いつまでも
自分の屋敷に帰宅後ケニアは直ぐに執務室へと向かった。ヴィヴィには誰も入ってこないように指示を出した。
最近は、ルーベンスのことが正直気になっている。
自分がしんどい時直ぐ後ろで支えてくれる存在。
でもそんなことは口にはしたくはなかった。それを口にしてしまうと、父親であるカナガン伯爵に操られている様な気持ちになる。
「ランドルフ様と結婚・・・・違う気がする。」
ケニアは、ランドルフを思い浮かべた。結婚してからずっとオルゲーニ公爵家の為頑張って来た。勿論自分自身の勉強の為でもあるが、妻としてきちんと向き合って来た事がないランドルフの生活も支えなければならない。しかし今後もランドルフと一緒にいると言う事は、常に女性の影に怯えていかなければならない気がする。
ランドルフの傍に居た女性たちは、人目を惹きやすい。しかし、自分は所詮片田舎の田舎娘でどこにでも居る様な容姿である。
「ランドルフ様には私でなくても、良い女性は現れると思うのよね。」
「そんなことはありませんよ。」
誰も来ないで欲しいと伝えていたのにお茶をワゴンで運んできたヴィヴィが執務机の前に立っていた。
「何度もノックは致しましたが、お返事がなかったので、ランドルフ様のお風邪が移ったのかと思い、倒れていたら大変と入室いたしました。何やら深く考えていらっしゃった様で気が付かれなかったようですね。」
ヴィヴィはケニアに苦笑の顔を向けた。
「先程の独り言ですが、ランドルフ様は、誰でも良い訳ではないと思いますよ。デビュタントで毒女に感染されましたが、今は本当にケニア様だけを見ていらっしゃるし、過去を恥じて、自分も襟を正そうと必死になっていらっしゃいます。過去は本当にダメな方でしたよね。でもどうか、どうか、今のランドルフ様を見てあげて頂けませんか?」
「ヴィヴィ。」
ケニアは、力なく侍女頭の名前を呼んだ。
「誰でも良いと言うのはどれもダメだから誰でも良いのです。それは、本当に欲しい人がきちんといるか、まだそういった人が居ないから誰でも同じだから誰でも良いのですよ。それは本物の心から求めるものではありません。でも今はランドルフ様は、ケニア様だけを求めております。それはルーベンス様も同じだと思います。彼らは唯一無二のケニア様の心だけを求めているのですよ。だから、ケニア様以外の相手が出てくる等と言わないであげて下さい。その心だけは理解してあげて下さい。ケニア様をかなり傷つけてしまいましたが、ランドルフ様も本物の恋を探している最中で間違いを犯してしまったのです。」
ケニアはヴィヴィから目が離せなかった。ヴィヴィが語っている間に脳裏にはランドルフの色々な表情が浮かんで来ていた。
「そうね。人の気持ちを勝手に決めつけるのは良くないわね。・・・・・・昨日ミラ様がランドルフ様に抱き付いた時には、凄く頭に来たの。この人何!って。でも私が怒るのはお門違いじゃない?だって、私は離婚したんだもの。」
ケニアが言い終わる前に執務室の扉が勢いよく開いた。
「そんな寂しいこと言わないで!僕は未だ君と夫婦のつもりなんだ。」
ランドルフが、乱入して来た。ケニアは驚いて口を開けたままランドルフを見つめていた。ヴィヴィは、ランドルフに微笑みかけた。
「どうして、・・・・・ここに?」
ランドルフは、肩で息をしながら涙を浮かべながらケニアの横まで歩み寄った。
「アンゲルと、ルーベンスに喝を入れられた。ケニアが傷付いたのはこんなものじゃないのに、甘えるなって。グズグズしていないで謝罪をして来いって。僕は君に、ちゃんと謝罪をしていなかったと思う。」
ランドルフは、片膝を床について頭を下げた。
「ケニア・カナガン令嬢。貴女を長きに渡り無視をして傷つけたことを、ここに謝罪いたします。許さなくて良い。一生恨んでくれていい。でも君を好きでいることを許して欲しい。」
ケニアの顔が火のように赤く染まり瞼から雫がポタポタと流れ始めた。
「私、・・・・・謝罪は、受け入れます。でも、解らない・・・・・自分の気持ちが。」
ランドルフは下げていた頭を勢い良く上げると、ケニアを見つめた。
