33話:暴挙
第一回の裁判が行われる日がやって来た。
この頃には彫刻家ラスペルバの重い風邪も、すっかり完治している。セフィナの献身と深い愛情のおかげだ。
そう、この二人。
やはり心の絆で結ばれていた。
セフィナに記憶がなくても、彼女は再びラスペルバと恋に落ち、二人は交際することになったのだ。これには本当に良かったと思う。奇跡はあるのだなぁと、感動してしまった。
そしてラスペルバはいつでも証言できる状態になり、迎えた第一回の裁判。
弁護士とは別々で、裁判所に入ることにした。
私はエリダヌス、マルシクと三人でいつも通り変装。時間をずらし、裁判所へ向かった。控え室に着くとドレスに着替え、かつらを被る。これで私達がどこに滞在しているか、バレずに済んだ。
ドキドキを胸に、法廷へと向かう。
その法廷で再会した第二王子リギルは、もう死人みたいな顔になっている。おそらく国王からたっぷりお叱りを受け、今後のことも指示されているのだろう。死刑宣告を既に受けたような状態で、魂が抜けている。
対してヒロインである男爵令嬢ラーン・イングリスだけは、憤怒の表情。これは一切を諦めていない顔だ。国王の沙汰については、まだ聞いていないのだろう。起死回生を目論んでいる。
さらに私の胸を熱くしたのは、久しぶりに見た両親と兄の姿。
三人とも目で「分かっている。お前を信じている」と語りかけてくれている。
未だ両親に連絡を取れず、会うことがままならないのは、家族を巻き込まないためだ。窮鼠猫を嚙むということで、リギルとラーンが家族に何かする恐れがあった。
そんな中、これからの裁判の基本となる双方の主張の確認がなされ、争点が明確化された。その際、こちらで証人尋問を行うと伝えると、ヒロインのラーンはハンカチを噛み、「キーッ」と唸っている。
しかも第二回は二週間後に行われるのだ。この異例のスピード感に、リギル達の弁護士は目の下に深いクマを刻んでいた。
対してこちらのチームは、前倒しになることの予想を立て動いているので、問題なし。何より証人となるラスペルバがすぐそばにいるのだから、いつでも動ける。
ということで無事、第一回の裁判は終了した。
法廷を出ると、控え室へ向け歩き出す。
エリダヌスは変装した姿で、マルシクは離れた場所から私を見守り、弁護士チームのメンバーと共に廊下を進む。せっかく対面で会えたので、次回について作戦会議をしてから、解散ということになっていのだ。
「次回はいよいよ証人尋問ですね」
弁護士チームの一人に、そう声をかけられたまさにその時。
「危ないっ!」というエリダヌスの声と共に、いきなり彼に抱きしめられる。
弁護士チームの面々が悲鳴をあげ、「放してよ!」の叫び声。
一体全体何が起きたのか。
私達の控え室は三階。
第二王子のリギルとヒロインのラーン達の控え室は、二階だ。
フロアが別れているのは、鉢合わせしないため。そして法廷は、一階の部屋で開廷だった。
控え室のあるフロアと、一階以外は原則、行き来は禁じられている。さらに階段の踊り場には警備兵もいるのだけど……。
ラーンはその目をかいくぐり、三階へやって来た。そして持参していた卵を、私目掛けて投げつけたのだ! でも卵は私にぶつかることはない。なぜならエリダヌスが私を抱きしめ、庇ってくれたからだ。しかも彼はマントを着用していた。二個の卵を背中に受けたが、汚れたのはマントだけで済んでいる。廊下に敷かれた絨毯は、汚れてしまったが。
さらにラーンを捕らえたのはマルシク。
ラーンが卵を投げる前に、阻止しようとマルシクは動いた。だがそこには、弁護士チームのみんなもいる。ラーンの所へ到達するのに、時間がかかってしまった。
マルシクは卵が投げられてしまったことを悔やむが、ラーンは柱の陰に隠れ、突然出てきたのだ。仕方ないと思う。
ともかくラーンは警備兵に引き渡された。弁護士チームの面々は、暴行罪、名誉棄損、侮辱罪、衣装を汚したことに対する損害賠償など、現在の訴訟に追加請求できないか、確認するという。
つまりラーンは腹いせで卵を投げたが、それは単純に自身の罪を増やすことになっただけだ。しかも私には、その卵はぶつかっていない。本来の目的は果たせず、罪だけ増える。最初からやらなければいいのにと思うが、それだけ腹の虫が収まらなかったのだろう。
それよりも。
「エリス様、マントは弁償します」
「お気遣いなく……と答えたいところですが、せっかくなのでそれは受け取りましょう。どうせ男爵令嬢に、損害賠償として請求できるでしょうから。後日、一緒にお店へ行ってくださりますか?」
「勿論です!」
こうして波乱万丈の第一回目の裁判が終わった。


















