対キューバジュニアチーム対抗戦・ライトフライ級 García(team Cuba)ー地御前栄代(薙沢県・国教大附属国際)
スラリとした長身痩躯のGarcíaと対峙した見るからに小柄な157cmの地御前。
相手側の赤コーナーにはほとんど目を向けず、セコンドの西木匠と小声で短く会話。
双方が頷き合ったところで、レフェリーにリング中央に呼び出され、グローブタッチをしてコーナーに戻ったところで第1ラウンド開始。
開始早々会場内、特にキューバ陣営が大きくどよめいた。
沿岸ブロックの面々はだいぶ慣れてきていたとはいえ、やはりあの地御前独特の構え、ハムスターが前足でひまわりの種を持っているようなスタイルには異質なものを感じさせられていた。
翻って、キューバ陣営はこの日本の小柄な少年が構える異質なボクシングスタイルに何やら本能的に危険なものを感じ取った様子で、リング上のGarcíaに何やら大声で指示を飛ばしている。
Garcíaは激しくステップを踏み、まさに高速な左ジャブを飛ばし、更に右を繋いで左フック、アッパーと、ひっきりなしに地御前に放っていく。
完全に早期決着狙いの動きである。
対して地御前は例によって棒立ちに見える状態から、上半身を揺らめかせてGarcíaが放ってくる攻撃をやり過ごし、たまにGarcíaが距離を詰めようとしてきた時に、危機感を煽るような鋭いパンチを返してそれ以上の接近を許さない。
そんな攻防が40秒ほど続いて、突如として異変が生じる。
Garcíaの表情が青褪めて憔悴が露わになった。
そう、Garcíaのこれまでの攻撃が、一発もクリーンヒットしていなかったのである。
ただの一発も・・・・
地御前はそんなGarcíaの心中を見透かしたかのように上半身ゆらゆら揺らしながらリング上をサークリングするGarcíaの退路を断ちにかかった。
ポジショニングのためのフットワークが避難のための逃げ足となったGarcíaだが、それでもなお鋭いジャブを突いて地御前を突き放そうとする。
その左の引きに合わせて地御前は鋭い蹴り足で飛び込むや否や、左拳を縦拳のまま真下から突き上げ、それがGarcíaの顎先を襲った。
Garcíaもさすがで、かろうじてその拳をギリギリのスウェイバックで空転させたかに見えたが、そのまま地御前から飛び離れた時にGarcíaの右目下がみるみると腫れ上がり始めた。
ここで1ラウンド終了。
インターバル。
青コーナーでセコンドの西木匠が地御前に指示を出している。
「素体の筋肉の動きは見えてるようだね。そこからの動線も予想できている。次は待たずに自分から動いて相手の動線を断ち切ってみよう」
とてもボクシングの試合で出すとは思えない指示である。
サブセコンドについている護山蒼次郎は西木の指示を聞いて、額から冷や汗をどっと流していた。
2ラウンド目。
セコンドに気合いを入れられて赤コーナーから飛び出してきたGarcíaが、やや強気を取り戻して鋭いステップを使い出入りを加速。
それに伴ってジャブやワンツーを繰り出し攻勢を印象付けにかかる。
だが地御前は上半身の動きだけでGarcíaのジャブやワン・ツーをやり過ごすや否や、突如としてサウスポーにスイッチ。
そこに飛んできたGarcíaの左フックを右方向に倒れ込む奇妙なスウェイバックで外すと同時に1ラウンド終了間際に見せた左アッパーと同じタイミングで右拳を縦拳のまま突き上げ、今度は見事にGarcíaの鼻柱を捕らえた。
鼻から出血を見たGarcíaは、たまらず地御前にクリンチ。
レフェリーは両者を引き離しGarcíaに注意。
この間、ずっと落ち着き払った静かな表情でGarcíaに対峙する地御前は、強い攻勢をかけることなくフットワークを駆使して必死にエスケープを測るGarcíaの退路を断つ
『作業』
に専念して2ラウンドを終了。
今日この後、バンタム級で試合が予定されている高南工業高校ボクシング部2年、先の信徳国体バンタム級チャンピオンである梶川元貴もウォーミングアップをしながら、試合の様子を見ていたが
「えげつなさがパワーアップしとる・・・・」
とつぶやき呆然。
3ラウンド開始。
自分のスタイルをかなぐり捨ててGarcíaはハイガードに構えて強引な打ち合いを仕掛けてきた。
地御前はGarcíaの粗粗しいパンチを軒並み空転させながら、かなりライトタッチにGarcíaのボディ、顔面問わずショートパンチを突き刺していく。
まるで相手を倒すことよりも、自分自身の研究を確認、検証しているかのような動きとも取れる。
Garcíaは鼻からの出血と地御前の主に下から突き上げてくるアッパー気味の縦拳によって両目の下がどす黒く腫れ上がり凄惨な様相。
この状況がラウンド間を通して続き最終ラウンドが終わった。
この時点で勝敗の行方は誰の目にも明らかだった・・・・はずなのだが・・・・
「ただいまの競技の結果をお伝えします。3ー2のスプリットディシジョンによりまして赤コーナーGarcía選手のポイント勝ちです」
◯García【3ー2】Eishiro Jigozen⚪️
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ありえない・・・
これが今の私の率直な感想です。
私は黒木達也。
唐河中央高校ボクシング部監督でありレフェリーとジャッジの国際A級ライセンス保持者でもあります。
その私が見ても・・・というよりどこの誰が見てもあの試合、地御前くんとGarcíaの試合の判定はクレイジーとしか言いようがない!
国教大附属の生徒たちも判定結果が出た瞬間呆然としてましたし、我が校の生徒たち、高南県や信徳県、武領県の子たちも口々に
「意味がわからない!」
みたいなことを言い合っていて騒然となっていました。
当然のことです。
ボクシング競技のジャッジに対する信用が根本から崩されるようなひどい事例でしたから。
練習試合の時のこともあったから抑えてたんでしょうけど、井口くんは本当によく我慢したと思いますよ。
スポーツドリンクのスチール缶を縦に潰すぐらいブチギレていたのは目に見えて分かりましたけど。
試合前に手を怪我したらいけないので、できればそれも控えるように。
ともかく私は本部席に行ってジャッジペーパーを見せてもらいました。
そこでとんでもないことが判明したのです。
この試合のジャッジ構成はキューバチームからジャッジが2名、日本人が3名、主審は日本人で、キューバチームの関係者曰く
「我々はどちらかというとストップするのが早い方だから、あの内容だったら最終ラウンドにノーカウントで止めてましたよ」
と、西木先生の通訳でそう説明していたことがわかりました。
そしてキューバ人ジャッジ2名はフルマークで地御前くんの勝ちを支持していたのです。
つまり、今回のありえないミスジャッジをした3人は全員日本人ジャッジだったということ。
私はさすがに訳が分からず、そのジャッジ3人について経歴等を確認したところ、どうもきな臭いことが判明してきました。
彼ら3人はあの疫病神、多満井穐比子の取り巻き、通称
『多満井チルドレン』
と呼ばれている面倒な連中らしいのです。
この先が心配です。
多満井の存在と今回のありえないミスジャッジが関連しているとすれば、それは沿岸ブロックにとってとんでもない火種となるかもしれません。
地御前くんは
「勝ち負けは僕が決めることじゃありませんから」
と、淡々としていました。
それよりも、
「キューバの選手の筋肉の動きや独特のタイミングで動くリズムの方が興味があって3ラウンドじっくり観察できて面白かったです」
・・・・とか言ってましたっけ・・・・
本当にブレない子ですね、やれやれ。




