野望
オルゲーニ公爵邸で一人の女性は朝早くから夜は明け方近くまで一人で炊事、洗濯、掃除を熟していた。他に使用人が居なかった為に。睡眠時間は二時間程度。その中で、先々週にギルドへお使いに行かされた後から新聞を買いに行くという作業が一つ増やされた。
しかし、時間をうまく組み立てて作業をしている彼女が行ける時間は、昼過ぎの時間だけだった。その時間では、新聞は売り切れてしまう事が多かった。
新聞を買えずに帰ると、ダンヒル子爵は、烈火のごとく怒鳴り散らす。
「世情に疎くなる!」
と。しかし、今までダンヒル家に居る時にもギルドへお使いを頼まれる前までにも新聞を所望されることはなった。どうして新聞を最近は欲しがるのか解らないが、手に入れなければ、怒鳴られる時間で作業に遅れが出て、睡眠時間が減ってしまうので、それならと、朝一番に新聞を買いに行くようにした。そうする事で最近は新聞を毎日手に入れることが出来ていた。今日も寒空の中ショールを羽織って新聞売りへ一番に買いに行った。
今日の見出しを目に入れると、飛んでもない文字が飛び込んで来た。ナナは新聞を胸に両手で囲い込んでオルゲーニ邸へと帰路を急いだ。
屋敷に入ると、暖炉に火を入れ暖を取りながら新聞を読み始めた。
獄中死のラビィ・ハントに続き、モニカ・フィンデル夫人毒殺される。犯人まだ特定されず。同じ犯人か。
ナナは、驚き新聞を床に落とし、震える体を両手で抱きしめた。その震えは、決して気温の寒さからくるものではなく、眼に見えない恐ろしいモノへの畏怖から来るものだった。
目を強く閉じて、深呼吸をしてから、床に落とした新聞を拾いテーブルにおいて、朝食の支度を始めた。
朝食の準備が整い、食堂へと運んでから、エメの寝室へと新聞を携えて向かった。
「お嬢様。起きて下さいませ。」
「・・・・ナナ、私は妊婦だから質の良い睡眠を取らないといけないのよ。まだ、時間じゃないと思うわ。」
そういうとシーツを頭から被って寝の態勢に入った。ナナは新聞の内容を早く伝え中ればいけないと、エメを起こす。
「お嬢様、大変なことが起きたのです。起きて下さいませ。」
「何よ。」
「ラビィ様とモニカ様が他界なさいました。」
エメは、ガバっと勢いよく起き上がり、ナナが手に持つ新聞を奪い取り食い入る様に活字を追った。普段の絵目であれば、自分から活字を追うことはしないが、今日に限っては、自分の友人が亡くなったせいか良く見ている。
「そう。ラビィもモニカも亡くなったの。早かったわね。」
そう呟いたのを、ナナは拾い上げた。
「お嬢様は、お二人に何かある事を解っていたしたのですか?」
ナナにそう問われて、エメはぎくりとした。二人を殺害するために暗殺ギルドへ向かったのはナナであるが、内容は知らない。不用意に発言をしたことを後悔しながらも、ナナが怪しまない理由を考える。
「ナナが暗殺ギルドへ向かったのは、私がランドルフの元奥様に命を狙われているからよ。私が狙われているのなら、ラビィだってモニカだって狙われるでしょう。だってラビィも妊娠していたかもしれないじゃない。それに元奥様からしたら 、モニカだって邪魔に思っていたはずだから、この際暗殺ギルドに依頼をするなら、纏めてって考えたのかも知れないわ。」
「成程。流石は私のお嬢様ですわ。素晴らしい考察です。そうですわね。でもお嬢様はご無事で本当に良かったですわ。」
「そうでしょう。少し考えればわかる事じゃない。でも、私はナナが暗殺ギルドへ私の護衛の依頼をしてくれたから、助かったわ。本当にありがとう。」
「お嬢様の命をお守り出来て本当にようございました。」
ナナは目を輝かせながらエメを褒め称えた。その後ベッドから出たエメは新聞を胸に抱いて、父親のダンヒル子爵が待つ食堂へと向かった。
食堂で嬉しそうなエメから新聞を受け取り見出しを見てニヤリと下卑た笑みを浮かべたダンヒル子爵は
「そうか。成程。ナナよくやった。」
とナナを褒めた。普段自分を褒めることがないダンヒル子爵から褒められたことで、ナナは目に見えて喜んだ。
「光栄です。旦那さま。」
そう答えた後、ナナは朝食のトーストしたパンを取りに厨房へと向かった。
ナナの姿が見えなくなったことを確認したダンヒル子爵とエメはお互いの顔を見ながら
「これで、裁判の証人は消えた。完全にこちらの流れだ。」
「お父様。これからはオルゲーニ公爵代理ですわね。」
「まだ、公爵の叙爵は公示されていないからな。遊び歩いて何も知らない小公子の代わりを担ってやるか。」
叙爵は受けていながらも公示をされていなかったので、何も知らないダンヒル子爵親子は自分たちの大きな野望に明るい未来を見出していた。
そしてナナの新たな仕事だった翌日からの新聞購入はなくなった。
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