20話:初めて見る推しの妖艶な表情
ルクルド達を襲撃した犯人が分かった。暗殺ギルドの『グジャ』。彼らを捕らえることは……。
「難しいことだと思います。『グジャ』の本体がどこの国にあるのかも分かっていません。現状、現行犯でその場で捕えない限りは……。ただ、別件の容疑で捕まり、そこで他の犯罪も明らかになる……ということもありますが……。結局、現行犯で捕えても、それは末端の人間。『グジャ』本体へのダメージは低いと思います」
エリダヌスはそこで大皿の肉料理を、私やマルシクの分も取り分けてくれた。
これにはもう恐縮するばかり!
私の推しはゲーム通りで親切だった。
「ただ『グジャ』へ依頼をした貴族。宰相は分かっているのです。その名を出すかどうか。それはまさに陛下と宰相が話し合いを重ねています。『グジャ』により警告が与えられ、自身の息子が害されているのです。怒りと共に、貴族の名を陛下に伝えてしまうのか。ただそれを伝えることで、報復される可能性もあるので、難しいところです」
まさにジレンマだ。自らの命を賭してまで貴族の不正を暴くべきなのか。
「『グジャ』とリズベルト様は、接点がないですよね。あの時、狙われたのは……いくつか可能性があります。ターゲットだった宰相の令息を、害するところを見られてしまった。だから口封じのため、動いた。もしくは生き残りを出すつもりなく、最初からターゲットの周囲にいた者を害するつもりだった。いずれにせよ、『グジャ』側はリズベルト様やわたしに姿を見られたわけでもないので、今後、余計な手出しはしてこないでしょう。ゆえにこの件からは一旦離れ、ご自身の件で動いた方がいいと思います」
つまり『グジャ』の件は国王や宰相に任せ、私の無実を証明してくれる証人――あの彫刻家ラスペルバの件をどうするか考えた方がいいと、言ってくれている。ならばラスペルバのことを話すまでだ。
そこでアトリエにラスペルバを迎えに行き、取り付く島もないぐらいに断られた――そのことをエリダヌスに話した。さらに昼食をとった洋食屋で偶然、ラスペルバの作品を扱う、画廊のオーナーに会うことが出来たこと。そこでラスペルバが保護を断る理由が明らかになったことを話した。
「なるほど……。そんな理由で保護を断るとは、驚きました。ですがそのメイドの名前、セフィナ。聞き覚えがあるのですが」
これにはマルシクと私は「!?」となってしまう。
「保護のために使おうとしていた三つ目の屋敷。そこでメイド長をしているのは、セフィナという女性です。ウェリントン家に仕え、かれこれ五十年近いと聞いています。地方領の領主の娘で、行儀見習いでウェリントン家にやってきたはずです。ただ一時期、王都ではない別の領地の屋敷の管理を任されていた時期があったはず……。そして彼女は独身です」
これには間髪を入れず、声を上げることになる。
「間違いなく、その方ではないでしょうか!? 地方領の領主の娘であることもそうですが、ラスペルバさんが屋敷を訪ねた時、『セフィナというメイドはもうここにおりませんが』と言われたそうですが、それはまさに王都ではない別の屋敷に赴任していた時だったのではないでしょうか」
「そうですね。そう思えてきます。実は伝書鳩を連れ帰ってきているので、その件、尋ねてみましょう。いずれにせよ、今日、保護するべき人物が現れなかった理由を報告する必要がありましたので」
そこでふと思う。メイド長をしているなら、保護する人物が彫刻家のラスペルバであることは、知っているのではないか。「私が知る人物です」と報告はなかったのかと。
「屋敷の使用人達は、職務中はプロフェッショナルに徹しますからね。プライベートで関係した相手のことなので、あえて口には出さなかったのかもしれません」
いずれにせよ、今日伝書鳩を飛ばせば、答えは明日の朝には分かるだろうとのこと。
もしウェリントン家の三つ目のタウンハウスのメイド長が、あのセフィナであるならば。ラスペルバは、喜んで保護されてくれるのでは? ずっと会いたかったはずなのだから。
こうしてお互いの今日の報告が終わり、エリダヌスはお土産のチョコレートを食べながら屋敷へ送る手紙を書き、マルシクと私は夕食の後片付けをして、ラサとラナには入浴の準備をお願いした。
こうして昨晩と同じで、寝る準備が整った。
マルシクはソファ、エリダヌスと私はベッドだ。
昨晩に続き、二日目。
エリダヌスと同じベッドでも、もう興奮することはないだろう。
それに今日はなんだかんだで動き回った。
爆睡だろう……。
そう思ったのに。
全然、眠気が訪れない。
どうしたって推しと同じベッドで平常心は、無理な話だった。
ただ、体を動かすとミシミシとこのベッドは言うので、息を潜めていた。
すると。
ミシッ、ミシッと音がする。
そのまま少しマットレスが揺れ、静かになり、カチャッという音が聞こえた。
これはエリダヌスが起き上がり、水場に行ったのでは……?
そう思い、後を追うように水場に向かうと……。
扉の下の隙間から淡い光が漏れている。
やっぱりエリダヌスが水場にいるんだわ。
キィィィ。
扉を開けると、バスタブの縁に腰掛けているエリダヌスと目が合う。
いつもは澄んだ碧い瞳なのに、今はとても艶めいて見える。
少し乱れた感じのブロンドの髪は、なんともなまめかしい。
「起こしてしまいましたか。申し訳なかったです」
「! いえ、身動ぎしないようにしていましたが、私も起きていました」
「……なるほど。では眠れない者同士、少しおしゃべりでもしますか」
そこで私はエリダヌスの隣に腰掛けた。
「なぜリズベルト様は……アンブローズ公爵令嬢は、眠れないのですか? 何か考えごとでも?」
「それは……昨晩は泣き疲れたというのもあり、眠ることができました。でも……その……異性とベッドで二人は……どうしても意識してしまう……というか。気になってしまい……」
長い脚を組み、バスタブの縁にそれぞれの手を置いたエリダヌスは妖艶に微笑む。
推しのこんな表情、ゲームでも見たことがないので、心臓がバクバクいい始める。
「つまりわたしを異性として強烈に意識している……ということですか?」
本日もお読みいただき、ありがとうございます!
【お知らせ】第四章完結
『森でおじいさんを拾った魔女です
~ここからどうやって溺愛展開に!?』
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まるで大人のおとぎ話。
おじいさんの正体は実は●●●で
引っ込み思案の魔女は、彼と共に旅に出て……。
遂に始まる決戦とその結末。
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