【番外編】願い事~バカンスシーズン(5)~
明るさに満ちたサンルームで、推しに膝枕をされていたはずなのに。
肌に感じるこの感触は……。
そこで目がぱっちり開いて、エリダヌスと目が合う。
一瞬、何が起きているのか分からない。
膝枕をしている推しは、私の顔をこんな風に見られないはず。
そこで脳が様々なことを認識する。
ここはサンルームではない!
客室のベッドルームだ。
エリダヌスと私はそのベッドに横たわっている。
肘をついて横になっているエリダヌスは、私の頬を優しく撫でていた。
どうしてサンルームのカウチで横になっていたのに、ベッドにいるの!?
というか私達はまだ婚前なのに!
既に何度か一つベッドの上も、一つ同じ部屋も経験しているけれど。
やはりこんな風にベッドで横になっているのは、ダメだと思います!
「メリディアナの愛らしい寝顔を見ていたら、わたしも眠くなってしまいました。そこでこちらに運び、十五分ぐらい。わたしも昼寝していたようです」
あ、そういうことだったのね……!
少し勘違いしていた。
「何か期待していましたか?」
「!?」
「例えばこんな風にされることを」
いきなりふわりとその胸に抱き寄せられ、驚き過ぎて声も出ない。
嬉しいという歓喜の気持ちと、ベッドでこんなことはいけないという理性が働き、もう大変!
「メリディアナ」
抱き寄せられたと思っていたのに。
今は私が仰向けで、こちらを覗き込むエリダヌスの顔は……キスをできる距離。
ああ、まだ婚前なのに!
でも推しとこんなシチュエーションになって、我慢をするなんて、む、無理ゲーですよ……!
エリダヌスとキスをしそうになったものの。
ものすごい強い視線……というか、殺気を感じた。
「え……」
機械仕掛けの人形のように首を動かし……。
悲鳴をあげるところだった。
だって!
マルシクが腕組みしてものすご~く怖い顔でこちらを睨んでいる!
「わたし達が婚前であるからと、ベッドで一緒に横になるなら見張ります……とマルシクが言って聞かないのですよ」
これには納得だけど、まさか、でも、そんな……。
「お二人とも、演奏会に行くなら準備をしてください!」
若干キレ気味のマルシクにそう言われ、エリダヌスと私は起き上がることになった。
◇
演奏会の後はディナー、そしてオペラ鑑賞となる。
少し早い時間だが、イブニングドレスに着替えた。
今、イブニングドレスに着替えないと、もう時間がなかったからだ。
そこで着替えたドレスは、海の碧さをターコイズブルーとターコイズグリーンで表現したもの。さらに真珠が身頃やスカートに散らされ、レースもふんだんにあしらわれている。
舞踏会に着て行っても、ダンスをした瞬間に、その美しさが際立つようなドレスだった。
着替えを終え、寝室を出てエリダヌスと合流すると……。
エリダヌスはターコイズブルーのテールコートを着ているが、タイとベストはターコイズグリーンで、白シャツにもとても映えている。ちゃんと私のドレスに合わせたコーディネートをしてくれるエリダヌスに、嬉しくなってしまう。
「メリディアナ。そのドレス、海の女神のように美しいですね」
「私が海の女神なら、エリダヌスも海の神ですよ」
「なるほど。いい返しです」
そこでエリダヌスの顔が近づき、私はドキッとする。
だがしかし。
「ご褒美をあげたいところですが、綺麗にお化粧をされているので。お預けですね」
声こそ出さなかったが私は「そんな……」という顔をしてしまったと思う。
エリダヌスはフッと微笑み、優しく腰を抱き寄せる。
「そんな顔をして。メリディアナは……」
そう言うとふわっと額へキスをしてくれる。
キスを終えたエリダヌスと見つめ合った瞬間。
甘い雰囲気が漂い、もう演奏会なんて行かなくていい……!なんて気持ちになるが。
「ウェリントン様、お嬢様、お時間が」
「マルシク、ここは空気を読んで!」と言いたくなるが、彼の行動は間違っていない。
席を予約し、お金も払っているのだ。しかも行きたいと言ったのは私なのだから。
「エリダヌス、行きましょう」
「大人な対応ができるようになりましたね」
そう言うと再び額へキスをして、優雅に私の手を取りエスコートして歩き出す。
一連の動作があまりにも洗練されているので、額へのキスすら、エスコートする際に必要な動作に思えてしまう。
廊下を歩いていると、やはりエリダヌスのスマートなエスコートに注目が集まり、そして演奏会が行われるホールに到着すると……。
「ウェリントン団長様だわ!」
いわゆる金髪縦ロールに、赤いドレスを着た令嬢から声を掛けられた。
エリダヌスを見るが、推しは知らない相手の様子。
するとそこに駆け寄る令息がいた。
黒のテールコートを着た令息は、慌てた様子で謝罪の言葉を口にする。
「だ、団長、申し訳ありません! 彼女は自分の婚約者のソーラ・ルジマール子爵令嬢です。馬上槍試合で団長を見てから、ファンになってしまい……。まさかこの船で会えるとは思いませんでした。団長も婚約者殿と演奏会を観覧されるのですか?」
お読みいただき、ありがとうございます!
次話は明日の19時頃に公開予定です。














