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46話:何でも持っているなら、一つぐらいくれてもいいわよね?

 踏んだり蹴ったりとは、まさにこのこと。

 途中までは上手く行っていたのに。

 どこからどう、間違ったのかしら?


 私は男爵令嬢ラーン・イングリス。


 自分で言うのもなんだが、私は実に可愛らしいし、愛されやすい性格だと思う。


 だって。


 私の両親は勿論、使用人もみんな。

 ファンなのだ、私の。

 みーんな、私の言うことを聞いてくれる。

 「欲しい」と言えば与えてくれる。

 「嫌だ」と言えば排除してくれる。

 でも……。

 手に入らないものがあった。


 この国の第二王子リギル殿下。


 なぜダメなのか?

 婚約者がいるから。


 公爵令嬢メリディアナ・リズ・アンブローズ。


 私が愛らしいというなら、メリディアナは“綺麗”になるのかしら?

 美人であることは認める。

 頭も良く、乗馬も得意で運動神経もいいという。

 リギル殿下に相応しい、才色兼備の公爵令嬢。


 公爵令嬢。


 そう、そうなのよ。

 彼女は私が男爵家の令嬢なのに対し、格上。

 貴族社会では王族を除いた最上位だった。


 つまり何でも持っている。


 何でも持っているなら、一つぐらいくれてもいいわよね?


 ということで私はメリディアナからリギル殿下を奪うことにした。

 奪えるかどうか……。

 それは私にどれだけ魅力があるかどうか、にもかかっていると思う。

 同時に。

 公爵令嬢メリディアナに魅力がなければ、彼女は振られる。


 つまり私のことをリギル殿下が好きになったとしたら、それは私が魅力的であり、かつメリディアナより私が優れていたということ。それはまさに女の魅力の弱肉強食。魅力のある方が、リギル殿下の愛を得ることができる。


 宣戦布告は一応した。


 メリディアナに挨拶をしたのだ。でも彼女、私のことなど眼中にないみたいで。忙しそうに去って行く姿を見た時は、私が男爵令嬢だからって、見下していると思った。だからリギル殿下とお近づきになって、気さくにおしゃべりできるようになった時。すぐに報告した。メリディアナは格下の男爵令嬢である私のことを蔑んでいるって。それを聞いた時、リギル殿下はとても驚いていた。


「え、本当に? 彼女がそんなことを……?」


 信じてもらえていないと分かったから、言葉を尽くしてメリディアナが冷たいと訴えた。多少盛っているところもあったと思う。でもそれは言葉のあや。


 そこまで言って初めて、リギル殿下の心の中に、メリディアナに対する不信の種を植え付けることができたと思う。あとはその種をじっくり育てて行った。卒業するまでに、リギル殿下の心を完璧に手に入れればいいと思って……。


 私はゆっくり時間をかけて……と思ったけれど。才女のメリディアナは、色恋沙汰でも優等生だった。リギル殿下はお年頃。手をつなぐだけではなく、抱きしめたり、キスをしたり、少し際どいスキンシップをしたり。そういうことを望んでいたのに、メリディアナはやんわりとそれを拒否していた。まるでそういうことは、結婚後でお願いします……みたいに。


 そんなお堅い頭では、愛想を尽かされて当然。リギル殿下はすぐに私にぞっこんになってくれた。もうこれでメリディアナから奪うことができたと確信し、リギル殿下に告げたのだ。


「メリディアナ公爵令嬢との婚約、解消してください。王家だったらなんでもできますよね!」と。そうしたらリギル殿下は……。


「それはさすがに無理だ。相手は公爵家で、その先祖もまた王族の一員。軽んじることなどできない。それに婚約契約書では、相手の有責で解消しない限り、違約金や賠償金を払うことになる。王家と公爵家だ。その金額は……膨大。父上も絶対に許してくれない」


 こう言われた時は、驚いて言葉が出ない。


 私のことを好きになってしまった。私と結婚したいと思っている。だからメリディアナとの婚約を解消――それが当然の流れだと思ったのに。


 え、なんで今、私と交際しているの?

 キスをしたり、抱きしめたり、この前なんて一緒のベッドで昼寝もしたわよね?

 それはメリディアナと婚約破棄するから、したのではないの?

 最初から別れるのは無理と分かった上で、私を都合のいい女扱いした……?


 まさか!

 私は愛らしくて、みんなから愛されるラーンなのよ。

 そんなこと、あるわけがない!


 絶対に。

 ぜーったいに! 私はリギル殿下と婚約する。

 そのためには、メリディアナが有責となるような決め手が必要。


 何か方法を……。


 そこから私は、メリディアナがリギル殿下から婚約破棄されるような埃がないか。探すことにした。

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