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【番外編】イースターエッグハント(3)

「……ともかく、ここから出ます。覚悟はいいですか?」


 エリダヌスから覚悟を問われた私は「!?」だった。

 でもその意味、よーく分かった。


 現在、十九歳。

 ドレスも着ている。

 それなのに。

 まさか。


 エリダヌスに。推しに。

 肩車をされるなんて……!


「お嬢様、両手を伸ばし、自分のことを掴んでください。すぐに引き上げますから!」

「え、ええ、お願いね、マルシク」


 落とし穴はそこまで深いわけではなかった。

 私より長身のエリダヌスが肩車をしてくれたのだ。

 後は地上にいるマルシクに引き上げてもらえば……。


 出られた!


「ありがとう、マルシク」


 すぐに振り返り、エリダヌスを助け出さないといけないわ!と思ったが。


「!」


 エリダヌスはさすが騎士団長。

 その身体能力は只者ではない。


 身長もあるため、あっという間に自力で穴から出てきたのだ!


 しかも必死に上って這い出てきた……ではない。


 ひょい、ひょいという感じで足場を上手く見つけ、勢いをつけた状態で飛び出てきたのだ!


「……! さすがウェリントン様です。自分ではあんなに素早く動けません……!」


 マルシクはエリダヌスに比べると、やや筋肉がついている。しかも護衛騎士としてしっかり装備を身に着けていた。まずはそれを脱がないと、エリダヌスのように身軽には動けないだろう。……いや、装備を外したとしても、こうも簡単に落とし穴から出られるのは……。


 エリダヌスだから出来たことだろう。

 鍛えている騎士なら誰でもできる……というわけではないと思った。


「メリディアナ、これを」


 落とし穴に落ちたことなどなかったかのように、エリダヌスは私に駆け寄り、自身のつけていたマントをつけてくれた。ランタンの淡い光に照らされた推しの服は、汚れはほぼなし。対する私は間違いなくお尻のあたりに土がついているだろうし、レースやフリルがボロボロだった。


「ありがとうございます、エリダヌス」


 そこに迷路庭園の運営者がやってきた。

 手にはロープ、脚立、スコップがあり、私を助け出すつもりのようなのだが……。

 相当、慌てた結果なのだろう。


 スコップは……救出では使わないわよね?なんて私が思っていると、彼らは平謝りとなる。


 一体全体この落とし穴は何だったのか。


「実は明日、とあるアカデミーの倶楽部が午前中、貸し切りで予約しているのです。この落とし穴は彼らのサプライズ演出のために用意したもので、入口の生垣にはロープをつけていたのですが……。どうやら誰かが外してしまったようで……。本当に申し訳ございません!」


 これには「なるほど」と納得するしかない。


 何より悪意があり、掘られた落とし穴ではない。ドッキリ番組ではないが、そのアカデミーの倶楽部にとっての、サプライズの仕掛けだった。そこにうっかり入り込んでしまったというのもある。それにロープを張り、通行できないようにしていたのを、誰かが外してしまったのだから……。


 驚いたし、ビックリもしたが、「仕方ない」と私は諦めがついた。


 一方のエリダヌスは冷静に「ロープでは結び目を解くことも出来てしまうので、金属製のチェーンの方がいいかもしれません。でもそれでは生垣が傷つくと言うなら、いっそ臨時で看板を立てる。木製のバリケードをその部分にだけ設置する方がいいでしょうね」とアドバイス。


 迷路庭園の運営者は「おっしゃる通りです。今後は再発防止に努めます!」と宣言し、なんとお詫びに。


 この迷路庭園のイースターエッグハントで一番の宝物となる『新緑の夕べ~フローラル・シンフォニー~』という演奏会のペア招待券をもらえたのだ! この演奏会にはリール・ペテレンという有名な指揮者が登場する。まだチケット発売前だが、争奪戦になると言われていた。さらに席によっては、前世の価値で数十万円すると言われていたので、この招待券をもらえたのは……ドレスはボロボロになったが、ラッキーだと思う!


 苦尽甘来(くじんかんらい)ということで、私はご機嫌でその招待券を受け取り、家路に就くことになった。


 ところが馬車の中でエリダヌスは「迷路庭園の後は、レストランで食事の予定だったのですよ。全部台無しで、ドレスもボロボロなのに。招待券ごときで喜ぶとは」と少々納得できていない様子。確かにドレスはものによっては数百万円するので割に合わないだろう。それにウェリントン公爵家であれば、争奪戦のチケットも絶対に手に入るだろうし、そもそも招待される可能性があったのだ。


 そうなるとこの結果は割に合わない。


 というか。


 エリダヌスは私と夕食を摂れないことを残念に思っているのでは?


 チラリと見た横顔を見て、それを確信した私は……。


「ではエリダヌス、少し時間は遅くなりますが、我が家で夕食はいかがですか? 私が身支度を整える間、お待ちいただくことになりますが」


 私の提案を聞いたエリダヌスは「仕方ないですね。メリディアナがそう望むなら、叶えてあげましょう」と言葉はツンとしているのに、顔はデレている!


 こうして我が家で夕食を摂ることが決定した。

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