【番外編】約束(1)
6月。
前世で6月というと、梅雨であり、雨が多くいろいろと困る。
洗濯物が乾きにくい、生乾き臭がする、カビが生える、食中毒が発生……etc.
ところが!
この世界の6月は最高に清々しく過ごしやすいのだ。
まず雨は少なく、晴れの日が多い。
しかも気温は既に夏を思わせる。
最高気温は25℃くらいあるのだから。
湿度も高くなく、からっとしており、カビの心配とも無縁。
まさに毎日が行楽日和で、皆、外出をしたくなるのがこの季節でもあった。
そしてこの時期。
騎士団は忙しくなる。
と言っても忙しくなるのは主に新人と中堅どころの騎士達。
というのも王都では年に一度の大規模な馬上槍試合の大会が開催されるからだ。
馬上槍試合。
馬に乗り、装備バッチリの騎士が槍を手に、一対一で勝負を行う。
トーナメント方式で行われ、優勝者には賞金に加え、“不死鳥の石”と呼ばれる大変珍しい宝石が授与されるのだ。
不死鳥の石は、その表面は黒いのだが、光に透かすと、中心部で炎が燃えているように見える。その様子は岩から覗くマグマのようだ。この不思議な造形により、この宝石は“不死鳥の石”と呼ばれていた。
馬上槍試合の歴史は長い。
戦乱の時代に行われた馬上槍試合の優勝者は、“不死鳥の石”でペンダントを作り、お守りにしていた。つまり戦場へ身につけて行ったという。
だが長い戦乱の世は終わり、今は平和な時代。
“不死鳥の石”を手に入れた騎士は、宝飾品に加工し、妻や婚約者、恋人に贈るようになった。
エリダヌスが騎士団長でなければ。
かつ過去に優勝経験がなければ。
馬上槍試合に出場できた。
だがエリダヌスは、過去に一度、馬上槍試合で優勝経験があった。かつ騎士団長であることから、出場が出来ない。
“不死鳥の石”は産出量が少なかった。
ゆえに一人が毎年優勝して独占するのはよくないとなっている。よって一度優勝すると、当該の馬上槍試合には、出場出来なかった。
そして騎士団長と副団長は出場出来ない。
当然と言えば当然。
座学だけだはなく、剣槍弓の実力者が、騎士団のトップに選ばれているのだ。よって現役の騎士団長と副団長の出場はNGだった。
とはいえ、この両方を満たす人物はそうはいない。馬上槍試合で優勝するのは簡単なことではないし、優勝者が騎士団長になれるわけでもなかった。
その点からもやはりエリダヌスはすごかった。
すごくはあるが、エリダヌスは既に“不死鳥の石”を得ているし、もう手に入れるチャンスはない。優勝したエリダヌスから“不死鳥の石”を贈られたら、この上なく幸せだろうが、それは無理な話。まさに叶わぬ夢だ。
ということで過去に優勝経験を持ち、騎士団長でもあるエリダヌス。馬上槍試合に出場は出来ないが、その代わりで観覧招待券をもらえる。お茶菓子や手土産もついた観覧席に招待されるのだ。
それは2枚一組。
つまり。
今回、エリダヌスは私を同伴し、馬上槍試合を観覧することになったのだ。
馬上槍試合には王族も参席する。過去に私は第二王子の婚約者として観覧を行っていた。そしてその時の記憶を紐解くと……。
エリダヌスが優勝した時はすごい熱狂だった。
若き公爵家の嫡男。
しかも兜をはずしたその顔の美しさ。
観覧していた令嬢マダムの心を鷲掴みだった。
優勝して以降。
エリダヌスは例年一人で観覧している。
令嬢を同伴すれば噂になり、面倒だったのだろう。
ちなみにご両親は貴族席で観覧する年もあれば、観覧を見送る年もあったようだ。
エリダヌスが出場しないのだから、そうなっても仕方がない。
とにもかくにも。
まさか馬上槍試合をエリダヌスと観覧できるなんて!
その日に向け、ドレスを新調することになった。
さらに。
馬上槍試合では、お茶菓子の販売がある。今回、碧いチョコレートを販売する『ブルームーンチョコレート』も出店することになっていた。
彗星のごとく登場したこのお店は、チョコレートの日に爆売れしている。そこで馬上槍試合の主催者から、出店のお誘いの声がかかったのだ。エリダヌスと関わりがある点も喜ばれ、「ぜひ出店して欲しい」と請われたら、応じないわけがない!
エリダヌスをモデルにした騎士の姿が描かれたパッケージを用意し、馬上槍試合限定デザインのショップカード付きの商品を用意すると……。
招待席のお土産品にも採用してもらえたのだ!
エリダヌスのおかげで私の資産はどんどん増えている。来るエリダヌスとの結婚式に向け、素敵なウェディングドレスや宝飾品も用意できるだろう。それに招待客には存分に美食を楽しんでもらえそうだった。
ということもあり、碧いチョコレートにつながる碧いドレスで、馬上槍試合に向かうことした。
とはいえ生地が碧いドレスでは芸がないので、ホワイトチョコレートを思わせるミルク色の生地に、碧い薔薇がプリントされているドレスを選んだ。髪は左でまとめ、三つ編みにして、陽射し対策で帽子も被る。
準備が完了し、部屋でエリダヌスの到着を待っていると、マルシクが「お嬢様、ウェリントン様が正門を通過しました」と知らせてくれる。そこでマルシクにエスコートしてもらい、エントランスホールへと向かう。
本来そこで待機なのだけど、待ちきれない私はエントランスまで出て、そこで馬車から降りるエリダヌスを見て、テンションが上がる。
騎士団長と分かる純白の装備!
軍服からマント、革のブーツまで白で、装飾品はゴールド。
馬上槍試合の観覧では、いつもエリダヌスは、この姿だった。
「メリディアナ、行きましょう」
声を掛けられた私は、ご機嫌で馬車に乗り込んだ。
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なろう版から絶賛改稿中!
楽しみにお待ちください☆彡
商業化二作品目となります。
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