終章.「それって完全に法の抜け道(グレーゾーン)じゃねーか!!」「ですが『公式(書類上)』でござる!」
「ふぅ……今日も平和な薬草採取が終わったな」
ゴーグルをつけ、フェロモン体臭をOFFにし、すっかり「NTR領の影の最高顧問(※本人はF級冒険者のつもり)」として穏やかな日々を送っていたユウマ。
マグダレナさんの美味しい手料理を食べ、妙に頻繁俺の家に遊びに来るルクレチア夫人の優雅な雑談を聞き、時折タツヤやカイトたちと酒を飲む。
(いろいろバグってたけど……ようやく俺の理想とする「平和な異世界生活」が手に入ったのかもしれない……)
そう思いながら、窓際でほのぼのと茶をすすっていた、その瞬間だった。
『ピコン♪ 【緊急アナウンス】だベー!』
脳内に響き渡る、あの不吉すぎるベロ出しパーの脳内音声。
『重要なお知らせだベー。マグダレナの元・交際相手(シンガーソングライーター&レイモンド)が、労働先の奴隷鉱山にて落盤事故により死亡したベー』
「……え?」
ユウマは湯呑みを固まらせた。
「いや……レイモンドらが死んだのは可哀想だけど……それと俺に何の関係が……」
『大ありだベー! レイモンド達の死亡により、現在ユウマがキープしている人間女性の「元カレ」がこの世から消滅したベー!』
「は……?」
『つまり現在、ユウマの周りの人間女性は全員*「誰の所有物でもない完全フリー状態(NTR対象不在)」*になったベー!』
『これより【NTR(寝取り)状態:ゼロ】を検知! システムの仕様上、「NTR男としてのアイデンティティ」を維持するため――』
『【NTRフェロモン体臭】の常時ON(強制固定・OFF不可)モードが起動したベー!!!』
ゴォォォォォォォッッッ!!!!
「な、なんじゃそりゃああああああああああっ!?!?!?!?」
ユウマの全身から、かつてない濃度の「激臭NTRガングロ男フェロモン」が爆発的に噴き出した!!
【フェロモンOFF機能】という最大の防御壁が、システムの謎のロジックによって一瞬で崩壊したのだ!
「えっ!? ちょっと待って!? なんで誰の女でもなくなったらフェロモンが常時ONになるんだよおかしいだろシステムぇぇぇえええっ!!」
『何を言ってるんだベー! 「他人の女を寝取る」からNTR男なんだベー! フリーの女しか周りにいない状態は、NTR男にとって「窒息状態」なんだベー! だから新しいNTR対象を引き寄せるために、フェロモンを最大出力で撒き散らすのは当然の防衛本能だベー!』
「どんな防衛本能だ悪魔めぇぇぇぇぇっ!!」
「あら……? ユウマ様……?」
部屋の奥から、クンクンと鼻を鳴らしながらマグダレナさんが廊下に出てきた。
その瞳は、かつて出会った頃以上の熱を帯び、うっとりと濁り切っていた。
「な、なにこの芳しい匂い……っ! 私の知っているユウマ様の……いえ、それ以上の『本物の男』の匂い……っ! あぁ、身体が、子宮が熱い……っ♡」
「マ、マグダレナさん!? 落ち着いて! 離れて!!」
さらに、隣の部屋からルクレチア夫人までが、胸元を大きく乱しながらふらふらと歩み寄ってくる。
「まあ……なにこの暴力的なまでのフェロモン……っ! 貴族の気取った香水なんて比じゃない……私、もう理性が保てそうにないわ……っ♡」
「ルクレチアさんまでぇぇぇぇっ!!」
街の方から城の侍女たちや近所の人妻たちが、ゾロゾロと押し寄せてくるのが見えた!
「な、なんだあのガングロの男は……!?」
「すっごい匂い……胸がキュンキュンしちゃう……っ!」
「ダメよ私には夫が……でも、あのワイルドな人に寝取られたい……っ!!」
「街中の女性(特に人妻)が集まって来てるぅぅぅぅぁぁぁっ!!」
ゴーグルを必死で抑え、激臭と極上フェロモンのダブルパンチを撒き散らしながら、ユウマは裸足で裏窓から飛び出した!
