunshine
スカイショール アグネスフライト *サンデーサイレンス
アグネスフローラ
プレミアムショール *ノーザンテースト
マジックショール
現在二人の調教師に全ての馬を預ける事にしている。
一人は栗東の矢島調教師。もう一人は美浦の皆川調教師。どちらも調教助手上がりの人物で、調教師としては比較的若い。
他がどのようにしているかは知らないが、私は師である濱野さんのやり方を完全に踏襲している。例外はあるのだが、概ね牡馬を皆川先生、牝馬を矢島先生に預けている。これは三冠の初戦である桜花賞が阪神、皐月賞が中山で行われるため。
ただし、血統的に短い所しかダメそうなら牝馬でも皆川先生に預けているし、逆に長距離が主戦場になりそうなら矢島先生に預けている。
ただ、今年と来年は濱野さんの馬が追加になっているので頭数が多い。そこで濱野さんが生前お世話になっていた、美浦の三波調教師にも預託する事にした。そして例の『ムーンショール』も濱野さんの購入した馬という事で三波先生に預託する事にした。
馬主になったばかりの頃はよくお世話になっていたのだが、皆川先生が独立されてからは三波先生とはすっかりご無沙汰となってしまっている。一度挨拶に伺う必要があるだろう。
休みの調整をして、茨城県にある美浦トレーニングセンターへ足を運んだ。
右を向いても左を向いても馬、馬、馬。まさに馬の一大都市。
日なたのような干し草の匂いに混ざって、馬の落とし物の匂いがする。最初はこの動物園のような独特の匂いに若干の不快感を覚えるのだが、不思議なもので、しばらくすると何も感じなくなってくる。
「お久しぶりです、三波先生。随分とご無沙汰してしまいまして」
「おお、田安さん、お久しぶりですね!」
三波先生の笑顔は、どことなく生前の濱野さんを彷彿とさせる。がっちりと握手を交わし、三波先生は椅子に掛けるように促してくれた。
「先生の所から皆川先生が独立した時に、濱野さんに支援してやったらどうかと言われ、そこから皆川先生ばかりになってしまって。こちらにお邪魔するのは本当に久々です」
「たまにはこっちにも馬を回してくださいよ。歳は食っても腕が落ちたわけじゃありませんから、皆川よりは良い馬に仕上げてみせますよ」
「その言が本当かどうか、今回お預けする馬たちで見せてください」
言いながら預託する馬の資料を机に提出。それを三波先生は手に取り、一頭一頭じっくりと見ていった。
「濱野会長は単に高額の種牡馬を付けただけの馬というのを嫌っていたようでしてね。そういう血統の牝馬に少し主流から外れた馬をかけたような馬を好んでおったようです。ですが、そういう馬というのはとかく癖が強いのですよ」
「それは、気性難という事ですか?」
「そういう馬もいますよ。他にも操縦性が悪かったり、極端にゲートを嫌ったり。ですが、それを差し引いても、毎年これはという馬が一頭は含まれていましてね。毎年どんな馬を預けてくれるのか楽しみだったんですよ」
喋りながらも資料を見る手は休めず、資料は最後の一頭になった。
「これは……」
「濱野さんが『宝』と呼んでいた馬だそうです。奥様がそうおっしゃっていました」
「『宝』ですか……血統的に全く見るところの無いこの馬が。珍しい毛色ですからね。まあ考えようによっては、これで一勝を挙げられたら、かなり話題になるだろうなとは思いますが」
私にはよくわからないが、長年馬を見続けてきた三波先生には、『ムーンショール』がどの程度の馬か、この資料だけである程度の把握はできるらしい。
あまり良い顔をしなかった所を見ると、それほど期待はできないという事なのだろう。
「先生はどう思いますか? もちろん実物を見ない事には何とも言えないとは思いますが」
「どうですかねえ。まず父がブランドフォード系というだけで期待薄ですかね。大昔の芝生なんだか荒野なんだかわからない馬場ならまだしも、今のふかふかの高速馬場ではどう考えてもスピード不足感があるでしょう」
「では、主戦場はダートになりそうという事ですか?」
「写真の管(=人間でいう足の甲)はダート向きでは無いんですけどね。ですが、恐らくはそうなってくるのではないかと。それと調教してみない事には何とも言えませんが、もしかしたら仕上がりが遅いかもしれません。デビューは来年、下手すると夏以降という事も……」
『無事此れ名馬』などと言われるほど、かつては体の丈夫さは配合において重要であったらしい。だが近年は早熟性がかなり重視されている。
ところが『ムーンショール』はそんな近年の流行など完全に無視し、ただただ月毛を走らせたいというだけで生産された馬。それだけに活躍できる可能性は極めて低い。
それは覚悟していたのだが、調教師の先生の言葉はそんな覚悟を軽く笑い飛ばすくらい重かった。
「十五年前ですか。『シラユキヒメ』がここ美浦にやってきたのは。青鹿毛の『サンデーサイレンス』の産駒とはとても思えない真っ白な馬体でした。あの馬も結局は一勝もできませんでしたよ」
「それは、この馬にはさっさと見切りを付けて子供たちに期待した方が良いと言う事ですか?」
「いや、そうではないです。牝馬だからこの馬がダメでも次があると言いたいんです。『シラユキヒメ』だって『ユキチャン』を輩出してますからね」
確かに、血を繋げていけば、いつか花開く馬が出るかもしれない。ただ、それが月毛とは限らない。むしろそうでない可能性の方が高いだろう。だがその時に血統表には『ムーンショール』の名と『月毛』の文字が書き込まれるのだ。
血を絶やしさえしなければ、『ムーンショール』の名は日本の競馬史に残る。形となった濱野さんの夢として。
「期待しない方が良いという事はわかりました。ですが、先生もできる限り『ムーンショール』の力を引き出せるように、よろしくお願いします」
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