↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
29/112

29話:甘いですね

 画廊のオーナーが言った通り。


 セフィナが外している時に目覚めたラスペルバは、薬の効果もあり、盛大に「ここはどこだー!」「わしゃ、アトリエに帰る!」と大騒ぎ。従者とバトラーが駆け付け、なんとかベッドに押さえ込んでいるところへ、私達は駆け付けることになった。


 そこでエリダヌスが事態を説明する。


「……なるほど。わしゃアトリエで重い風邪のせいで熱が出て倒れていた。そこに騎士団長さんの騎士と従者が偶然発見し、診療所へ連れて行き、そして保護するはずだったお屋敷まで運んでくれたのか……」


 普通はここで「それはありがとうございます」になると思う。

 だが、相手はラスペルバ。そうはならない。


「なぜアトリエの上の寝室に連れ帰ってくれないんだ! わしゃそこでないとダメなんじゃ。今すぐ帰る!」


 ラスペルバが叫び、エリダヌスが口を開きかけたその時。

 扉がノックされ、凛とした声で「失礼します」の声が聞こえる。


 振り返ると、メイド長セフィナが部屋に入って来た。


 その瞬間。


 ラスペルバが固まった。

 目でセフィナの姿を追い、口がぽかんと開いてしまっている。


「あまりにも大声なので、廊下にまで聞こえてきました。窮地を助けていただいたのに。御礼の一言もなく、自分の我がままを通そうとするなんて。聞いて呆れます。なんて厚かましい方なのでしょうか」


 背筋をピンと伸ばし、カツカツと歩くセフィナは、とてもカッコいい!

 まさに仕事がデキる女性という感じ。


「セ、セフィナ嬢……」


 ようやく声が出たラスペルバは……。

 瞳がキラキラと輝いている。

 さらに髭で分かりにくいが、頬も赤いと思う。


「彫刻家のラスペルバさん。私は確かにセフィナと申します。あなたと私、お知り合いのようですね。でも私、馬車の事故に遭い、記憶が一部ないのです。あなたのことも……残念ながら覚えていません。ですが私、恩人にお礼を言えないような知り合いは、そもそもいないはず。あなたとは……」


「申し訳ございませんでした!」


 ラスペルバはベッドの上で、なんと正座をして、頭をついて謝罪をした。

 この世界に正座の文化はないが、自然と謝意を示そうとしたら、その姿勢になったようだ。さらに――。


「倒れたわしのことを診療所へ連れて行き、診察を受けさせていただいたこと、そしてこんな立派なベッドで休ませてくれたこと。心から感謝する。ありがとうございます」


 これにはマルシクとエリダヌスと顔を見合わせ、笑うしかない。

 セフィナの前だと、ラスペルバはとても素直だ。


「謝罪と感謝の言葉、よくできました。それでは病人は引き続き、ベッドで横になってください。間もなく昼食ですが、食欲はありますか?」


 そう言うとセフィナはベッドに近づき、そこに置かれている丸椅子に腰を下ろす。

 その様子を見た私達は、そっと部屋から出て行く。


 これから。


 これからあの二人は、沢山、話をするだろう。

 昔の記憶がなくても。

 思い出を失っていても。

 これから一緒に作っていけばいいのだ。

 重い風邪の回復には、二週間ほどの安静が必要。

 その間に二人はきっと――失われた時間を取り戻せると思った。


「坊ちゃま、少し早いですが、昼食にされますか? 用意はできています」


 部屋を出るとヘッドバトラーに声をかけられた。


「そうだね。リズベルト、マルク、お腹は?」

「「空いています!」」


 こうして少し早い昼食となった。


 ◇


 昼食の席で私はエリダヌスに、ラスペルバも無事保護できたので、いよいよ公爵邸に戻り、裁判の準備をしようと思うと話した。


 すると。


「甘いですね」


 即刻撃沈した。


「無罪を証明できる証人がいる。ゆえに不当な罪で連行しようとしたことに対し、抗議し、裁判を起こします……と考えたのでしょう。それ自体は間違っていませんが、公爵邸に戻るのはダメです。証人を見つけたと声を上げる前に、黒の塔へ連行されてしまいます。もしその状況で『私には無実を証明できる証人がいるんです!』とでも言ったらどうなるのか」


