(閑話)こんなつもりでは・・・
私は国際教育大学附属国際高校の校長を務めている者だ。
ここ数年、最近の我が校は、内外からの実に不当な圧力を受けて我が校、ひいては教育推進県たる薙沢県の教育理念をも蹂躙されかねない事態に陥っている。
それもこれも我々の理念を理解しない一部の保護者が薙沢県の教育委員会に訴え、それが無駄だとわかると次は沿岸地域全体の教育委員会に告発し、さらにSNS にまで我が校、さらには薙沢県の異常性とまで言い募ってありとあらゆる発信をしてくれた。
結果、ネットニュースで散々晒されるわ、
「未来ある青少年は薙沢県から亡命しましょう」
などとまさに風評被害まがいのキャンペーンをWeb上で発信され、ついには文科省からも実に遠回しにではあるが、警告じみた書簡が届くに至った。
さすがにやばい!
文科省が我が県の教育方針に口出ししてくるなど、それこそ国家レベルで言えば
「内政干渉も甚だしい!」
とは声に出して言えない本音。
県庁所在地の市長も県知事もSNS で散々反論をしてきたが、その都度我らのことを理解できない多数派から
「お前らが悪い!」
と一方的な物言いで責められ続けて、さすがに心が折れてしまった・・・・
あ〜〜はいはい!
部活動認めりゃいいんでしょ?認めりゃ!!
早速にも職員会議開いてボクシング同好会できちゃったからそれで満足ですかぁ?
ボクシング同好会ができて、そこで満足しなかったのが顧問に抜擢した美術教師。
この男、ボクシング同好会の顧問になったその日の夜から、彼が思いつく限りの関係各所に連絡を入れて翌日には国教大附属国際高校ボクシング同好会発足の地ならしを済ませていた。
更に数日後
「校長、同好会とはいえ、活動する上で色々と必要なことがありますので、差し当たって薙沢県ボクシング連盟に関するこの書類に学校としての認可証明のサイン、もしくは押印をお願いいたします」
目の下にクマを作って書類を持ってきた美術教師。
そしてそこに記入されていたありえない内容!
・薙沢県ボクシング連盟役員一覧
本部・事務局
国際教育大学附属国際高校ボクシング同好会
会長 : 西木 匠
理事長 : 西木 匠
事務局長 : 西木 匠
高体連専門部長 : 高体連未加盟校の為、空席
強化委員長 西木 匠
審判委員長
(未定)※C 級ライセンス取得後に西木 匠が就任見込
総務委員長 西木 匠
普及委員長 西木 匠
医事委員長
薙沢県立薙沢中央病院脳外科 外薗峰允Dr
・・・な・な・な・・・なんじゃこりゃ〜〜〜!?
「なんじゃこりゃ、も何も・・・県内にボクシング関係で対応できる人間が1人しかいないわけですから、必然的にこうなりますよね?」
さ、最後の薙沢中央病院脳外科の外薗Dr(先生)って?
「あちこちの病院回って色々話をしてみたら、この外薗先生が他県から来られた方で薙沢県の現状について今後を懸念されておられまして、我が校にボクシング同好会ができることは変化のきっかけにもなるから是非協力したいと」
そんな・・・ここまでガチにならなくても・・・同好会なんだから適当にちょちょっと・・・
「適当じゃ済まされない競技であることをここ数日で理解に至りましたので」
・・・この美術教師、もしかしてやばいやつに同好会を任せてしまったのだろうか?
〜数ヶ月後、迎えた新年度〜
新1年生5人がボクシング同好会に入会。(後に1人合流し同好会員6名)
放課後の空き教室で精力的にボクシングのトレーニングに励んでる様子だ。
新年度が始まる前に顧問の美術教師は大量の練習道具を通信販売で購入していたようだが、学校からの金銭的な支援は受けていないはずなのに・・・と思っていたら
「どうせ使う予定のないお金がありましたから、有効活用することにしました」
と、自分の結婚資金であるはずの貯金を使い込んだとのこと。
それって大丈夫なのか?
後々に分かったことだが、大丈夫ではなかったらしい。
まあ、それか普通だろう。
事件発生!
『薙沢県・薙沢市報』
なる官報新聞に我が校の生徒の手によるクロッキーが市長賞を受賞したことが一面に掲載されていた。
私もその絵を見たが、精密でありながらも優しい線で素晴らしいと素直に感心した。
問題はここから、この生徒が廃部になったはずの
『美術部』
を名乗っていたこと、さらに彼はあの美術教師に師事するボクシング同好会の一員であること。
この事実を知った美術教師を毛嫌いする一部の教員数名が私情にまかせて暴走したのだ。
市長賞を受賞した生徒を職員室に連行し教員数名で取り囲み、罵詈雑言の嵐を浴びせている様子が他の生徒によってしっかりと動画、音声共にデータを残され、最終的に保護者会のグループ LINE にさらされるという事態に発展した。
報告を受けてこちらも即対処。
当事者である教員たちを即時懲戒処分とし、ボクシング同好会の生徒たち並びに顧問の美術教師にも謝罪。
謝罪を受け入れた時の美術教師の目線は、明らかに使える強力なカードを手に入れた者の、それであった・・・
〜それから結構長い年月が過ぎて後〜
私は国際教育大学附属国際高校で、かつて校長を務めていた。
今は外部相談役として学校運営に携わっている。
校庭を眺めれば、サッカーボールを追いかける生徒たちや、あちらの特設グランドでは野球部の掛け声がしている。
少し前に新設された武道館からは柔道部や剣道部の練習の音が激しく響いている。
校舎外壁の至るところには運動部文化部問わず、
『全国大会優勝!』
だの
『美術部金賞受賞』
だのと言った横断幕や垂れ幕が至るところに・・・
・・・・おやおや、あの小綺麗な建物から出てきたのはボクシング『部』の連中だな。
これから遠征試合にでも出かけるのだろうか?
私はこのボクシング部を同好会として初めて我が校に設立した校長として一応評価はされている。
・・・全くもってこんなつもりではなかったんだかな・・・
とほほ・・・・




