だべり
宮内白塔です。
先日の選抜大会沿岸ブロック予選の大熱戦の余韻が冷めやらぬ中、いよいよ来週に迫りましたTEAM Thailandとの試合に向けて僕たち国際教育大学附属国際高校ボクシング同好会も日々強化に努めています。
今度の試合なんですけれど、沿岸ブロックの各県から選抜されたメンバーがTEAM Thailandに駆り出されるわけですが、薙沢県の場合ですね、我が国教大附属しかボクシングやってる学校がありませんので、必然的に同好会メンバー全員が無条件で駆り出されることとなってます。
え?
『お前の実力で次から次へとチャンピオン級と試合したり、海外選手と試合して大丈夫なの?』
ほっといてくださいよ!
ちゃんと自覚はしてますから。
ただまあ周囲の選手層が薄いという以前に存在しないからこそ、僕のようなレベルでも上位の選手と対戦するチャンスに恵まれるわけでして、そう考えたら薙沢県の壊滅的な競技環境も悪いことばかりではないですね。
それにやばそうでしたら西木先生が即座に動いてくれますので、本当に安全第一信用第一で僕みたいなレベルの選手にとってはありがたい限りです。
思わずニヤニヤ。
まあ、それはともかく、土曜日の今日もがっつり練習後の昼下がり、ボクシング同好会のメンバー6人飽きもせずに揃いも揃って、薙沢県名物の23時で閉店するコンビニに集結しイートインコーナーで購入したそれぞれお好みの軽食をつまみながらダベってます。
てか、地御前くん?
コンビニのイートインコーナーでコンビニの商品を購入せずにランチバスケットを持ち込むのはどうなの?
え?
「忙しいのに帰ってきてくれたお姉ちゃんたちとお母さんが練習頑張ってる僕たちのために作ってくれたんだよ」
いや、だからって・・・・
あ、ヤバい・・・
これ以上突っ込むと信徳国体の時と同じ大惨事が起こりそう。
何かと言いますと、ざっくり説明しますと朝練をしていた地御前くんに地元の警官が絡んで地御前くんを小学生呼ばわりして連行しようとした結果、地御前くんにフルパワーで引っかかれて、警官5人が負傷した大事件でございます。
覚えてますか?
これ以外にも地御前くんには踏んではいけない地雷がありまして、特にお姉様たちのことが絡みますと、あの高南工業高校の絶対王者、梶川さんですら、手出しができない殺気を放ってきます。
そう!
すなわち地御前くんは相当に重症なシスコ・・・・
「・・・宮内くん、1人で何言ってるの?」
・・・ぎゃあぁあぁあ!
何でもございません!!
はぁはぁ・・・
はい、豪華なランチバスケット広げていただいても大丈夫です。
地御前くんの説得、他のみんなも協力してくれまして即席のトマトスープみたいなやつを購入してイートインを利用することになりました。
僕たちもそれぞれでパンを買ったり、スイーツを買ったり・・・井口くん、それ何?
「スタミナドリンクだけど?」
いや、なんか商品名がちょっとやばいんだけど・・・
『風流没鬼』
どう読むのか?
僕はあえて何も言いません!
とりあえずなんだかんだでお話ししながら過ごしてるんですけどね、やっぱり話題は直近に迫ったTEAM Thailandとの試合のこと。
とは言っても、TEAM Thailandに知り合いがいるメンバーがいるわけでもなく、相手がどんなスタイルで来るのかな、とかムエタイ上がりの選手も多いんだろうな、とかそんな話題に終始していたのですが
「そういえば井口ってUJ の時にThailandで試合したことね?」
客野くんに聞かれると井口くんはそっぽを向いて
「覚えてない」
の一言。
はい、これまでの例から察するに何かやらかしてますね?
UJの話になると、途端に口が重くなるし。
でもなんでまた急に客野くんもこの話振ったのかな?
「いや、Thailandと試合することティアナに連絡したらさ、来日する予定のTEAM Thailandの連中が騒ぎ出したらしいんだ」
なぜに?
「ティアナ、Thailandにもボクシング友達がいるらしくて、こないだ日本に来た時に俺らと一緒に写真撮ったじゃん?それ友達に送ったらなんか反応がすごかったって」
ほうほう?
「『อ๊าาาาา!! นั่นอิกุจิในรูปนี้ใช่ไหม!? ฉันต้องไปบอกทุกคนแล้ว!!』こんなメッセージが届いたってさ。翻訳してみたら・・・」
みたら?
「『ぎゃあぁあ!この写真に写ってるの井口じゃない!みんなに知らせなくちゃ!』だと」
「・・・客野、ティアナ経由でThailandの連中に伝えといてくれ。俺、今回は試合出ねえからって」
そうなんです。
今回、井口くんは試合しません。
この前の試合で相手に頭ぶつけられて左目の上を負傷してまして、それが完治するまでは大事を取るとのことです。
その分お手伝いの方頑張ってくれるそうで。
でも本当にThailandで何をやらかしたのやら?
