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35話:まさかの人物が

 証人尋問は、ラスペルバだけと聞いていたのに。

 まさかの人物が現れる。


 新たに法廷へやって来たのは、行方不明になっていた御者だ!

 その名はジン。


 一体どこにいたのを見つけたの!?


 驚いて弁護士チームを見たが、そのみんなが見ているのは……エリダヌス!

 どうやら御者のジンの発見には、エリダヌスが関わっているようだ。


 ともかく亜麻色のクセ毛にエメラルドグリーンの瞳、年齢はまだ若いジンに、皆の注目が集まる。彼は緊張した面持ちだったが、しっかりとこう証言してくれた。


「住み込みで働いていたぼくは、あまり外へ出ないのですが、その日は仕事が休みでした。そこで妹に会いに屋敷を出て、レストランで一緒に昼食を摂ったのです。妹は夜からの仕事なので、会えるのは日中しかないので。そのレストランで声をかけられたのです。ある計画に協力してくれたら……ものすごい大金をくれると」


 前金で渡すと言われたお金は、一年分の給金にあたる。しかも依頼を引き受け、成功したら三年分の給金に匹敵するお金を渡すと言われた。さらに地方の有力貴族の所で働けるよう、仕事を斡旋すると言われたのだ。


「ぼくは没落貴族の息子です。両親は王都から離れた村で農作業をし、妹は娼館で下女として働いている。この困窮から逃れるには、お金が必要です。でもアンブローズ公爵家からいただく給金、仕事内容、待遇に不満はありませんでした。よってこの誘いは断るつもりだったのです」


 ところが「お断りします」と告げると「ならばお前の妹は死ぬぞ」と脅された。誰かに相談したり、余計なことをしたりしても、殺す――そう脅されてしまったのだ。


 二十四時間、妹のそばにいることはできない。それに娼館は客の出入りがあり、もしそこにくせ者が紛れ込んでも、対処が難しいだろう。妹を守るため、ジンは悪魔の指示に従うしかなかった。


「人を殺せ……そう言われるのかと思ったら、ある令嬢を馬車で轢き殺すフリをすればいいと言われたのです。轢き殺すフリをするなんて。御者としてそんなこと、できません。でもやらなければ妹が殺される。そして指示に従い、実行することになりました」


 通常、どこかへ移動する時のルートは、御者に任せられる。途中で立ち寄る先があったり、あるじにこだわりがなければ。そしてジンは、事前に私の移動先をリギルとラーンの手下に伝えた。するとある通りのある場所を通過するよう、命じられたのだ。それが彫刻家ラスペルバのアトリエがある通りだった。


 仕事終わり前、夕食にはまだ早く、それでなくても少ない人通りがさらに減る時間。いつも同乗する侍女はジンの画策もあり、乗っていない。さらにあるじである私に「お嬢様の大好きなエクレアのお店の近くを通ります」とあらかじめ伝えている。そのエクレアのお店の近くを通ると、ほぼ百パーセントの確立で、私は護衛騎士のマルシクや侍女に買いに行かせていた。よって今回も買いに行くだろうと、ジンは分かっていた。


 それらを踏まえた上で、リギルとラーンが登場。轢き殺すフリをすることになった。


「実行した後は、すぐに屋敷へ迎えが来ました。その場で全額お金を渡され、新しい仕事先となる領主の屋敷まで送り届けてくれたのです。こんな形でお嬢様の前から姿を消すことになり、申し訳ない気持ちでいっぱいでした」


 そこで唇を噛んだジンは私を見て、深々と頭を下げた。

 事情が事情なので、仕方ないと思う。


「話を続けてください」


 裁判長に促され、ジンは話を続ける。


「新しい仕事先となった領主は、今回の件を依頼した男と、何かつながりがあるようで……。つまり監視目的だったんです。後からぼくが余計なことをしないよう、見張るための。そのために新しい職場を斡旋したのです」


 どこに自分がいるのか。妹に知らせることは許された。

 領主の名前は言えないが、どの辺りにいるかは伝えていいという。

 だが郵便物は出す前に、ヘッドバトラーにチェックされる。

 その代わり、郵便代は払わないでいい。


 完全に飴と鞭で、ジンはコントロールされていた。


 でもそこに転機が訪れる。

 今回この裁判、新聞でも大々的に取り上げられた。

 それは地方紙にさえ、掲載されるレベル。


 良心の呵責もある。お世話になったアンブローズ公爵家を、私を裏切った負い目もあった。そこで妹の身請け先が決まり、そのお祝いで王都へ行きたいと、領主に頼み込んだ。そしてなんとか許しを得ることが出来た。


 実際、妹は身請けされる。つまり嘘はついていない。そして調べもついたのだろう。許可され、王都へ戻ったジンは、秘密裡で私の弁護士チームに接触。この証言台に立つことになったのだ。

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