32話:意外な動きが起きる
現状、貴族達はどう反応しているのか。
ひとまずは静観だ。
まだ疑惑は晴れていない中、私=アンブローズ公爵家に味方する貴族は限られている。大半が裁判の結果を見守る形だ。
「陛下に謁見し、その心中を確認したところ、頭を抱えていましたよ」
エリダヌスは休暇中の身。
だがふらりと宮殿へ向かい、騎士団で問題が起きていないか確認する一方で、国王にも謁見していた。エリダヌスが宮殿にいると知った国王から、声がかかった形だ。
「有責であれば、こちらから一方的に婚約破棄できる――ということしか第二王子の頭にはないようです。そうできると信じ切っていた。ゆえに陛下には君を連行後、事後報告するつもりだった。そこで独断で動いたところ、君が失踪し、挙句証人がいるとなり……。陛下はこの状況を、どうしたものかと嘆いていました。それでも第二王子は、可愛い息子の一人。庇いたい気持ちがある。陛下としては、少しでも早い幕引きを願っています。できれば第二王子に、余計な害が及ばない形での」
どうやら国王としては、第二王子であるリギルさえ守れれば、ヒロインを切り捨てするつもりらしい。婚約も内定しているだけで、決定ではなかった。確かにこの段階なら、婚約も覆すことができる。
ヒロインは国王のこの心境を知っているのかしら?
知っていたら……相当焦っていると思う。
そして私が用意している証人が誰であるのか、気になって、気になって、仕方ないだろうと思えた。
第二王子の代理人である弁護士からは、私達の弁護士チームに対し、訴状の取り下げの申し入れがあった。つまり和解の提案だ。だが、それは却下。私達が正しかったということを、正々堂々、大々的に世間に知らしめる必要がある。貴族にとって、名誉こそが命。でっち上げで轢き殺し未遂事件を起こした第二王子とヒロインには、きっちり罰を与える覚悟だった。
こうして提訴してから一週間後。
訴状は受理され、第二王子達もしぶしぶ答弁書を提出した。
ここで意外な動きが起きる。
動いたのは国王だ。
私達の弁護士チームの所へ、国王から特命を受けた人物が現れた。そして証人に何を証言させるつもりなのか、明かして欲しいという。証言から、明らかに第二王子に非があると分かったら。裁判は迅速に行い、第二王子に罪を認めさせるというのだ。
つまり取引の打診が来た。
提案内容が記載され、王印が押された書類も用意されている。
でもこれは裏取引。
しかしこの世界では、こういうことが割とまかり通っているという。
これについて弁護士チームの見解は……。
「国王がこのような形で動くのは、異例のことです。きっと陛下の中では、落としどころが見えているのでしょう。もし覆すことがあれば、新聞社にリークしていいと言っています。この王印つきの書類を暴露していいと。これなら取引しても、いいのではないでしょうか」
エリダヌスも国王に会い、いろいろ探ってくれた。
「陛下はこう考えているようです。この裁判で第二王子が敗北したら、男爵令嬢との婚約内定は取り消し。第二王子には爵位を与え、地方領へ赴任させるようです。刑罰を与えることにはなりませんが、王族ではなくなる。これは本人に大きなダメージを与えます。ですが陛下としては、刑罰を受けるより、第二王子の名誉は守られると考えたようです。ゆえにこの取引、受けていいと思います」
なんというか騎士団長であるエリダヌスがここまでしてくれることに驚くが、彼曰く「今は休暇中です。わたしは騎士団長として動いているつもりはないですから」なんて言っている。
本当に、いろいろ驚くことが多い。ただこの世界、様々なことが前世より、厳密ではない。ゆえにエリダヌスのこの協力に感謝しつつ、国王との取引に応じることにした。
取引に応じた結果、通常は一か月から二か月後に行われる第一回の裁判が、わずか二週間後に行われることになった。これには私達の弁護士チームもビックリだったが、迅速に準備を進めてくれる。こうして万全の状態にできた。
一方の第二王子の弁護士達は、まさに泡を吹く状態。
でも決定事項なのだ。
もうドタバタ状態で彼らは、その日を迎えた。
いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!
【お知らせ】最終章開始
『森でおじいさんを拾った魔女です~ここからどうやって溺愛展開に!?』
https://ncode.syosetu.com/n4187jj/
併読されている読者様、お待たせいたしました。
遂に第五章:幸せな帰結がスタートです。
ページ下部のリンク付きバナーからどうぞ!























































