【番外編】願い事~バカンスシーズン(2)~
エリダヌスにバカンスシーズンの休暇について尋ねたのには、理由があった。
私が断罪されそうになった時。
最初は脅すような形ではあったが、エリダヌスは私の助けを求める要請に従うことになった。だが従うと決めたエリダヌスは、厳しい言葉とは裏腹に、とてもよく動いてくれた。さらに私の無実を確信し、法廷で勝利できるよう、尽力してくれたのだ。
そんなことをされたら、当然、御礼をしたくなる。
そこでエリダヌスに私は「どんな願いでもかなえる」と約束していたのだ。
だがエリダヌスが私に求めたことは……。
――「これからはアンブローズ公爵令嬢ではなく、名前でお呼びしても?」
これには驚いた。エリダヌスの本意に気付かない私は、大いなる勘違いをした。金銀財宝やお金を求めるのではなく、エリダヌスはプライスレスなものが欲しいのだと。
そこで私は三つの提案をする。
秋になると楽しめる湖水地方にある雲海に浮かぶ古城を見ること。冬の寒い季節に体を温めるスパへ案内し、心身の癒しを得ること。夏に氷の洞窟へ向かい、涼をとり、幻想的な景色を堪能すること。
どれも“体験”を約束するものだ。そしてこの三つのうち二つの約束。しておきながら、忘れていた。
エリダヌスに促され、慌てて古城がある湖水地方へ向かい、スパへ出向くことになった。
でもさすがに。
今回はもう忘れていないし、念入りに動くことにした。
つまり。
事前にエリダヌスに休暇について確認し、ロッジを予約し、現地の洞窟ガイドを雇うことにしたのだ。
その結果。
手配は完璧だった。
現地の洞窟ガイドを雇うことで、洞窟で一泊することもできるようになった。
洞窟は途中で分かれ道があり、右に行くと氷の洞窟につながる。だが左を進むと、氷の洞窟とは全く違う世界が広がるのだ。
その左の道を進んだ先にある洞窟には、グローワームがいる。そしてこのグローワームは、自らの体から光を発するのだ。
一泊することで、この光る様子を存分に楽しむことができる。氷の洞窟は勿論、この光る洞窟も満喫することが、今回の目的の一つになっていた。
こうして全ての手配を整えた私は、休暇中のプランをエリダヌスに話した。
これを聞いた時の推しは――。
「なるほど。今回はちゃんと手配できたようですね。……当然と言えば、当然です。よくやったと褒めてあげましょう」
エリダヌスは涼し気な表情でそう言うが、口元には笑みが浮かんでいた。
碧い瞳は喜びでキラキラと輝いている。
嬉しいのね、エリダヌス……。
推しの幸せそうな顔を見られる。
これは私にとってのご褒美!
「来週からの休暇、楽しみにしていますよ」
エリダヌスが私をぎゅっと抱きしめた。
◇
バカンスシーズンの休暇初日。
朝の目覚めは実に清々しい!
カーテンを開け、見上げた空に雲はなく、夏の陽射しがもう降り注ぎ始めている。
爽やかなアイスブルーのドレスに着替え、出発だ。
今回の旅は、これまでの最長の二週間となる。
ロッジを貸しきりにして、二週間滞在し、王都に戻る。
エリダヌスは休暇を三週間とっているので、王都に戻ってからも、のんびり過ごすことが出来た。
ということでトランクも、これまでより増えたので、エリダヌスとはクルーズターミナルで、待ち合わせをしている。
そうなのです。
今回の目的地であるアンブローズ公爵家の領地。
水晶がとれる鉱山は、王都から船で一泊して到着する島にあった。
島の半分は、水晶の採掘に従事する人々が暮らす街になっている。こちらは年間を通じ、大勢が活動している。残りの半分はビーチが整備され、そのビーチ沿いにはホテルが立ち並び、バカンスシーズンは大いににぎわう。そして水晶がとれる山の、ビーチ側に当たる部分に、氷の洞窟があった。その近くにはロッジが点在し、これまた自然を満喫して過ごすことができた。こちらは紅葉シーズンまで楽しむことができ、冬を除き、沢山の観光客が押し寄せる。
つまりこれから向かうサンティア島は、産業と観光が両立し、とても栄えた島だった。
「メリディアナ!」
クルーズターミナルの、馬車の乗降場に到着すると、既に到着していたエリダヌスが馬車から降りるのを手伝ってくれた。
今日のエリダヌスは、いつもと違う!
濃紺のシャツに、薄手の麻の明るいグレーのジャケットにズボン。目にも涼やかな装いをしていた。
しかもサラサラの前髪の分け目を変えている!
その姿は大変目の保養になった。
要するにカッコいいのです!
「メリディアナ、おはようございます。昨晩はぐっすり眠れましたか?」
「! 実は今日のことを考えると興奮し、なかなか寝付けませんでした」
「そんなことだろうと思っていました。でも安心してください。この豪華客船にはサンルームがあり、そこには実に寝心地がいいカウチが置かれているそうです。わたしが膝枕してあげますから、昼食後、お昼寝をしてください」
いきなり。
いきなりですよ!
膝枕宣言を推しにされた……!
「メリディアナ。またそんな甘えた顔を、朝からして」
既にメロメロ状態なのに。
さらに骨抜きになるような表情をエリダヌスがしている。
いつもならここで「そんな風に甘えるのはダメですよ」と言い出しそうなのに。
今日からは休暇モードでいつもと違うの!?
おかげで私は軟体動物のように、ふにゃふにゃになってしまい、もう大変!
タラップから船内に入るまで……エリダヌスにしがみつき、傍から見ると、ものすご~く甘えている状態に見えたに違いない。
恥ずかしいけれど……とても幸せだった!
お読みいただき、ありがとうございます!
次話は明日の夜23時頃公開予定です。


















