【番外編】婚約式~中編(1)~
今日が晴天で本当に良かったと思う。
婚約式の会場は礼拝堂で、そこはこぢんまりとしたホールも併設されている。
よって天気次第ではそのホールの利用も考えていたが、今日はよく晴れていた。
しかも二月にしては暖かい。
まるで一足先に、春がやって来たようだ。
これなら婚約式の後のパーティーは、ホールではなく、庭園で実施で問題ない。
そんなことを思いながら、馬車から降り、エリダヌスのエスコートで礼拝堂へ向かう。
礼拝堂の手前の広場には、婚約式に参加するために集まったエリダヌスの友人や騎士達、私の友人が早速ホットチョコレートを受け取り、賑わっていた。
みんな一点碧いものを身に着けているので、空の碧さが地上にも広がっているように感じる。さらに甘い香りが立ち込め、なんだか温かく幸せな雰囲気も漂っていた。
「チョコレートの日の婚約式。最高ですな」
婚約式は基本的に結婚式と違い、本当に親しい人を少人数招いて行う。
両親の交友関係は広いが、今日来ているのは、一週間に一度は必ず会うような人達ばかり。
建て前ではなく、本音で話してくれる。
その上での「最高ですな」の一言。
本当にそう思ってくれていると分かり、安心できた。
ウエルカムドリンクをホットチョコレートにして正解。
安堵する私のその場でエリダヌスは……。
「今回のホットチョコレート。使うカカオ豆の選定から、メリディアナが動いてくれました。彼女はわざわざカカオの交易についても学んだのですよ」
エリダヌスが惜しみなく私を褒め、居並ぶ両親の友人は「さすがだ」「昔からしっかり者だったが、やはり公爵夫人に相応しい」と称賛してくれる。これも本音の言葉なので、嬉しくてならない!
そこで鐘が鳴り、礼拝堂の中へ入ることになる。
結婚式とは違うので、バージンロードを歩くわけではない。
参列者が着席するまで、控え室で待機。
司祭が先に祭壇に登場し、職員の合図でエリダヌスと私は、祭壇へ登場となる。
その控え室。
エリダヌスと私は二人きりなのだけど。
小ぶりのステンドグラスがあり、丁度その前に置かれた小さなチェストには、主の教えが書かれた書と十字架が置かれていた。エリダヌスはそこで跪き、祈りを捧げる。
ステンドグラスの色とりどりの光がエリダヌスに降り注ぎ、その純白の衣装を淡く輝かせた。
瞼から伸びる長い睫毛。
鼻の高さを感じさせる横顔。
シャープな顎のライン。
少し俯くその顔に注ぐ、明るい陽射し。
ああ、やはり私の推しは尊い……!
祈る推しを見て、拝む私。
胸が熱くなる。
この幸せがずっと続きますようにと。
永遠にエリダヌスと一緒にいられますようにと。
「またわたしに祈りですか? それとも“尊い”ということですか?」
気付けば祈りを終えたエリダヌスが、私を抱き寄せている。
「尊く感じ、そして祈っていました。この幸せが永遠であることを。エリダヌスと一緒にずっといられますようにと」
それを聞いたエリダヌスは、フッと笑みを口元に浮かべる。
「もっと豪華な暮らしをしたい。富を得たい。永遠の若さと命を手に入れたい……ではなく、わたしといることを願うのですか?」
「はい。富を求めたら青天井。日々の生活が成立すれば、それ以上の贅沢を求めるつもりはありません。それよりもエリダヌスと一緒にいられることの方が大切です。それにこの世界に魔法はありませんから、永遠の若さと命は無理な話。でも……エリダヌスとは永遠を望んでしまうのですが」
自分でも矛盾しているので、エリダヌスにツッコまれるだろうなと思ったのだけど。
推しは目を閉じ、無言だ。
もしや呆れすぎて、言葉が出ないのかしら!?
まさに、汗、汗、となっている私にエリダヌスは――。
「今日が婚約式で、結婚式はまだまだ先なのに。メリディアナ、君は何と罪深い……。こんなにもわたしの心を煽り、かき乱すなんて。しかも綺麗に正装した君のことを今、強く抱きしめることも、キスをすることもできないのに」
推しはそう言って盛大な抗議を私にしているが。
それをされた私だって大変な状態になる。
今のエリダヌスは、私に熱烈抱擁し、キスをしたいと思っていると、ハッキリ口にしたのだ。
推しが正面切ってそんなことを言い出すなんて!
まさに悶絶気絶案件、キュン死確定だろう。
「メリディアナ、意識を失っている場合ではありません。これから婚約式ですよ」
も~、それならそんなに骨抜きにするようなことを言わないでくださいっ!とは言えず、「そうですよね」とばかりにこくこく頷く。そこで扉がノックされ、職員に祭壇へ向かうよう促される。
その瞬間。
エリダヌスは聡明な騎士団長の顔に変わった。
優雅な動作で私の手を取り、ゆったりとエスコートを始める。
抱きしめたい、キスをしたいと言っていた名残は……どこにもない。
美麗な笑顔と共にエリダヌスが歩き出すと、職員は男女問わず、推しに見惚れる。
こうして婚約式がスタートした。














