離婚していた1
(僕って、思っていたより最低なやつだね。)
サザンから聞いた話や、ガスト宰相から聞いた話、そしてヴィヴィやサボから聞いた話を紙に書き出してみた。
(父上が仕事をしない奴がどうやってお金を払うのかって言っていたけど、お金がなければ、物は買えないよね。当たり前のことだよね。
僕が購入していたものは、奥さんが仕事をしてくれていたからだったんだ。)
ランドルフは、気持ちを入れ替えることを胸に強く誓った。
☆☆☆
いつもは、早朝から皆と働き出すケニアも頭を怪我してからは、全員に止められて、ベッドの中で大半を過ごしている。しかし、根っからの仕事人間のケニアは黙ってベッドにいる訳ではなかった。書類等は目を通して遣るべきことは熟していた。
「お嬢様朝食の準備が整いました。」
初めて公爵家に来た日にメイド室で同室だったヘナが迎えにやって来た。
「なんだか、変な感じがするわよね。今まで奥様だったのにお嬢様って。」
クスクスと笑うケニアにルーベンスが扉から顔を出して
「あれは結婚した内には入らないよ。元々伯爵家ではお嬢様呼びだったんだから可笑しくはないよ。着替えは出来ているの?一緒に食堂へ行こうか。」
ベッドサイドまでやって来ると、ケニアに手を差し出す。
「ルーベンス様とケニアお嬢様は本当にお似合いのカップルですね。」
ヘナが揶揄う様に言うと、ケニアは顔を紅く染めて
「違うもの!そういうんじゃないから!」
と可愛い反発を見せた。ルーベンスとヘナはクスクスと笑いながら
はいはい。と流して食堂へと向かった。
「おはよう。遅かったね。」
昨日の昼餐と同じように何故かランドルフが食堂に当たり前のようにいた。
(((何でいる?)))
三人が不思議に思って、控えている執事長のサボや侍女長のヴィヴィに視線を送るが、二人は困惑の表情をするだけだった。
「おはようございます。今日はどうなさいましたか?」
「今日からアンゲルに領地経営を教わりたくて。でも、お腹は減るでしょ。さぁ皆で朝食を頂こう。」
(領地経営をするのはいいが、何故私がこの人の朝食代を支払わなければならないの?)
ケニアは一人頭を悩ませていた。
「オルゲーニ邸へ料理人を貸し出しましょうか?領地経営で得た収入で支払って貰えたら結構ですよ。」
とケニアが告げると、ランドルフは満面の笑顔で
「悲しいこと言わないでよ。せっかくなら、今までの溝も埋めたいからこちらで一緒に食事を取って、話をしながら少しずつお互いを理解していけたらなって。思うんだ。」
これは何を言ってもダメなやつだとケニアは早々に諦める事にした。
「解りました。では、私の邪魔はしないでくださいませ。」
ルーベンスは、ケニアが座るための椅子を引き下げて腰を下ろしたタイミングで椅子を戻した。
「君さぁどこかで会ったことが有ると思うんだけど。僕と会ったことある?」
ランドルフが、ルーベンスに尋ねると、ルーベンスは視線を合わせることなく、いいえ。と応えた。
「君、主人に対しての態度としては、それは良くないよ。」
ランドルフが咎めると、鋭い視線を向けた。
「私の主は、お嬢様です。ランドルフ・オルゲーニ殿では決してありません。」
ランドルフはその言葉に、目に見えてシュンとした。
「そうだよね。奥さんを蔑ろにして来たからそう言われちゃうのか奥さんの執事だもんね君。」
それ以上は誰も何も言わずに黙々と食事を摂った。
「では、ランドルフ様は本当に領地経営をなさるのですね。」
「うん。僕が変わったところを皆に見て欲しい。これからは、領民の為に、皆の為にきちんとした領主になるよ。」
アンゲルはモノクルをクイッと上げて
「では、一週間で覚えて頂きましょう。私も暇ではありませんので。陛下のところへ伺って、領主の相続も認めて貰わなければなりませんから多忙になりますよ。」
ランドルフは、慌てて、アンゲルに手を伸ばした。
「これから忙しくなるなら、今日だけは休ませてくれないかな。彼女を連れてデートをしたいんだ。」
とたんにルーベンスの表情が変わった。にこやかな、取ってつけたような笑顔を見せながら、
「ランドルフ様。お嬢様は多忙ですから、そのようなお時間はございませんよ。」
ケニアが答える前に、棘をしっかりと仕込んだ言葉を投げかけた。
「僕、君には聞いていないんだ。えーと僕の彼女に聞いているんだよ。」
(((((僕の彼女?)))))
ケニア、ルーベンス、ヴィヴィ、サボ、アンゲルが心の中で反芻した。
離婚をしたのだから、奥様ではない。しかし、ランドルフは初めてケニアに会った時に可愛いと言っていた。つまり、新しい彼女という関係を作ろうとしている!
ヴィヴィとサボとアンゲルはそう認識した。
ルーベンスとケニアはランドルフが離婚したことを知っているという誤解はしていないので、
自分の奥さんを恋人ってどういうこと?
と違う疑念を抱いた。
「一度デートをしたら僕って人間を理解して貰えるかも知れないじゃない?」
(((((いや、知っていますよ。嫌という程)))))
「今日はやることが有って。」
「でも君怪我しているから休んだ方が良いよ。」
(((((だったら、誘わないで欲しい!)))))
「医師の許可が下りてからでないと私はベッドから出る事は出来ませんし、」
「じゃぁ許可が出たらデート行こうね。」
ランドルフは笑顔でおねだりをしたが、ケニアははっきりと
「行くことは無いと思いますよ。私達離婚をしたのに、一緒に出掛けるなんておかしいじゃないですか?」
ランドルフは、目を見開いて
「離婚?」
と呟いた。そこで漸くヴィヴィとサボとアンゲルはランドルフが離婚したことを知らなかったことに気が付いた。
「僕離婚したの?でも同意のサインは書いていないよ。勝手にそんな事出来ないでしょう?」
ケニアに一目惚れをしたランドルフはすっかりと忘れていた。自分たちの結婚が白い結婚であったことを。