それはともかく、あちらでは江波くんが買ったたくあんをつまみに熱いお茶をすすりながら銀山くんとThailandの重量級選手について、あれこれと想像を膨らませています。
「昔の動画で見たけど、タイのキックボクサーってみんなムキムキだよね。ヘビー級もあんな感じなのかな?」
「ミドル級のムエタイ選手は見たことあるけど、結構長身だった。あと、やっぱりハイガードの選手が多いんだろうな」
どうしても基準がムエタイ選手のイメージになってるみたいです。
僕もそうですけど。
「あんまり期待しない方がいいぞ」
井口くんがニンマリとして言いました。
「Thailandの連中は全体的に小柄だからな。日本に来ていたムエタイのミドル級王者とやらも
元々ライト級くらいだったのを水増ししてミドル級って言ってただけだし」
そこまで言って先ほどの怪しげなスタミナドリンクを一口。
「・・・うっ・・・エグい味だが、慣れたら癖に・・・あ、痛っ!」
「シャーッ!!」
あはは。
地御前くんのランチバスケットに手を伸ばして引っかかれてるよ。
「地御前なぁ、こないだもそうだったけど、独り占めしようとするんじゃねえよ!みんなにって作ってもらったんだろうが」
「フーッ!!」
「これ以上わがまま言うなら、お姉さんたちにクレーム入れるぞ!」
「・・・・むぅ~〜〜」
「てなわけで、口直しに1枚目お裾分け頂き!」
井口くんが地御前くんのバスケットから目玉焼きを1枚、ヒョイとつまみ上げ、パクリ!
「あ〜〜っ!僕の好きなやつ!!」
「塩加減が絶妙で癖になるな」
大騒ぎしてる地御前くんを笑顔で宥めながら江波くんが井口くんに訊ねます。
「ヘビー級はどんな感じなの?」
それに対する井口くんの答えは
「風船」
「は?」
ポカンとする江波くんに井口くんが続けます。
「丸くてぽよぽよ、まぁレベルも推して知るべし。まぁ江波ちゃんの敵じゃねえだろうけど、ヘビー級だけに一発あるからそれだけ注意だな」
井口くんの説明を聞いて得心顔を江波くんはしています。
「フムフム、ゴンサレスくんとやった時のつもりでやれば大丈夫かな?」
「対戦相手が気の毒な事になりそうだ・・・・」
額に冷や汗を浮かべて井口くんがつぶやいた後、僕はちょっと気になっていたことを思い出しました。
この前の試合で井口君とやった桑村産業の朴、選抜大会の本戦外されたって聞いたんだけど、それで代わりに行く選手の選考中だって話みんな知ってる?
「てか、俺のところには直接話があったぞ」
そりゃ、真っ先に井口君が候補に上がるだろうね。
「けど、西木先生の言うとおりことが全国大会だからな、万全の状態が見込めないのであればってことで断った」
傷口開いたらアウトだもんね。
じゃあ井口くん的には誰が行くべきだと思う?
「単純な実力でなら高さんかな?」
「井口に倒されてるとはいえ、普通にインハイでは優勝してるから強いのは違いないもんな」
客野くんもそう言って高さん推し。
「正直井口の相手したやつってことごとく倒されちまうから誤解を招きやすいけど、普通に強い相手ばかりだからな」
銀山くんはそう言いながら、また別の話をし始めました。
「そういえばThailandの試合来週だよな、次の日曜日」
そうだね。
「会場は結局、唐河中央高校に落ち着いたな」
「やりぃ!あそこのシャワールームめっちゃ豪華、快適空間だからまた使いたかったんだ」
客野くん、はしゃぎまくり。
「地御前は全国選抜前の、江波はシンガポール遠征前のちょっとした肩ならしと言ったところだな。もちろん俺たちもきっちり経験値稼がさせてもらう」
妙にニヒルな表情を浮かべて笑顔を見せる銀山くん。
何か心境に変化でもあったのかな?
すると井口くんが言いました。
「公式デビュー前から沿岸ブロックのあのレベルの中でさらされてたら、誰だって多少は人格に影響が出る。全く変わってないのはこいつぐらいだ」
視線の先にはランチバスケットを食べ終わって幸せそうにしている地御前くん。
あ、僕たちもちゃんとお裾分けしてもらってますよ。
井口くんみたいに無断で手を出そうとはしてませんので。
愛情たっぷりでとても美味しかったなあ。
これは地御前くんがとろける気持ちもよくわかります。
でもまあ、井口くんの言ってる僕たちの変化、確かにね。
地御前くんはボクシングに対する視点がいわゆるボクサーとは異なった立ち位置から見ているから変化に気づきにくいけど、僕や客野くん、江波くん、銀山くん、みんな最初の頃とは少しずつ色々変わってきてる。
でもね、一番変化の振り幅が大きいのはやっぱり井口くんだと僕は思う。
こんな感じで練習後、長々と僕たちのだべりはいつも続いているんです。




