天鷲城VS猪ケ倉城
「剣崎くんいつもありがとねぇ。」
ここはmillionwarsの世界で四人のプレイヤーにより初めに攻略された城、天鷲城。そんな城で毎日のようにNPCの畑を手伝いお礼を言われることに嫌気がさしていたプレイヤーが一人。
彼の名前は荒道健人。プレイヤー名は剣崎。剣道で天才と言われていた彼だが、試合中の怪我で利き手が使えなくなり剣の道を諦めざるおえなかった。そんな意気消沈していた彼に親はmillionwarsを買い与えた。
このゲームには魔法や銃、レベルなどのシステムがなく完璧なプレイヤースキルのゲーム。そんなゲームに健人がハマるのにそう時間はかからなかった。
「九条さん!いい加減俺たちも城を攻めましょうよ!毎日城の防衛ばかりでいつになったら城を攻めるんですか!」
剣崎は天鷲城の城主、九条に意見を伝えるためを城下町を探し見つけ出した。九条は初めに城を攻略した四人のうちの一人でmillionwarsをやっている人間で知らない人はいないほどの知名度がある。
城に所属できるプレイヤー上限は二百人。大抵の城主は城を複数所有していたり、プレイヤーを二百人配下しているが、天鷲城は六十人しかおらず、それが原因で毎日のように城攻めにあっていた。
「うーん……確かにそろそろいいかもね。今いる人たちだけで城攻めしちゃおっか。」
作戦を決めるため九条と剣崎は御殿へと向かった。九条は御殿向かう途中チャット画面開き様々なプレイヤーへと連絡していた。
「みんな、集まってくれて、ありがとう!今日はみんなでする初めての攻城戦だ。不安もあるかもしれないけど、僕の作戦通りに動いてくれたら必ず勝てる相手だから安心してね。」
休日というのもあるが、剣崎が九条と話してから三十分ほどしか経っていないというのに、御殿の中には四十人以上の配下プレイヤーが集まっていた。
「作戦は単純明快、鳴海さんと弓弦さんが騎馬兵を五百人連れて、先行する敵の部隊と交戦してもらう。敵はこちらより多くのプレイヤーと多くのNPC兵士を投入することが予想される。けど連日僕たちの城を攻めたせいで武器や防具は残ってないはず。」
このゲームには他のゲームのようなアイテムボックスが存在していない。その代わり城には保管庫が用意されており、保管庫にしまうまでは実体化した状態で持ち運ばなくてはならない。
剣崎たちは連日の天鷲城防衛戦の後、攻城しに来たプレイヤーやNPCの落とした装備を回収して保管庫に入れる作業をしていた。防衛戦のみを繰り返していた天鷲城は少ない兵士で撃退し装備を回収していたお陰で潤沢な装備と資金を手に入れることに成功していた。
「他にも諸々の手は打ってあるから、みんなは安心して攻城を楽しんでね。」
それから九条さんは配下のプレイヤーに作戦を伝え。戦いの準備を整え、敵の城である猪ケ倉城へと向かった。
「円満さん、大変です!天鷲城の奴らが宣戦布告してきました!」
その頃猪ケ倉城には。外交官を通じて猪ケ倉城の城主である円満に天鷲城の城主、九条からの宣戦布告がとどいていた。
「慌てる必要はない!こっちには二百人のプレイヤーがいるんだ。いくら九条とはいえプレイヤーの差を埋めることはできないはずだ。」
「NPCに持たせる武器はまだ多少ありますが防具はそこを尽きています。防具がなくてはあっという間にやられてしまいます。」
「それも問題ない。先行させる千人には防具を着せず弓を持たせて出撃させろ。そして後の二千の前衛にのみ防具を着せろ。少しはハッタリになるはずだ。」
「緊張してるのか剣崎?安心しろ、九条さんの作戦は未だ負け知らずだ。俺たちが作戦通り動くことができれば問題ねぇよ!」
