頭、冷える 朝陽
ふっと体から力が抜けた。そのタイミングで翔の腕が体から離れた。
「え? あっ、ひゃっ」
急に、ふわっと体が浮いた。
見上げた、すぐそばに翔の顔がある。
「じっとして、落ちるとダメージひどいよ」
彼に膝の裏と背中を抱えられ、部屋に戻ってベットに座らされた。
翔は私の前に椅子を置きそれに座る。
瞳を合わせるのが怖くて、うつむくと彼が膝の上で指を組んだのが見えた。
頭が冷えて、冷静になっている。
「ごめんなさい」
「何が」
「赤ちゃん、ホントはすぐおめでとうって言わなくちゃって、あ、お母さんの結婚、も。ごめんなさい」
「動揺するのは仕方ないよ。俺も驚いたし」
「赤ちゃん、会えない……ね。私」
「母さん、きっと里帰りするから、そのとき会えるし。そもそも通信で会うことはできるだろ。今まで通り」
否定とも肯定ともとれるみたいにあいまいに首を振る。
「あと、姉さんって呼んで、なんて勝手言って、ごめん……なさい」
ちらと見た彼の指先が落ち着きなく開いたり閉じたりした。
「……それは俺の都合、だから」
「ううん、もう、私、翔にそういう資格ないのに。翔、なんて逆に呼び捨てにできないのかな」
「何、言ってんの? 名前呼ぶのに、資格って」
もう、会うことがなくなるから呼ぶこともないんだ。
これから先、万が一出会ったとき〝くん〟とか〝さん〟つけるのかな。
「あ、苗字が変わるんだ。新しい名字で呼ぶことになるのかな」
「どうして? さっきから、俺と、もう関係がなくなるみたいに言うの」
翔は、少し怒ったような低い声で早口で話す。イライラしてる感じが伝わってくる。
「関係なくなるから、ふたりから。でも大丈夫よ? 一人暮らしもちゃんとできてるし。少し、寂しいけど」
ひとりで暮らすのは大丈夫だと思う。
今もそうだし、かなさん夫婦がいるし、金銭面も父の保険金があるから大学出るまでは全然、問題ないと聞いている。
会える人がいなくなるのが、寂しくなるだけ、だもの。
もともと、一緒に住んでないし。そのうち慣れる、きっと。
翔がはーっと長い息を吐き、膝に組んだ指の上に頭を乗せた。
「不自由なく暮らしてるのが裏目に出たか。部屋もきれいだし、男っ気もないから安心したのになー」




