審判謀議
準決勝戦が終わった日の夜、高南県の繁華街にある一軒のスナック。
そのボックス席に多満井穐比子はいた。
その周囲には取り巻きである平城山体育大学OBたち数名、
『多満井チルドレン』
などと陰で揶揄されている者たちである。
その顔ぶれの中には現在開催されている全国高等学校ボクシング選抜大会沿岸ブロック予選において、主審としてリングに立っている者も含まれていた。
「明日の決勝戦、お前たちどの試合に配置される予定だ?」
多満井に訊ねられた1人が憮然とした表情で答える。
「自分たちは完全にマークされています。少なくとも国教大附属の連中が絡んでる試合には主審副審とも・・・・」
「チッ!汚ねえ奴らだ。そこまでして、俺たちを排除したいのか!」
今回の大会、結局、多満井は試合会場への出入りを再び禁止されていた。
理由は国教大附属ボクシング同好会顧問の西木匠教諭に対する恫喝行為であり、どこかの第三者による提供ということで、音声による証拠がしっかりと抑えられていたのである。
かくなる上はと、国教大附属の選手が関わる試合、特に地御前と井口の試合に平城山体育大学OBが主審もしくは副審として関わり、痛い目を見せるつもりだったのだが・・・・
「前のキューバ戦以来、平城山体育大学OBというだけで審判員の配置構成が徹底的に調整されています」
「しかも沿岸ブロック連盟の審判委員長である黒木がしっかり目を光らせてますからね、どうにもなりませんや」
口々に言う取り巻きたちの話を聞いて不愉快そうに水割りを呷る多満井。
「強いて言うならライトウェルターの副審に1人平城山体育大学OBが入っていますけど、それこそ焼け石ですよ」
別の取り巻きがそう言ったところで、ふと多満井が訊ねる。
「主審は誰なんだ?」
「塩崎という若造ですよ。最近ライセンスを取ったばかりの新人です。C 級ですから、本来はブロック大会での主審の資格はないはずなんですがB 級育成のテストとして駆り出されたそうです」
「塩崎か?ふうむ」
何かしら心当たりがあったのか、多満井は薄く笑った。
そして取り巻きの1人、明日ライトウェルター級の決勝で副審を務める男に告げる。
「お膳立ては俺が今からしてやる。処分を食らう覚悟でしっかりやってくれ。沿岸ブロックなんてところのチンケな立場より日本連盟の方でいい仕事をさせてやるからな」
「先生、了解です。筋書きはこちらに任せてくださいね」
「桑村産業のガキどもにもしっかりと仕込みを入れとけよ」
「明日の試合に関しては朴にはしっかり空気を入れておきましたんで任せてください」
審判謀議は夜更けまで続き、多満井はスマホで誰かと何かを打ち合わせしていた。




