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Nice Fight!〜違う道が1つになって同じ夢を見ていた〜  作者: livingdead


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接触

西木匠(にしきたくみ)です。


いま、僕は高南県の高南工業高校に生徒を引率してきています。


明日から開催される全国高等学校ボクシング選抜大会沿岸ブロック予選に僕たち国際教育大学附属国際高校ボクシング同好会もエントリーしましたので、いよいよ本格的な高校生の大会に参加するというわけです。


最初はどうなることかと思っていましたが、まあそれらしくなってほっとしています。


素人顧問である僕に色々とご指導いただいた各県各チームの監督さんたちに感謝の気持ちを忘れないようにしたいですね。


さて、明日の試合前のリングチェックということで、生徒たちが会場の体育館に合宿所から降りてきて高南工業高校ボクシング部の岩倉先生に挨拶してますね。


僕も先ほど少しお話を聞かせていただきましたが、最近の沿岸ブロックは各県とも、言い方はちょっとあれですが下位勢力扱いだったチームが急激に力をつけてきてちょっとした混戦状態になってるそうでした。


そのきっかけと言うのが去年の夏に国教大附属ボクシング同好会(うち)と知り合い、夏休みの間、一緒に練習した薙沢県出身で他県の高校に進学し、ボクシングをやっている子たち。


彼らが夏休み後にそれぞれの学校での練習を再開。


僕たちの存在がいい意味で刺激になっていたらしく、これまでと練習内容も取り組み方もがらきと変わったみたいです。


こういった形で競技の底上げができて、それに少しでも役に立っていたというのであれば嬉しいことだと思います。


そんな思いにふけっていたら、リングチェックの前にうちの生徒たち何やらもめてますね?


キューバチームのティアナちゃんが客野くんに利用されてるとか、弄ばれた、とかどうとか・・・・?


まあ、大した内容ではなさそうですので、こちらの用事を先に済ませますか。


高南工業高校監督の岩倉先生から紹介したい人がいるからと言われてましたので。


ちょっと場所を変えて話したいということでしたので、体育館を出て廊下を歩いていると不意に声をかけられました。


「薙沢県の西木さんですよね。少しいいかい?」


大会関係者のようです。


試合会場でちょいちょい顔は見かけてますね。


どのようなご要件でしょうか?


「あんたを見かけたら呼ぶように言われてるんだよ。ついてきな」


・・・・随分な物言いと感じましたが、何かあった時の注意喚起も含めて状況を確認しようと思いました。


いいでしょう。


ただし、僕の方も別件がありますので、手短にお願いします。


連れて来られたのは体育館の目立たない一角にある倉庫前でした。


そこで待っていたのは紺色ストライプ柄の見るからに高級そうなスーツを着こなした40絡みの男性で、全身から香るオーデコロンの臭気がいささか辟易ものでした。


こういう匂いはちょっと苦手でして、どうもこの男性、半グレとか輩がそのまま年を取ったような空気感を漂わせています。


いずれにせよ、好ましいタイプの人物ではなさそうですね。


・・・なんだかあちらも僕のことを好ましく思ってないような目つきでジロジロ見てきています。


「素人集団を率いて調子に乗ってるお絵かき崩れの素人顧問とは、なるほど、これがそれか」


お、なかなかいい感じのご挨拶

をいただきました。


ははあ・・・・なんとなくこの人、誰だか分かってきましたよ。


ていうかよくこの会場に入れましたね。


確か沿岸ブロックではどこも出禁になってたはずだと思うのですが?


僕の言葉に、僕をここまで案内した取り巻きとおぼしき男が色をなして僕に言います。


「先生に対して失礼な口を聞くな!西木、お前などとは格もキャリアも全然違うお方なのだ」


そういうお方が初対面の人間に対してあの口の聞き方はないですよね?


僕たちは人に物を教える立場にいるということを常々自覚していないといけないんですよ。


人を呼びつけるにしても、まずは挨拶をきちんと覚えてからですね。


「・・・チッ!」


あ、舌打ちした。


「全く口も良く回るようだな。あんた、これまで人を散々コケにしておいて、よくそんな態度が取れるもんだ」


散々コケにしたも何も初対面でしょう?


わざわざ出禁の会場に入り込んで僕に絡むとか何がしたいんですか?


「出禁出禁とうるせえんだよ!俺はな今年から桑村産業高校の主任外部コーチとして学校からも委託されているんだ。特定の学校の指導者を会場から排除するなんてこと教育上、認められるわけねえだろ?」


その口の聞き方でよく


『教育上』


なんて言葉が出てきますね。


だから僕を呼びつけた目的は何ですか?


ただ、絡むためだけに呼ばれたのであれば、もう失礼させて欲しいんですけれど?


「思い知らせてやるってことを伝えたかっただけだよ」


ふうん?


「お前随分と沿岸ブロックの連中に媚び売って便宜を図ってもらってるらしいじゃないか?」


素人の指導者として、皆さんに教えを請うたまでのことです。


人に物を教える立場として当たり前のことをやってきただけですが?


「落書きの片手間にな指導してるなんてこと自体がなめてるとは思わないのか」


僕は美術教師ですから、教師の職務として美術を教えてるのは当たり前じゃないですか?