 どうなるのか。

 サーモンのソテーを食べる手を止め、真剣に考える。

 そこで気づく。


「どうやら分かったようですね。ラスペルバはここで保護しています。ウェリントン公爵家のタウンハウスですから、警備は王宮並みと考えてくださっていいでしょう。ここにいる限り、ラスペルバは……証人は、安全です。ですがその証人を必要とする、容疑者扱いされているリズベルト様が、第二王子の力が及ぶ黒の塔に連行されていたら……。理由なんていくらでもでっち挙げるでしょう」


 つまり連行されたことにショックを受け、自ら毒をあおり、死を選んだ。

 流行り病にかかり、突然死した。

 自由時間に階段で足を踏み外した……などいくらでも言い訳が立つ中、私は密かに抹殺されるわけだ。


「つまり公爵邸には戻らず、裁判の準備を進めた方がいいのですね?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【一番星キラリの作品を紹介】
作品数が多いため、最新作を中心にバナーを並べています(2025年12月の大掃除で・笑)。 バナーがない作品は、作者マイページやタイトルで検索でご覧くださいませ☆彡

●9/2発売●
バナークリックORタップで書報ページ
悪役令嬢はやられる前にやることにした
『悪役令嬢はやられる前にやることにした』

●本編完結●
バナークリックORタップで目次ページ
やらかしてしまったモブ令嬢です
『やらかしてしまったモブ令嬢です 』

●新連載●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢に転生!婚約破棄で推しと家族が闇落ち!回避したいだけなのに
『悪役令嬢に転生!婚約破棄で推しと家族が闇落ち!回避したいだけなのに』

●出版社特設サイトはコチラ●
バナークリックORタップで出版社特設ページへ
婚約破棄を言い放つ令息の母親に転生! でも安心してください。軌道修正してハピエンにいたします!
80ページが試し読みできる特設サイトへ
『婚約破棄を言い放つ令息の母親に転生! でも安心してください。軌道修正してハピエンにいたします!』


●出版社特設サイト●
バナークリックORタップで出版社特設ページへ
婚約破棄を言い放つ令息の母親に転生! でも安心してください。軌道修正してハピエンにいたします!②
『婚約破棄を言い放つ令息の母親に転生! でも安心してください。軌道修正してハピエンにいたします!② 』

●溺愛は求めていませんよ?●
バナークリックORタップで目次ページ
平凡な侍女の私、なぜか完璧王太子のとっておき!
『平凡な侍女の私、なぜか完璧王太子のとっておき!』

●壮大なざまぁを仕掛けます!●
バナークリックORタップで目次ページ
婚約破棄された悪役令嬢はざまぁをきっちりすることにした
『婚約破棄された悪役令嬢はざまぁをきっちりすることにした』

●もふもふも登場!●
バナークリックORタップで目次ページ
断罪の場で自ら婚約破棄シリーズ
『断罪の場で悪役令嬢は自ら婚約破棄を宣告してみた』は
日間恋愛異世界転ランキング3位!

●章ごとに読み切り!●
バナークリックORタップで目次ページ
ドアマット悪役令嬢~ドン底まで落ちたらハピエンでした!~
『ドアマット悪役令嬢はざまぁと断罪回避を逆境の中、成功させる~私はいませんでした~』

●紙書籍&電子のコミカライズ化決定●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢に転生したらお父様が過保護だった件~辺境伯のお父様は娘が心配です~
『悪役令嬢に転生したらお父様が過保護だった件~辺境伯のお父様は娘が心配です~ 』

●これぞ究極のざまぁ!?●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢は死ぬことにした
250万PV突破『悪役令嬢は死ぬことにした』

●じれじれの両片想い●
バナークリックORタップで目次ページ
陛下は悪役令嬢をご所望です
『陛下は悪役令嬢をご所望です』

●心温まる物語●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢は我が道を行く~婚約破棄と断罪回避は成功です~
『悪役令嬢は我が道を行く~婚約破棄と断罪回避は成功です~』は勿論ハッピーエンド!

●胸キュンな恋物語●
バナークリックORタップで目次ページ
せと恋~瀬戸内の夕陽がつなぐ島の恋~
『せと恋~瀬戸内の夕陽がつなぐ島の恋~ 』

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。