射手の湖の戦い
九条と朱羅が同盟を結んだ日から、両陣営同意の元、二ヶ月の準備期間が設けられた。『四英傑』は万全の準備を整え、戦いの日を迎えていた。
射手の湖。大量の木々に囲まれた直径四百メートルの湖で、戦国時代の矢の飛距離が三百メートルを超えることから、腕試しに向こう岸まで矢を放とうとするプレイヤーが度々訪れる。
射手の湖を挟み、両陣営が武器を手に持ち並び立つ。
鬼塚 御影陣営
「そろそろ開戦の時間になるが、準備はできているか鬼塚」
馬に乗った御影が鬼塚の部隊を掻き分けて声をかけにやってきた。
「てめぇ……誰に向かって言ってやがる。そんなくだらないことを聞きに来る暇があったら、自分の兵士の士気を少しでも高めやがれ!」
「そうか……君の言う通りだな。では、幸運を祈る」
(相変わらずキザな野郎だ……気に入らねぇ)
性格の相性が悪い二人は何度か作戦会議を行ったが、最後までお互いの立案した作戦が気にいることはなく、自分の部隊を動かす度に、何をするか説明することで連携をとることとなった。
(時間だな……)
自分の陣営に帰った御影が声をあげる。
「御影の旗を掲げる兵よ聞け!我々は一つの標的に向けて飛ぶ一本の矢だ!深く考えることはない、標的は私が定める!お前たちは私に、ただ着いてこい!」
「「「「オーーーーーーー!!!!」」」」
御影の言葉に兵士たちの士気は頂点に達し、先頭を走る御影の後に全ての部隊が続いた。
(暴走列車の朱羅はともかくとして、問題は九条くんだ。正直な話、手段を選ばない鬼塚よりも動きが読みにくい……)
射手の湖の向かい側にいる敵陣営に攻め込む御影軍 五万。一方、鬼塚の指揮する軍勢も動きを見せていた。
「俺たちも行くか……」
鬼塚野率いる軍勢は、大回りで敵陣営を通り過ぎた。
「あの、鬼塚さん。どこまで行くんですか?敵は後ろに……」
「おいお前、お前は敵のスパイか?」
「ち……違います!」
「だったら無駄な口を開くな。お前らは俺の言う通りに動けばいいんだ。」
鬼塚の目的は前方に広がる朱羅の城への火攻め。火攻めは城の所有者だけでなく、占領した際の自分の友好度が下がるというデメリットがある。ではなぜ、鬼塚は火攻めを行おうとしているのか……。
城を占領するつもりが無いからだ。鬼塚の目的は火攻めによる、敵陣営の士気の低下と友好度の低下によるNPC兵士の弱体化。
(朱羅は脳筋だが、所有する城の数からくるNPC兵士による数の暴力は厄介だ。だが、火攻めにより戦闘能力が低下すれば御影だけでも充分抑えることができるだろう。問題は……)
違うやり方で戦闘を戦闘を進める二人。場所もやっていることも違う二人は常に九条の出方を気にしていた。
「我が名は鶴巻城 城主 御影!天鷹城の城主 九条に一騎打ちを申し込む!」
敵の軍勢に目と鼻の先まで近づいた御影は、九条の旗を見るやいなや当初の予定通り一騎打ちを申し込んだ。
合戦時における一騎打ちは相手の戦力が同等かそれ以上の際に行われる。勝利した側の士気が上がり、敗者側は士気が下がる。
「天鷹城の九条だ!その一騎打ち受けて立つ!」
もしも一騎打ちを断れば「敵は臆病者だ」と声を上げることで味方の士気の向上と相手の士気の低下が見込める。
「やぁ、九条くん。こうして顔を合わせるのは一年と二ヶ月ぶりだね。」
「お久しぶりです御影さん。相変わらず御影さんの戦い方は正々堂々としているんですね、安心しました。」
「……なんだか一騎打ちを申し込むことを想定していたような言い方じゃないか。……そういえば朱羅はどうした?一騎打ちとかが好きなあいつが見える場所にいないのは珍しいな。」
確信の持てない考えが御影の頭をよぎる。
「想定と言っていいのか分からないですが、準備はしましたよ。御影さんが来ても鬼塚さんが来ても迎え打てるように、万全の準備をね。朱羅さんは……どこに行ったんでしょうね?」
「…………!!」
御影が何かに気づき鬼塚に知らせようとした瞬間、九条は通り抜けざまに馬上から全力で槍を振るった。
「させませんよ御影さん!」
「……ッ!誰か!鬼塚にメールで朱羅の旗が見えないことを伝えてくれ!それだけ伝えれば鬼塚なら何とかするはずだ!」
槍の攻撃を防いだ御影は馬を通り過ぎた九条に向けた。
「悪いが速攻で決着をつけさせてもらう。」
九条と御影が同時に馬を走らせ、御影の振るった槍の一振を縦に構えることで九条は防いだ。
幾度かの攻防が続き御影が九条の戦い方に疑問を持つ感じる。
(九条くんの攻撃からは相手を倒すという感情が感じられない……まさか!)