そして、たまたまボクシング同好会の顧問になったというだけの話です。


そしてやるからにはいい加減な指導をしたくないからこそ、周りに教えを請い、指導書を読みあさって競技規則や技術を研究しました。


もちろん素人がそれだけではうまくいかないことぐらい理解はしていましたが、入会してきた生徒たちにも恵まれたんでしょうね。


特にスポーツトレーニングに精通した客野くんがいたことは大きかったですね。


本当に全ての歯車がうまいこと噛み合って進んでいると思ってますよ。


「たまたまうまくいってるだけだろうが。井口をおだてて飼いならし、地御前みたいなふざけた選手を試合に出して、お前らのやってることは競技に対する冒涜だ!」


・・・・あのですね、僕たちのことを冒涜と言うのであれば、もう少ししっかりとした根拠を示してほしいと思います。


僕たちは少なくともボクシングを舐めているつもりは一切ありません。


むしろこんな難易度の高い競技の顧問を任せられた以上、適当な対応は絶対できないと腹をくくっていました。


・・・・もういいでしょうか?


これ以上お話をしてもどこまで行っても平行線ですし、時間の無駄としか思えません。


あなたが今後何をして僕たちにどのような仕打ちをするつもりかは知りませんが、例えそれがうまくいったとしても何が変わりますか?


周囲に対してのあなた達のイメージが下がるだけですよ。


それがわからないのであれば、実際に試してみればいいです。


僕たちは恥と思われるようなことは何もしていないと断言できますので。


全く・・・・桑村産業の生徒たちが不憫でなりません。


「・・・っ!・・・貴様・・・絵描き崩れの素人顧問の分際でよくそこまで俺に言えたもんだ。上等だ。望み通り潰してやるからな」


何をもって


『潰す』


なのか、意味が分かりかねますが、さっきも言いましたようにご自身の首を絞めるとわかっていて、されるのならご自由にどうぞ。


平城山体育大学(ならやまたいいくだいがく)の多満井穐比子(たまいときひこ)さん。


僕が背を向けてその場を離れた時、激情のままに倉庫の扉を殴りつける音と怒鳴り声が背中に向かって飛んできていました。


「なめやがって、この若造があ!」


はいはい。


さて、あんなのは放置して、さっさと体育館内の受付事務所らしきところに向かいましょう。


受付事務所に行きますと岩倉先生に信徳学院高校の相良先生と武領高校の佐竹先生、そして唐河中央高校の黒木先生。


もう1人この方も多分初対面と思われます。


この5人が待っていました。


「西木先生、紹介します。桑村産業高校ボクシング部の元監督で、この度高南県ボクシング連盟並びに沿岸ブロックボクシング連盟の高体連担当窓口としまして、専門部長に着任します市川寅雄(いちかわとらお)先生です」


岩倉先生に紹介されて市川先生が軽くお辞儀をされました。


「市川です。西木先生、そして国教大附属の活躍はかねがね耳目にしております」


これは恐れ入ります。


こちらにおられます先生方のご指導のおかげでなんとか形になっております。


国教大附属は高体連に加盟しておりませんので、特に色々とお手数をおかけすることになりますが、よろしくお願いいたします。


ところで市川先生、先ほど桑村産業高校ボクシング部の主任外部コーチと名乗る方に会ったのですが、お答えしにくいことであれば申し訳ございません。


市川先生は、あの多満井穐比子にはお会いしたことがあるのですか?


「・・・確かに答えにくいことですね。ですが、そういうわけにはいかないようですので」


市川先生はかなり複雑な表情になってます。


察するに、ボクシング部の監督を退くにあたってかなり色々なことがあったと思われます。


「多満井は大学時代の同期でしてね、自分はもうあの大学と関わり合いたくなかったから、同窓会とも OB 会とも関係を持っていなかったのですが・・・」


何らかの形で接触してしまい、現在に至るというわけですか?


「その通りです。多満井を筆頭にした平城山体育大学OBによる部活乗っ取りに直撃されてしまい・・・まあ責任の一端は自分にありますから、今更言ってもしょうがないことですが」


「市川先生、あれは事故みたいなもんだろう。気に病んでも仕方がない」


市川先生を気遣う岩倉先生に同意するかのように佐竹先生も


「多満井のいつものやり方ですからな。沿岸ブロックは一時期ひどいことになりかけていた。だからこそ、国体の時には出禁と言う思い切った措置が必要だったんです。そんなのに目をつけられた時点でああなってしまうことは市川先生の責任ではありませんよ」


と言いました。


「まぁ市川先生も今季限りで桑村産業高校自体退任するんですよね?」


黒木先生にそう聞かれて市川先生が頷きました。


「再就職先をどうしようかと考えてましたから、高南工業高校の事務職員という話をもらった時には本当に渡りに船でした」


なるほど、教職じゃなくて、事務職ならば高体連との窓口もやりやすいでしょうね。


競技指導経験者ならばなおさらです。


岩倉先生のファインプレーですね。


「ところで西木先生」


相良先生が僕の方に顔を向けて言いました。


「先ほど言っておられましたが、多満井がここに来ていたのですか?」


はい、おそらく多満井の取り巻きが引き込んだのでしょうね。


特定の学校関係の指導者を大会から排除するなんてあってはならない、みたいなことを強弁してましたね。


「西木先生ご自身も絡まれたのですか?」


聴かれますか?


実は多満井の取り巻きに誘導されてる時にスマホのボイスレコーダーアプリ起動させておきましたんで・・・・


あれ?


皆さんどうされたんですか?


ポカンとされてますけれど・・・・

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