「タツヤぁぁぁぁぁ! カイトぉぉぉぉぉ! 助けてくれぇぇぇぇぇっ!!」
「ユウマ氏ぃぃぃ!? なんで急にそんな『歩く媚薬』みたいな存在になってるでござるかぁぁぁっ!?」
「ユウマ! 僕のモンスターたち(メス)がまた全員そっちに向かって暴走し始めたよぉぉぉっ!?」
「俺が一番意味分かってねぇよチクショウぃぃぃぃぃっ!!」
森の奥深く、ひっそりと佇む寂れた猟師小屋。
追手を逃れたユウマ、彼を健気に追ってきたマグダレナ、そして小屋を押し潰さんばかりの勢いで外を取り囲む大量のメス魔物軍団(※全員ユウマに首ったけ)。
「俺、これからどうしよう……」
ユウマは窓の外でゴロンゴンするメスワイバーンの腹を見ながら途方に暮れていた。
幸い、食料などは週に一度、例の気弱冒険者と男の娘コンビ、ルーカスくん&エルくんが運んでくれている。(マグダレナにギルドに依頼して貰った)
今日も食料を満載したリュックを背負ってルーカス君とエル君がやって来た。
「ユウマさん!今週分の食料です!あと今日は……」
今日は二人以外にも、ドヤ顔のタツヤが一枚の羊皮紙を手に同行していたのだった。
「ではマグダレナ殿、ちとこちらの書類にサインを」
「何だ?その書類」
「領主フシダラン殿との側室婚姻届けですな。これで、セリーナ殿を“書類上のみ”の側室として登録するのです。
そうすれば法的にはフシダラン殿の所有物を貴殿が……という構図になりますゆえ、NTR成立の範疇でござる」
「それって完全に抜け道じゃねーか!」
「ええ、ええ、ですが公式でございます」
「あら、それでユウマ様が楽になるのならお安い御用だわ」
さらさらさら、と迷いなくサインを書くマグダレナ。
「待てマグダレナさん!? 軽々しく子爵の側室(ペーパー前提)になるな! 俺の立場が余計にややこしくなる――」
その瞬間。
『ピコン♪ システムログを更新したベー!』
脳内にあのだるそうなシステム音声が鳴り響いた。
『対象【マグダレナ】が【フシダラン子爵の側室(既婚者)】にステータス変更されたベー。それにより、ユウマとの同居状態が【フシダラン子爵からの完全NTR】として認定されたベー!』
『【NTR実績:1件】へ復帰! 【NTR(寝取り)状態:ゼロ】が解除されたため――』
【NTR魅了体臭のON・OFF機能が回復しました】
「うおおおおおっ!! OFF!! 即座にOFFぅぅぅぅぅっ!!」
俺は間髪入れずに心の中で【体臭OFF】を連打(?)した。
シューー……と、全身から噴き出していた暴力的なフェロモン臭が収まっていく。
小屋の周りで「ウットリ……♡」と目を細めていたメスベヒーモスやメスワイバーンたちが「ハッ!?」と我に返り、首を傾けるとゾロゾロとカイトの元に帰り始めた。
「止まった……! 止まったぞフェロモンの暴走がぁぁぁぁっ!!」
俺は膝から崩れ落ち、涙を流して両手を振り上げた。
「助かった……! 生き返った……!! ありがとうフシダラン子爵! ありがとうタツヤ! お前ら最高のアホだよ!!」
「ふふ、良かったですねユウマ様♡」
マグダレナさんが優しく微笑み、俺の頭を胸に抱き寄せる。
「これで私は『他人の妻』でありながら『ユウマ様のもの』という、最高に背徳的で公認な立場を手に入れましたわ♡」
「(……ん? 待てよ? なんかマグダレナさんの性癖がさらに深みにはまってないか??)」
ユウマの独白が静かな森に虚しく木霊する。
脱法NTR手続きを完了した領主邸にて、ユウマの目の前でフシダラン子爵(※変態)は書類を抱きしめて床を転げ回り、恍惚の表情で身悶えしていた。
「ワシ、書類上だけの夫で寝取られとる~~~~っ!!(歓喜) ビクンビクン!!」
「………………」
ユウマは静かにメカニックゴーグルをずらし、虚無の瞳でその光景を眺めていた。もう突っ込む気力すら湧かない。完全なる諦めの境地である。
「うわあ……」「ユウマどの、その、がんばるでござる……」
傍らでは、無事にセリーナ(美熟女)と挙式を終えたタツヤと、リリアと新婚生活を満喫中のカイトが、心底哀れみのこもった目でユウマの肩をポンポンと叩いていた。
「お前ら、自分の純愛を成就させてスッキリした顔で同情してんじゃねえよ!」
こうして謎の脱法手続きを経て、再び町で平穏(?)な生活を送っていたユウマだったが、ある日決定的な出来事が訪れる。
「ユウマ様……私、赤ちゃんができましたわ♡」
マグダレナさんの妊娠。それは『光のNTR男』として、避けては通れない新たなる領域への到達を意味していた。
『ピコン♪ 【NTR種付け】の成功を検知! NTR男レベルが大幅に上昇したベー!』
『【視線魅了】のON/OFFおよび*【ターボモード】*が開放されたベー!』
「ターボは要らん!!」
ユウマは間髪入れずに脳内音声へ怒号を叩きつけた。誰が視線で女性を秒でバグらせるターボ機能なんて欲しがるんだベロ出しパー!