剣崎は先行の鳴海隊に混ざり参加することになった。今まで防衛戦でしか戦闘の経験がない剣崎は、今の状況を楽しみながらも緊張していた。
「おっ!敵さんが見えてきたぞ。九条さんの言った通り弓で来たな。」
防具や資金などが残り少ない猪ケ倉城が弓兵で来ることを九条は読んでいた。故に当然、相手が弓で来た場合の作戦も伝えられていた。
「俺たちが一番槍だ!鳴海隊行くぞ!」
その作戦とは騎馬兵による突撃だった。作戦というにはお粗末なように聞こえるが、この作戦にはわけがあった。
「散!」
鳴海の一声で五百人いた部隊はバラバラになり猪ケ倉城の弓隊へと向かっていった。
「放て!」
騎馬隊が弓の射程へ近づくと猪ケ倉城の弓隊は一斉に矢を放った。だがバラバラに突撃する騎馬隊にはほとんど当たらず被害はそれほど大きくはなかった。
このゲームで最も大事なのはNPCとの信頼度であった。猪ケ倉城は連日の攻城失敗によりNPCの信頼度がガタ落ちなのに対し、逆に勝ち続きの天鷲城は信頼度が上がり続けていた。
信頼度が上がるとNPCの戦闘能力や複雑な命令を実行することができるようになる。天鷲城はmillionwarsの世界で最もNPCとの信頼度が高く、それ故にNPCを使う事でプレイヤーの人数の差を埋めることができていた。
「プレイヤーは六十人にしかいないんじゃなかったのかよ……」
複雑な命令を実行することができるほど信頼度を上げている城はほとんど存在していない。複雑な命令を聞きプレイヤーにも劣らない戦闘能力を持つNPCは、猪ケ倉城のプレイヤーの目にはNPCには見えなかった。
「まぁ、ざっとこんなもんか。被害は……百人か、予想よりは失っちまったな。けど作戦は変わらねぇ!行くぞ剣崎!」
あっという間に猪ケ倉城の先行部隊を蹴散らした鳴海隊は弓弦隊と共に城へ向かい直進した。猪ケ倉城の前には数万を超える兵士が槍を構え陣形を組んでいた。
「これも九条さんの予想通りだな!弓弦バトンタッチだ!」
「言われなくても、そのつもりだ!弓弦弓騎兵隊行くぞ!」
弓騎兵を連れた弓弦が、猪ケ倉城を守る槍兵を一方的に射抜き始めた。先行した部隊もだが攻城に資金を使いすぎたせいで猪ケ倉城には矢を購入する余裕が既になかった。
正確に言うなら矢を購入することはできるのだが。矢を兵士一人に二十本持たせた場合、それを百人分購入すると二千本必要となる。そのようなことをすれば資金に余裕のない猪ケ倉城は兵士に槍を持たせることができなくなり結局押し切られてしまうのだ。
弓により陣形を崩した弓弦は弓を捨て剣を抜き相手の兵士の中へと切り込んだ。
「あっ!弓弦の野郎抜け駆けしやがった!鳴海隊も続くぞ!」
猪ケ倉城の兵士一万は一瞬で壊滅状態になり、ほとんどのNPC兵士は武器を捨て降参した。
「さてと……んじゃ九条さんを待ちますか。」
「なんでだ!相手はたかが千人!数では勝ってるはずなのになぜ……。」
一方その頃猪ケ倉城では、天守閣の最上階に城主円満の声が響いていた。
「円満さん侵入者です!数は二百!全員がプレイヤーです!既に天守閣に向かっているようです!気をつけてくださ……」
配下からのチャットは途中で途切れてしまった。
「……プレイヤーが二百?もう……無理だ……」
「鳴海さん、弓弦さん、お疲れ様です。二人ならやってくれると信じていました。」
外での戦闘はあっさり終わり、残すは城の中のみであった。ガガガガ。九条さんが兵士千人を連れて鳴海たちと合流してしばらくすると突然門が開いた。
「中は片付けておきました。」
