11.NTR潜入作戦とフリーの女騎士
「すまない、メイド長の旦那さん……っ! だが俺にはこれしか方法がないんだ!!」
罪悪感に押し潰されそうになりながらも、俺はルクレチア夫人の作戦を実行に移した。
標的となったのは、アクラッツ城の給仕を取り仕切る人妻メイド長。ひっつめにした栗毛の髪に大きめの胸、締まったウエストの美熟女、旦那は真面目な執事。
街へ買い物に出ている彼女の目の前で、ゴーグルを少しずらし、ハイネックのボタンを弾き飛ばして小麦色の胸板を露出させた瞬間――
『ピコン♪ 【夫婦円満な人妻】属性を検知! NTR補正+400%だベー!』
「あぁん……っ! なにこのワイルドなガングロ男性は……!? 真面目なだけのあの人とは違う、圧倒的な男のフェロモン……っ! どこへでも案内してあげるわぁん♡」
一発落ちだった。
メイド長の案内により、俺たちは警備の目を完全にすり抜けて城内への侵入に成功。カイトの恋人・リリアちゃんが捕らわれている地下最深部牢獄の位置もあっさり聞き出すことができた。
「さあ……案内の報酬として、私をそのガングロの胸の下で押し潰して種付けを……♡」
ウットリと目を潤ませ、服の肩口をはだけさせて迫ってくるメイド長。
「本当にすまねぇぇぇぇぇっ!! 『サーッ(迫真)』!!」
「ぶべっ!?」
俺は間髪入れずに【強力昏睡薬物】を口の中にシュッ!!と一吹き!メイド長を優しく(?)床に昏倒させた。
「ふぅ……これで彼女の家庭の平和は保たれた……(※魅了の残滓については考えない方針で)」
無事に地下牢獄へとたどり着いた俺。 だが、最深部の牢扉の前で、俺たちの立ち塞がる大きな壁が現れた。
全身を銀色の甲冑で包んだ、いかにも厳格そうな美女騎士―だ。
「何者だ、貴様ら……! 侵入者か!?」
冷徹な瞳で剣を抜く女騎士。
(しまっ……! 警備の目を潜り抜けたつもりが、一番ヤバいボス級に見つかった!)
「致し方ねぇ……! 許せよ女騎士さん!!」
俺はメカニックゴーグルをバッと外し、首のシルバーチェーンをジャラリと鳴らして胸板をアピールした!
「おいおい……そんな物騒なもん収めろよ、お姉さん。俺の目の前で剣を抜くなんて、シケた真似してんじゃねぇよ……?」
『ピコン♪ 対象【女騎士】のステータスを解析……【独身(彼氏・夫なし)】、【密かに思いを寄せる男性:なし】を検知。【NTR能力】の発動条件を満たしていません』
「……え?」
瞬間。
ドバァッッ!!!
「問答無用! 侵入者ァァァ死すべし!!」
冷徹な叫びとともに、銀光を放つ鋭い大剣が俺の鼻先1ミリをすれ違った!
髪の毛が数本切り落とされ、壁の燭台が真っ二つに粉砕される!
「ひっ……ひえぇぇぇぇぇっ!?!? 切られかけた!! マジで殺されかけた!!」
俺は死の恐怖にガクガク震えながら全力でバックステップを踏んだ!
「な、なんで!? なんでフェロモンが効かないんだよベロ出しパー!!」
『何を言ってるんだベー。NTR(寝取り)とは*「既にパートナーがいる(または好きな人がいる)女性」*を横取りするからこそ成立する概念だベー! 好きな人も彼氏もいない「完全なフリーのシングル女性」には、NTRの文脈が存在しないから能力が1ミリも発動しないベー!』
「制約がリアルすぎて使えねぇぇぇぇぇっ!!」
「ハァッ!! 妖しい不審者め、ここで首を落としてくれる!」
女騎士団長は目にも留まらぬ速さで大剣を構え、鬼のような形相で迫ってくる!
彼氏も好きな人もいない純粋なシングルだからこそ、俺のフェロモンもオラオラオーラも一切効かず、ただの「城に不法侵入してきた不審なガングロ」として容赦なく殺しにかかってきているのだ!
「やばい! この人、ガチで強い!! DQN腕力補正じゃ勝てねぇ!!」
大剣を上段に振りかぶった瞬間――
「食らいやがれ! 『サーッ(迫真スプレーバージョン)!!』」
俺はポケットから取り出した【強力昏睡薬物】のボトル(スプレー容器に詰めたやつ)を、女騎士の顔面に思いっきり噴射した!
プシューーーーッ!!
