(閑話)ごめんなさい
合同強化練習を終えて帰宅後、2日ほどしてのことでした。
こんにちは、地御前栄代です。
帰宅したその日の夜、お父さんとお母さんに僕の顔についている赤い痣を見られて、お父さんはまあそれほどでもなかったんですけれど、お母さんは結構動揺してました。
「栄代さん、こんなにあざがつくほど叩かれて大丈夫だったのですか?」
お母さん、説明します。
赤い痣は、パンチを避けた時にグローブがすれすれで擦れてできましたので、まともには叩かれていない証拠・・・・だと思います。
あのおじさ・・・梶川さんのことだから絶対それだけじゃないと思うけど。
これは言わないでおきましょう。
お父さんは結果がどうなったのか興味があるようでした。
「帰ってきた日のうちに顧問の先生から連絡があってね。全国チャンピオン級の選手といい勝負をしたんだって?」
うっ・・・
これ絶対、お父さん結果を聞いてますよね?
「2ー3で判定負けでした」
「なるほどね。西木先生も言っていたが、栄代の持っているセンスがボクシングという競技に適応しつつあるということかな?」
「僕のセンス・・・ですか?」
「普段君が手ずから描いているクロッキーがそうだが、全景と個、距離の遠近、それらを全て包括した空間と空白を的確に捉えているように見える。これは多分君がやっているボクシングに通じるものなんだろうね」
お父さんは、なんだか僕にもよくわかっていない何かに気づいているみたいな感じをこの会話の中で僕は感じたのでした。
そして、冒頭の合宿終了後2日目、僕が同好会の練習を終わって自宅の玄関に入った時のことです。
「えーくん!」
「しろくん!」
それぞれの呼び方でリビングから僕の方に早足で向かってきたのは、大学の夏休みで今日帰省してきたお姉ちゃん2人でした。
・・・っ・・・て!
ちょっと待って!
海愛お姉ちゃん!
菜沙お姉ちゃん!
僕、練習終わったばっかりなんだからそんなに両方からくっつかないで!
「えーくん、お母さんから聞いた!顔中傷だらけになって帰ってきたんでしょう?」
「しろくん、ものすごく強い人と殴りっこしたって聞いてます!大丈夫だったんですか?・・・って・・・あら?」
あ・・・菜沙お姉ちゃんが気づいたみたいです。
「海愛お姉ちゃん見て!しろくん、体中すごい痣!!」
「・・・!・・・顔だけじゃない、こんなに叩かれてたの?えーくん。お母さん、これは知ってましたか?」
あはは・・・ごめんなさい、さすがにこれは見せられませんでした。
あと2〜3日もすれば・・・と思ってたんですけど。
あ、お母さんびっくりしすぎてソファーの方にへたり込んでます。
ごめんなさい。
さすがにこれは心配すると思って黙ってました。
ただ、試合中には全然もらった感じがしなかったんですよね。
ただただ、僕の相手の梶川さんが僕より1枚上手だったということなんでしょう。
・・・はい、反省してます。
改めて事細かにお母さんと海愛お姉ちゃんと菜沙お姉ちゃん、もちろんお父さんにも説明をやり直しておきました。
これで収まればよかったんですけれど・・・ここでお母さんがとんでもない提案をしてきたのです。
「栄代さん。よかったらどんな試合だったのか見させてもらっていいでしょうか?」
・・・・え?
「いいですね。お母さん、私もしろくんの頑張ってるところ見てみたいです」
あ、いや・・・菜沙お姉ちゃん?
「そうね、どうせなら大画面で見ましょう。えーくん、スマホ借りていい?」
・・・・・断れません・・・・・
ただ、僕はみんなに確かに伝えました。
動画再生の瞬間に何が起こっても慌てないでくださいと・・・・
はい、動画再生の瞬間、お父さんと僕以外の家族の絶叫がリビングに響き渡ったのでした・・・・
あの試合動画、冒頭は梶川さんのドアップで始まるのでした・・・・
お母さん、お姉ちゃんたち、重ね重ねごめんなさい。