馬を走らせ、槍の間合いに入ると同時に御影の槍が九条の跨っている馬の体を貫いた。
「ブルルルルルル!!」
鳴き声をあげながら馬が倒れ、九条は投げ落とされた。
「九条くん、君……時間を稼ごうとしているんじゃないか?」
馬上から九条を見下ろしながら声をかける。
「さて……なんのことでしょう?」
とぼけるように笑う九条に御影は馬を走らせた。
我々の想像する馬はmillionwarsの世界には存在しておらず、millionwars内の大きさの馬は『ポニー』と呼ばれる種類だ。ポニーとは百四十七cm以下の馬のことを指し、特定の馬を指した呼び名ではない。
現代の馬よりも小さく、ずんぐりしたような見た目をしている。『ポニー』と聞くと一見頼りなさそうにも聞こえるが、現代でよく知られる『サラブレッド』よりも力が強く、長時間の戦闘を継続することができる。
(落ち着け……ここが正念場だ!)
いくら小さい姿を想像する『ポニー』でも人が乗った姿は大きく、百七十cmの男性の平均座高が八十八から九十と想定すると単純計算でも二mを超える。
そんな騎馬が砂埃をたてながら自身に向かってきた時、人は本能的に恐れ、背を向けて逃げてしまう。だが、自身より速い騎馬に背を向けるのは逆効果、背中を槍で刺されてしまう。だったらどうするか……。
(さぁ、こい!)
九条は馬が近づいたタイミングで身をかがめ槍の石突きを地面に突き立て、馬に向けて構えた。
「ブルルルル!!」
御影の乗る馬は直前で方向を変えて槍を突き刺そうとした結果、脇腹に槍が突き刺さり、九条と同じように御影は落馬した。
(……ッ!君は本当に戦いにくい相手だよ九条くん。身長が高い訳でもなく、力が強い訳でもなく、武道に長けている訳でもないというのに、数ある選択肢から正解を叩きつけてくる。)
九条は追い打ちをかけずにその場から動かず、落馬した御影はすぐに体制を立て直し、槍を構える。
「……相変わらず待ちの姿勢かい?時間稼ぎに徹するってことかな?」
「……まぁ、そうですね。朱羅さんなら目的を達成してるでしょうけど念には念をってやつですよ。」
(確信は無いが、時間が経てば経つほど追い詰められている気がする……少々長引きすぎたか。)
御影は九条へと詰め寄り、焦るように槍を振るった。九条は急所を守りながらも、肩や足などをねらい攻撃を仕掛ける。
誰の目から見ても地上での槍捌きは御影の方が上。しかし、九条が膝を着く頃には御影の肩や足などは深刻なダメージを負っていた。
「残念だったな……私の勝ちだ。」
九条VS御影の一騎打ちは十分近い攻防の末、御影が勝利を手にした。