猪ケ倉城の門の内側から見知らぬイケメンが門を開き、城の中へと手招いた。
「九条さんから連絡がきた時は驚きましたよ。ついにこの時がきたのかって。俺たち朝飛傭兵隊二百名、改めて九条さんの下でお世話になります!」
九条は城を攻められやすくするため意図的に配下の人数を減らしていた。脱退してもらった配下のことを信用できる朝飛に任せ傭兵として活動することを命令した。
そして充分NPCの信頼度を稼いだ今。城を攻める決断をした九条の元に九条を慕うプレイヤー二百名が集まった。
「それにしても流石は九条さんです。まさか鳴海さんたちを囮に使って、裏からノーマークの俺たちに攻めさせるなんて!」
「まぁ、朝飛たちが天守閣まで落とすとは思わなかったけどね。」
他愛のない雑談をしながら天守閣へと向かった。NPC兵士は既に戦う気力を失っており、九条たちを攻撃してくることはなかった。
「随分と立派な天守閣だな〜!」
天守閣を本来守るはずの兵士は一人もおらず、いとも容易く最上階の階段の前まで辿り着いた。
「待っていたぞ九条。」
最上階の階段の前には先に行かせまいと、円満が立ち塞がっていた。
「俺と一騎打ちをしてくれないか、頼む。」
円満は深々と九条に頭を下げた。
「頭を上げてください。いいですよ戦いましょう。今回僕はまだ仲間にいい所見せれてないですしね。」
「ありがとう。」
九条と円満はすぐに武器を構えた。九条は脇差を抜き右手に脇差を左手に鞘を持った。millionwarsではリーチが長いこともあり槍の使い手が多い。だが建物の中では槍のような長い武器は不利に働いてしまう。
脇差よりも長い打刀でもよさそうなものだが、九条は打刀よりも短い脇差を抜いた。
円満の抜いた武器は打刀。武器のリーチでは円満の打刀が勝るが、はたして……。
「どっちが勝つと思います?」
「まぁ十中八九、九条さんだろ。あの人いつも自分は戦闘向きじゃないなんて言ってるけど。あの人はとにかく戦いにくい。まぁ円満が上手く対応できれば勝負は分からないかもな。」
剣崎、鳴海、朝飛は部屋の隅により勝負の行方を見守った。
二人の戦いに開始の合図はなかった。先に動いたのは円満だった。円満は大振りをせず堅実に九条に対し剣を振りぬいた。だが九条は柱や鞘などを使い円満の攻撃を上手く捌いた。
九条は攻撃を捌くと同時に右手の脇差で打刀を握る腕を狙い切りつけ続けた。このゲームの防具はダメージが蓄積することにより壊れる性質を持っている。それはプレイヤーの肉体も同じで腕や足、頭などを一定以上の力で切りつけることで、切り落とすことができる。
二人の戦いは長引き十数分間続いた。
「参った……降参だ。」
結果は九条の圧勝で終わった。終始円満の攻撃は見切られ防がれた挙句、腕を切り続けられたことで、円満は戦意を失ってしまっていた。
「最後に一つ聞きたい。どうして打刀ではなく脇差を使った。打刀ならもっと楽に勝てたんじゃないのか?」
「脇差を使ったのは打刀よりも短いお陰で片手で使った時に力が伝わりやすいから。円満さんを舐めて脇差を使った訳じゃないですよ。」
「……そうか、ありがとう。俺はこの城を出る、もしよかったらでいいんだが俺の配下を引き取ってくれると助かる。俺が上手く使ってやることができなかっただけで優秀な奴らだ、あんたなら上手く使ってやることができるだろ?」
「検討します。もし何か困ったことがあったら、いつでも連絡してください。内容次第で協力するので。」
「あぁ、わかった。じゃあ待たな。」
猪ケ倉城、城主の円満が城を去り。天守閣の最上階の旗差に天鷲の旗を指したことにより猪ケ倉城が九条のものとなり、戦いは終わった。