だが、運命のギアは止まらない。
寂しさとユウマの無自覚な優しさに毒された正妻・ルクレチア夫人と、流されるままに不可抗力で深い関係を持ってしまったのだ。
そして数ヶ月後――。
「ユウマさん……私のお腹にも、新しい命が宿ったわ♡」
「あ、あの貴女は普段から『スワッピングパーティー』に参加してるから、だ誰の子か分からないし……! ね、ねえルクレチアさん!?」
滝のような冷や汗を流しながら必死に現実逃避を試みるユウマに、ルクレチア夫人は優雅にほほ笑み、残酷な真実を告げた。
「何を言っているの? ユウマ君以外の相手とは、完璧に避妊してシてるわよ?」
「……………っ!!(絶句)」
逃げ場、完全消滅。
こうしてユウマは、名実ともに二人の女性を(システム上および物理的に)寝取り、その血脈を残すこととなったのである。尚、フシダラン子爵が「托卵されとる~~~~~~っ!!」と更なる狂喜乱舞に陥ったことは言うまでもない
その後、ルクレチア夫人の工作により隣国アクラッツ領の子爵は社会的に失脚し、その領地を吸収合併したフシダラン子爵は『フシダラン伯爵』へと昇爵。
ユウマは断りきれないまま、彼に強く乞われて【伯爵領近衛隊長】という立派な役職に就職することになった。
要らないと言い張っていた【視線魅了ターボモード】は、結局のところマグダレナとルクレチア夫人専用の「極上の媚薬」代わりとして重宝され、夜な夜な彼女たちを最高に満足させるためのツールとして、夜の夫婦(?)生活を大いに盛り上げたという。
かつて病室でアニメ雑誌を読んでいたごく普通の高校生・ユウマ。
彼は世間から「伯爵領の寝取り近衛隊長」、あるいは「光のNTR男」などと恐れ崇められながらも――
妙に彼を寵愛する主君の二人の妻(実質ユウマの妻)と、妙に彼を慕う主君の子供たち(実子)、そして妙な結束を誇るNTR領の仲間たちに囲まれ、それなりに幸福な人生を送ったようだ。
……多分。
──【後世の歴史研究論文『フシダラン伯爵領における近衛隊長ユウマの謎』より抜粋】──
フシダラン伯爵領(旧NTR領)の発展期において、最も謎に包まれた人物が近衛隊長ユウマである。
公式の戸籍・領民名簿において、彼は『生涯独身』を貫いたことになっている。
しかし、当時の公的記録や日誌を紐解くと、彼の周りには怪奇現象とも言える異質な人間関係が広がっていた。
1.領主正妻および側室からの異常な寵愛
公の場では「優秀な近衛隊長」として接しつつも、私生活においては両名が隊長宿舎に連日押し掛け、彼の身の回りの世話(および夜間の護衛という名の密会)を焼き続けていた。
2.次代領主(子)及び庶子達からの絶大な帰依
伯爵の子供として育てられた子供たちは、なぜか実父である伯爵よりも近衛隊長ユウマを「真の父」のように慕い、政治・武術・人生相談のすべてを彼に仰いでいたとされる。
3.伯爵自身の謎の感謝状
領主フシダラン伯爵は臨終の際、ユウマの手を強く握り締め、「ワシに極上の絶望(と至高のサークル)をくれてありがとう……!」と涙ながらに感謝の言葉を遺したという。
後世の歴史家は「ユウマ隊長は生涯を公に捧げ、領主一家を影から支え続けた高潔な聖人であった」と評価しているが、当時の民衆の間では『伯爵領の影の寝取り王』という俗称が定着していたようである。
【当人の独白】
「いや……だから俺、ただのC級冒険者のつもりだったんだって……」
白髪が交じり始めても相変わらずガングロでゴーグルを首にかけたユウマ隊長。
彼の手には、次代の若い領主(※顔立ちが心なしかユウマに似ている)から提出された「領地の未来についての重大な決裁書類」が握られていた。
「ユウマ隊長! 父上(伯爵)からは『困ったらユウマ隊長に相談してみろ、ほら…お前らのアレなんやし』と言われております! ぜひご指導を!」
「お前のお父さんは伯爵だろ!? なんで俺に最終決定権を持ってくるんだよ! あと母さん(ルクレチア)とマグダレナさん、後ろから『さすが私たちの旦那様♡』みたいな熱い視線を送るのをやめてくれ!!」
公的にはただの独身近衛隊長。
しかし実質的には、妻たちに愛され、子供たちに慕われ、領地全体の「影の家長」として、ユウマは生涯幸せな悲鳴を上げ続けるのだった――。
(~おわり~)
最期までお付き合いいただきありがとうございましたm(_ _)m