「なっ……毒……っ!? こ、こんな卑怯な……手が……(グラッ)」
「ふぅ……! ふぅ……! 命拾いしたぁぁぁぁぁっ!!」
ドサッと倒れる女騎士団長。
俺は胸を撫で下ろしながら、冷や汗を滝のように流した。
「あっぶねぇ……! 昏睡薬物生成スキル、、この『シングル無敵女子』対策にはこれしかないじゃねえか!!」
『ピコン♪ 【昏睡スプレー(迫真)】の有効性を実証。レベルアップ報酬が無駄にならなくてよかったベー』
「威張るな! そもそもNTR能力の仕様がややこしすぎるんだよ!!」
倒れた女騎士から地下牢の鍵をコソコソと拝借した俺は、心臓をバクバクさせながら、急いでリリアさんが囚われている地下牢へと走るのだった。
地下牢の重い鉄扉を静かに開けると、そこには案の定、壁にチェーンで繋がれた可憐な魔獣使いの少女・リリアがいた。
「くっ……カイト……無事なの……? 誰……あなた……?」
涙を浮かべ、怯えた目でこちらを見上げるリリア。
(あ、アカン!!)
俺は即座にFF/DQ風メカニックゴーグルの位置を目深にセットし直し、視線を遮る。
(この子にはカイトっていう大好きな彼氏がいる=【NTR能力発動条件】が200%成立している!!)
ここでゴーグルを外して目が合おうものなら、あるいは一言甘い言葉(「助けに来たぜ、お嬢さん」等)をかけようものなら、俺のNTRフェロモンが炸裂!
リリアの脳内乙女フィルターが暴走し、「カイトよりガングロなこの人が好き……♡」と、第二のメイド長さんが誕生してしまう!!
カイトは彼女を救うために涙を流して領地を襲ってきたのだ。
ここで恋人を横取り(事故)したら、俺は親友の人生を二重の意味で破壊した本物の悪魔になってしまう!!
「許せ、リリアちゃん……! これが一番平和で、誰も傷つかない解決法なんだ!!」
「え……? 何を――」
プシューーーーッ!!
「ぶふぇっ!?」
俺は間髪入れずにポケットから取り出した【昏睡スプレー(迫真)】を、リリアの顔面に全力で直接噴射した!!
「……この人……いきなり……薬を……(パタリ)」
「よし!! 昏倒完了!! NTR事故防止成功っっっ!!」
白目を剥いて倒れたリリアを素早くお姫様抱っこ(※事故防止のため極力肌が触れないよう布越し)で抱え上げると、俺は地下牢を飛び出し城の出口へひた走ると、待機させていたメスワイバーンの背中に飛び乗った!
「タツヤ! 作戦成功だ! 退避するぞ!!」
上空で浮遊待機していたタツヤ(大魔道)が、杖を掲げて叫ぶ!
「了解でござる! アクラッツ城へ……見せしめの『攪乱大爆破』でござるぅぅぁぁっ!!」
ドガァァァァァァンッッ!!!
タツヤの極大爆炎魔法がアクラッツ城の空域で炸裂し、城の装飾が派手に吹き飛ぶ。
(部分的に)崩れ落ちる城を背に、メスワイバーンとメスフェンリル軍団に守られながら、俺たちはフシダラン領(NTR領)へと全速力で脱出したのだった。
ワイバーンの背の上で、夜風に吹かれながら俺は心から叫んだ。
「ハァ……ハァ…… もう絶対に寝取らん!! 絶対にだ!!」
「よかった……本当に、よかったぁぁぁぁぁ……っ!!」
フシダラン領(NTR領)の診療所前。
目を覚ましたリリアと、同じく薬が切れて跳ね起きたカイトが、涙を流しながら抱き合っている。
「リリア! 無事だったんだね! よかった……本当によかった……っ!」
「カイト……! 私、怪しいガングロの人に顔面に薬を噴射されて一瞬で意識を失った以外は、どこも怪我してないわ……!」
「ガングロの人!?……あぁ、ユウマか! ユウマが君を守るために(強引に)眠らせてくれたんだね……っ!」
二人の美しい純愛の再会シーンを見届けながら、俺は膝から崩れ落ち、地べたに両手をついて安堵の涙を流していた。
「勝った……勝ったんだ俺は……!寝取らずに済んだぁぁぁぁぁっ!!」
「ユウマ氏! 見事でござる! 昏睡スプレーの力でNTR事故を完璧に防ぎ切るとは、まさに『光のNTR男』の名に恥じぬ英断でござる!」
タツヤが熱い涙を浮かべながら、俺の肩をバシバシと叩く。
「あぁ……! カイトの恋人を寝取ることもなく、純愛を守り抜けた……! 俺のNTR能力に勝利したんだ!!」
俺はメカニックゴーグルをずらし、天を仰いだ。
尚、後日、件のメイド長がアクラッツ領を抜け出しルクレチア夫人のスワッピングサークルに出入りするようになった件を知ったユウマは膝から崩れ落ちたという。




