7話:どちらが本命!?
部屋を訪ねてきたのは……娼婦二人だ。
赤毛と茶髪の二人は、ラサとラナと名乗った。
赤いドレスに豊満な肉体のラサ。
黄色のドレスに女性らしいバランスのとれた体型のラナ。
共通項は胸が大きい!
「えーと、男性二人に女性一人と聞いていたのだけど、もう一人はどうしちゃったのかしらぁ?」
「気にする必要はないですよ。ちょっと外出しているだけです」
エリダヌスはニコニコと答えると、二人は彼の胸にしなだれかかる。
「まあ、お兄さんならあたし達二人のこと、一人で満足させてくれますよね」
「体力もたっぷりありそう♡ できれば時間延長してください!」
「それは君たち二人のサービス次第ですかね」
エリダヌスの答えに二人の娼婦は「「きゃーっ!」」と盛り上がる。
私は完全にアウェイで、この様子を見るしかない。
「えっと、あたし達、女性もOKですから、お姉さんも一緒に楽しみましょう」
「そのドレス……もしや貴族のお嬢様? でも貴族の女性がそんなに髪、わっ、きゃーっ!」
そこで二人は床に散らばる私の髪を見て、ぎょっとして悲鳴を上げていた。
それを見たエリダヌスは静かに命じる。
「まずは床掃除からお願いします。それが終わったら、夕食を注文したいのです。給仕を頼みます」
体の奉仕ではなく、掃除と給仕を頼まれた二人の娼婦は「「えーっ」」と悲し気な声を上げた。
◇
娼館を利用するなんて、当然初めてのこと。
でもエリダヌスの様子を見るに、どうやら部屋にやってきた娼婦には、体以外のサービスも頼めるようだ。つまりは床を掃除したり、夕食を頼み、給仕させたりすること……多分、お酒を注ぐから派生した行為だと思うけれど、それも許されるようだ。
マルシクが戻って来たタイミングで夕食が届き、ソファで三人横並びに座り、ローテーブルに置かれた料理を食べることになった。すると二人の娼婦は料理を取り分けたり、グラスが空けば飲み物を満たしたりと、ちゃんと給仕をしてくれた。さらには食後、私の入浴の手伝いもしてくれたのだ!
「ちょっとこの肌のすべすべ具合は普通じゃないわよね。やっぱりあなた貴族のご令嬢よね。どうしてまた髪を切ったりしたの?」
それを問われると非常に困るのだけど、ここは上手く切り抜けるしかない。
しかもこれからここにしばらく滞在するのだ。
そこでこんな事情を打ち明ける。
「実は……意に沿わぬ縁談話を持ち掛けられ、親元から逃げてきました。親は捜索をしていると思うので、バレないように髪を切り、男装することに決めたのです。私がここへ滞在していることは……秘密にしてください」
「まあ、そうなのね。それでどちらが本命なのかしら?」
「本命……?」
つまり彼女達はこう解釈した。
意に沿わぬ縁談話を持ち掛けられ、さらに私には意中の男性がいる。
それが……エリダヌスかマルシクのどちらかだろう、ということ。
そしてその相手と結ばれるため、恋の逃避行中なのだと。
とんでもない誤解だった。
ただこの誤解は好都合でもある。
今は夜で情報は出ない。
だが明日の朝刊には、私の逃亡が新聞記事に掲載される可能性が高かった。
それを踏まえると、先に誤解してもらっておいた方が、新聞記事を見てもスルーされる可能性が高かった。
とはいえ。
もしもこの話をエリダヌスが聞いた場合に備え、こう答えることになる。
「少し日焼けした健康的な彼が、私の恋人です。もう一人は護衛騎士」
「ええ、あの方がただの護衛騎士なんですか!? でも確かに騎士団の隊服を着ていらっしゃいますよね。えー、そうなんですか。あ、でも好都合かしら? 私のタイプはお嬢さんの恋人ではなく、護衛騎士の方ですから」
「お嬢さんの恋人も、ワイルドな雰囲気で確かに素敵だと思います! ただ、ブロンドの彼も本当に逸品ですよね。でも恋人ではないなら、あたし達とたっぷり楽しんでくれそう!」
二人は勝手にいろいろ想像し、盛り上がってくれた。
体を洗い終えると、マルシクの用意してくれた染料で、髪をブルネットに染めることになった。せっかく美しいシルバーブロンドなのに。前世と近い髪色になることは残念だが仕方ない。
こうして無事入浴が終わると、私は綿の白い寝間着に着替えることになった。ロングのカシュクールタイプのワンピースで、そのままでは体のラインが思いっきり出てしまうので、厚手のガウンも用意してくれた。
季節が夏ではなく、初春で良かったと思う。
まだガウンが欲しい朝晩の寒さだった。
こうして一通りの手伝いが終わると、二人の娼婦は部屋を退出することになった。
エリダヌスは、いろいろなことへの口止め料として、相応のチップを渡そうとした。ところがそれよりもハグやら頬へのキスをねだられ、それに応じることになる。
それを見た私は、途端に申し訳ない気持ちになっていた。
味方がどうしても欲しいとエリダヌスを巻き込んでしまった。
だが蓋を開けたら、護衛騎士のマルシクが戻って来てくれたのだ。
これなら無理にエリダヌスを巻き込まないでよかったのでは……と。
しかも無休で働き続け、せっかくの休暇を得たのだ。
それを私のために使わせるなんて……。
冷静に考えると、いくら絞首刑がかかっているとはいえ、かなり身勝手だった気がする。
マルシクは入浴していたので、私はソファに座るエリダヌスに、素直に謝罪をした。
すると私の推しは、またも何とも言えない表情となり、だが自分の隣へ座るようにと言った。
何を言われるのだろうと、ドキドキしていたが……。