「解らない?じゃぁ僕にも希望はあるのかな?」
「・・・・・・それは・・・・・何とも。」
「待つよ。答えが出るまで。」
ケニアはふと視線をあげた。扉の前には不安な目を向けるルーベンスが目に飛び込んで来た。
「お兄様。」
ケニアが呟くとランドルフは扉に顔を向けた。
「お兄様。」
今度はルーベンス迄届く声量だった。
踵を返そうとしたルーベンスをケニアは呼び止めルーベンス迄大した距離でないが走り出してルーベンスに飛び着いた。
「行かないで。そんな顔をして行かないで。」
ルーベンスは困惑を表情に出してケニアを引き離した。
「ランドルフ殿に失礼だよ。プロポーズの最中だろう。」
「でも、でも嫌なの。そんな表情のお兄様を行かせられない。ここに居て!何処にも行かないで!」
ランドルフは静かに立ち上がり、ゆっくりと近づいて来た。
「待つ時間は必要なさそうだね。」
ランドルフはケニアの肩に手を置いて諭す様に声を掛けた。
「ケニアのその行動が答えだよ。僕は残念だけど、身から出た錆だからどうしようもない。僕は邸へ戻るよ。」
ランドルフは静かに去って行った。
「お兄様。行かないで。1人にしないで。」
「ケニア、僕の事兄としか見ていないでしょう。」
ケニアは首を横にブンブンと振った。
「お兄様だけど、兄ではないわ。男の人よ。」
その言葉にルーベンスは自然と身体が動き出しケニアを抱きしめていた。
「この後意味が違うなんて言わないでよ。」
「絶対に言わないわ。」
ケニアもルーベンスに抱きついた。
その後のルーベンスはケニアの気が変わらない内にと早速動き出した。
カナガン領地へ赴き、2人合意の結婚の意思を家族に伝えに行った。
カナガン伯爵もエドガー達もかなり驚きはしたが、大喜びだった。帰りはカナガン伯爵領から王都迄の道沿いにあるエルローズ夫人の邸に寄り、婚約を知らせた。
勿論エルローズは大喜びだった。
そして、ブティックにウェディングドレスを発注をして2か月で結婚誓約書に署名をして、挙式を強行した。晴天の中大聖堂ではパイプオルガンが鳴り響く。大司教の前には、前回とは違いルーベンスが、片手に白い手袋を持って扉を見つめていた。
開かれた扉からは、恰幅の良い人の好さそうな顔をした男性のエスコートでレースをふんだんに使ったドレーンの長いウェディングドレスを纏ったケニアがルーベンスの元へとゆっくり歩み寄って来る。ルーベンスの横に着くと、カナガン伯爵は、ケニアの手が離れないように、反対の手で押さえ込むが、ルーベンスは笑顔で引き離した。その瞬間ケニアの顔を見詰めていたカナガン伯爵の両目から滝のように涙が溢れた。
それを見ていたエドガーは
「兄さん」
と呟いた。その呟きを拾ったベルとハンスはエドガーの背中を摩った。ルーベンスは苦笑しながら見ていた。
「ケニア綺麗だよ。世界で一番きれいな花嫁だ。」
ルーベンスの言葉にケニアの頬は赤く染まった。
大司祭の言葉に同意をして宣誓をすると、ケニアのヴェールがルーベンスの手によって上げられた。
「本当にキレイだ。ケニア。」
そう言った後ルーベンスの唇とケニアの唇が重なった。
二人でゆっくりと大聖堂を出ると、あの時のような冷やかしの人々は居なかった。
ケニアの商会の従業員たちが、フラワーシャワーを降らせている。
「これからは宜しくね。」
ルーベンスがケニアを見ながら言うと、
「大丈夫。僕も一緒だから安心していいよ。」
ランドルフが二人の間を割って入って来た。
「これからは僕が、2人の間に立って2人を繋いであげるよ。」
「頼んでいませんよ。」
ルーベンスは軽くランドルフを睨んだ。
ケニアは二人を見ながら楽しそうに笑っている。
二年前の結婚式とは違い、温かい祝福に包まれた挙式となった。
翌朝、2人揃って寝室から出て来たルーベンスとケニアは朝食の為に食堂へ向かうと、ランドルフが待っていた。
「遅いよ。君達。お腹ペコペコだよ。」
と言うランドルフにケニアとルーベンスは呆れた表情を浮かべて笑った。
読んで頂きありがとうございます。
ブックマーク、☆、いいね押して頂けたら嬉しいです♪




