第八話 初デート3
「そう。正直ね」
「だってそうだろうが! 初対面で俺のケツを蹴飛ばしてきた女と、まともに結婚生活するイメージが湧かないだろうが!」
「それはあなたの想像力の問題でしょう。私はいいわよ、白い結婚でも婚約破棄でも、お好きになさって」
「それができればこんなに悩みはしない」
私は黙ったまま、アルバートの宣告に耳を傾けていた。少なくとも、場を間違えたことを言っているわけでもなく、不必要なことを口にしているわけでもないからだ。
白い結婚でも婚約破棄でも、という私の発言は、紛れもない本心だ。どうだっていいから、今の関係をどうするかさっさと決めてもらえれば、私は後腐れなく次の道を探すのだから。
しかし、そうではないのなら——応えなくてはならない。
私に対するアルバートの本心をどう表に出させるか、それが最大の難所であり、最後の問題だった。
どんな理由を付けようと、本当はそれを解決するための湖行きであり、初めての二人での外出だった。
アルバートは私といるといつも不満だらけで、迷惑そうな顔をしてばかりで、なのに今日に限ってはこんなことを言う。
「同時に、俺は、お前と結婚する以外あり得ない、とも思っているんだ」
そこまで言っておきながら、アルバートは言い訳のように次の語句を探して、繕いきれなかった本音を吐露する。
「貞淑で夫に付き従う女は、探せばいるだろうさ。だが、それは俺の目の前に現れることはない。公爵家の肩書きでいろんな令嬢と知り合って、それがよく分かった」
はあ、とアルバートはまたため息を吐いていた。何か思い出したのだろう。
この国は、第一王子も公爵家嫡男も、愚かだ。
彼らは自らの義務や役割を全うせず、理解しきれず、甘やかされて育って大人に反発してばかりだった。
私はそんな彼らに嫌悪感さえ抱いていた。婚約破棄を高らかに宣言し、舞踏会で他人を断罪して騒がしくする令嬢や若者と何が違うのか、己が貴族であるという建前さえも維持できない輩だと蔑んでいた。
だが、愚か者とて、学ぶものだ。
目の前の愚か者、アルバートはどうすべきかを迷いながらも、ちゃんと答えを探そうとして、私との結婚を自分でも選んだ。
愚かかもしれない、だが愛すべき成長だ。
私は微笑み、その性に合わない真面目さをからかってやる。
「さしづめ、女性への理想が高すぎて手酷く裏切られてきた、というところかしらね。放蕩してよかったことの一つ?」
「うるさいな、あんなに心変わりの激しい生き物と思わなかったんだ」
「人間は誰しも、狡猾で残忍よ。男も女も同じだわ」
「知っている! だから、お前はその中でも随分マシだと知ったんだ」
「それは光栄ね。素直に褒め言葉として受け取りましょう」
「そうしてくれ。俺はもう、女に幻想は抱かない」
「子どものときにそう思っていれば、尻を蹴られた跡が残らずに済んだでしょうにね」
「何で知ってるんだ!?」
勢いで正直に返答してしまったあと、アルバートは「しまった」とでも言いたげな沈痛な顔で頬を赤くしていた。
私はアルバートの尻など直接見たことはないので、当てずっぽうでそう言っただけだったのだが、どうやら事実のようだ。
ただの自業自得が後年まで尾を引く——ああ、特に可哀想でも何でもなかった。




