【番外編】約束(2)
馬車に乗り込むと、エリダヌスは改めて私に尋ねた。
「わたしの出場はなく、ただ観覧する形ですが、大丈夫ですか? わたしが試合に出れれば、メリディアナの気持ちも高まったのでは? 何よりも第二王子の婚約者だった時は、観覧は必須でしたよね。でも今は違います。もし興味がなければ、無理に観覧する必要はないのですよ」
「! 確かにエリダヌスが試合に出れば、気持ちは盛り上がると思います。ですが過去にエリダヌスが優勝した試合は見ていますし、そこはもう満足です。それに馬上槍試合、手に汗握るものなので、たとえエリダヌスが出場しなくても楽しめます。ですから何も問題ないですよ!」
私がそう答えると、エリダヌスは「そうですか」と秀麗に笑う。だがその様子を見た、同乗しているマルシクは……。「お嬢様!」とその目が言っているが、私は「?」だった。
「わたしが優勝した時の馬上槍試合。メリディアナは見てくれていたのですね。……何か気になることはありませんか」
気になることはないか。
うーん、とにかく「すごかった」という記憶しかなく、気になることなんて……。
「何でもいいのですよ。目の前に優勝者がいるのです。どんなことでもお答えしましょう」
エリダヌスがニコニコとそう言ってくれるが……。
当時の試合はエリダヌスの一人勝ち状態。まさにストレート勝ちで、あれよあれよという間に優勝してしまったから……。
そこでハッとしてマルシクを見る。
彼は声を出さずに口だけ動かしているが、私に読唇術の心得はない。つまり何を伝えようとしているのか……分かるわけがなかった。
そうしているうちに馬車は、馬上槍試合が行われる競技場へ到着した。
◇
馬上槍試合が行われる競技場は円形で、観客席は階段状に配置されている。
広場の中央にはレーンが整備され、その距離は約百メートル。左右の端からそれぞれ馬を全速力で走らせ、すれ違い様に、お互い槍による攻撃を行う。
落馬の危険もあるし、槍は本物。
勿論、鎧兜を身に着けるし、盾もある。
それでも怪我をする可能性もあり、攻撃もそうだが、防御も重要だった。
試合はポイント制のトーナメント方式。
攻撃した場所によりポイントが加算され、高ポイントの者が勝者になる。
落馬は即負けで、相手の槍を破壊すると、一番高くポイントを稼げた。後は盾への攻撃、胴への攻撃が、それぞれ決まると、ポイントが入る。頭と馬への攻撃は禁止されていた。
「今日は暑くなりそうなので、水分補給は忘れずに」
観覧席に着くと、エリダヌスはすぐに飲み物を注文してくれる。
まだ午前中だが、夏を思わせる陽射しが降り注ぐ。
飲み物は飛ぶように売れていた。
試合の開始を伝える鐘が鳴らされ、まずは国王陛下が開幕の挨拶を行う。次いで騎士団長であるエリダヌスが、参加する騎士達へ挨拶を送る。それが終わると国家斉唱があり、最初の対戦となる騎士が準備を開始。
わずかな短い時間を使い、お茶菓子と飲み物の販売が行われ、ラッパが鳴る。
レーンの左右の端にそれぞれの騎士が騎乗で槍を待ち、待機していた。
古式ゆかしい合戦の合図にならない、角笛が鳴らされる。
この角笛が鳴り終わったと同時に試合が開始だ。
「うわーっ」と一斉に歓声が起きる。
双方のレーンから、全速力でそれぞれの馬が走り出す。
太陽光を受け、騎士達の兜が輝く。
それぞれの騎士を応援する声が響き渡り、すぐにその時が訪れる。
つまり二人の騎士が最接近する瞬間だ。
騎士が構えた槍は、お互いの盾にぶつかり、片方の槍が破壊された。
ポイントが入り、審判の騎士が旗を挙げる。
拍手と悔しがる声が入り混じった。
次に進む者が決まり、敗退者が決まる。
「どうでしたか、第一試合」
「そうですね。プロフィールを見ると、実力は拮抗しているので、引き分けになるかと思いましたが……勝負ありでした」
「そうですね。勝者の方が乗馬の技術が勝っていたと思います。うまく攻撃のタイミングをずらし、槍の破壊を導いたのでしょう」
さすがエリダヌス。そんなところも瞬時に見抜いているのね!
「それで。今の勝者の騎士のこと、どう思いますか?」
二番目の出場者が位置に着くの待ちながら、エリダヌスが私に尋ねた。
「どう思うか……。うーん、そうですね。普通にかっこよかったと思いますが……?」
「普通にかっこよい……それはどういうことですか? 勝利を喜び、兜を外した瞬間の顔を見て、カッコいいと思ったのですか?」
「あ、確かに兜を外した時の顔は爽やかでしたね。でもやはり槍を壊すことなく、攻撃できているところがよかったと思います」
私が答えるとエリダヌスは「爽やかな顔。槍を壊さない。攻撃……」と復唱している。
だがそこで再びラッパの音が鳴り響く。
ざわざわしていた観客席が静かになる。
左右の端に騎士が登場。
厳かに角笛が鳴り渡る。
次の試合が始まった――。
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先日、本編が完結した
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