第四十五話「教授の実力」
十月六日。
午前中にリオネル・ラスペード教授の講義を受け、昼食後に実技の授業を受けることになっていた。
ラスペード教授は決まった枠の講義を受け持っていない。但し、四年生、五年生の評価を行うため、中間試験のある十二月と期末試験のある五月は忙しいそうだ。
その他の時期は自分の研究に当てているそうで、比較的自由に指導を受けることができる。
今回の俺たちの個人指導も、教授の気が向いた時間という条件で認められているそうだが、本人はいつでもいいと言ってくれている。但し、自分は研究に夢中になると他が見えなくなるから、突然のキャンセルもあり得ると宣言されているが。
俺も教授の研究の邪魔になるのは本意ではないので、四日に一回、つまり休みから休みの間で一回――ドクトゥスでは五と〇のつく日は休日――程度の頻度で指導を受けようと思っている。
もちろん、教授の都合を聞いて、最終的にどの程度にしようか決めるつもりだ。
学院の食堂でシャロンの作った弁当を食べ、午後一時に教授の部屋に入る。
朝は研究に夢中になっており、俺たちに気付かなかったが、さすがに昼いちなので、今回は問題なかった。
教授は俺たちを見るとすぐに立ち上がり、「それでは校庭に行くとしよう」と言って、校舎の前の校庭に向かう。
俺は実技の授業を受けた訓練場に向かうと思っていたので、少し戸惑った。教授にそのことを尋ねると、
「君たちの実力では、訓練場では満足に魔法を使えぬのではないかね。元々あの場所は騎士団の雨天訓練場でね。少し手狭なのだよ……」
教授曰く、訓練場で魔法の訓練を行うのは、一、二年生のうちだけだそうだ。ある程度魔法が使えるようになると、手狭な訓練場では不都合が多く、屋外で訓練をするようになる。三年生以上では属性ごとに実技の授業が組まれるため、派手な攻撃魔法の多い火や風、光などの属性の生徒は屋外で、治癒系の水や木、物質変換系の土や金などの授業は屋内で行われるそうだ。
校庭に出ると、三年生以上の生徒が講師のもとに集まり、説明を受けている。
すぐに魔法を放つかと思って見ていたが、一向に魔法を放つ様子が無い。
俺が不思議そうに見ていると、「あの生徒たちでは四、五回撃てば魔力切れになるからね」と、教授が説明してくれた。
最初にその日の課題の説明を聞き、一人ずつ魔法を放っていく。そして、他の生徒がそれを見て、感想を述べていくのだそうだ。
そういえば、俺とシャロンは実技の授業をまともにやったことが無かったので、そういう常識に疎い。クラスで授業を受けていれば、そういうことに詳しい奴が教えてくれるか、講師が何らかの説明をしてくれたんだろう。
俺とシャロンはラスペード教授に伴われ、五年生らしき上級生たちのいる場所にやってきた。そこには石造りの丈夫な壁があり、二mくらいの盛り土に石でできた的が設置してあった。
教授の姿を見た上級生たちの間に、緊張が走ったような気がした。
抜打ちの試験でもあるのかと警戒したようだ。彼らの講師である三十歳くらいの女性講師も目を見開いて驚いていたが、すぐに教授のもとに走ってきた。
彼女は荒い息で「はぁはぁ、何かございましたでしょうか? ラスペード先生」と尋ねた。
「メイヒュー君、少し場所を借りようと思ってね。この子たちの指導をさせてもらうよ」
メイヒューと呼ばれた女性講師は俺たちの顔を見た後、「この子たちですか。先生が直接ご指導される生徒たちは」と納得したような顔になる。
そして、自分に関係ないとホッとしたのか、すぐに笑顔になり、「一番左の端をお使い下さい」と教授に場所を譲った。
教授は鷹揚に頷くと、俺たちを連れて左の端の的の前に向かう。上級生たちの前を通る時、「あれは誰だ」とか、「ラスペード先生が指導とおっしゃったような」とか言う声が聞こえ、俺たちを興味深そうに見ていた。
シャロンは視線が集中したことで居心地が悪いと思っているのか、俺に隠れるようにして歩いていた。
「私が最後に生徒の指導を行ったのは、百年ほど前でね。久しぶりなので、何から始めるべきか悩んでいるのだが、君たちに希望はあるかね?」
そう言われても俺もシャロンも何も考えておらず、二人で顔を見合わせてしまった。
だが、俺は高位の魔術師である教授の魔法を見たいと思いつき、「先生の魔法を見せていただけないでしょうか」と言ってみた。
教授は「私は火、金、土の三属性なのだが、見たい魔法の希望はあるかね」と聞き返される。
俺は派手な魔法を見てみたいと思っていた。俺たちの魔法の師匠であるリディは光、風、木、水の四属性持ちだが、インパクトのある魔法は光属性くらいしかない。更に彼女は光属性が最も苦手で、攻撃魔法は専ら得意な風属性に頼っている。
俺は興味本位で火属性魔法を頼んでみた。
「火属性魔法でお願いできないでしょうか。出来れば、ここで使える最高のレベルの魔法を」
教授は「うむ。それでは始める前に少し細工をしよう」と言って、的のある場所に歩いていってしまった。
俺たちも慌てて追いかけ、何をするのか聞いてみた。
すると、「この程度の盛り土では壁が破損するかもしれんのでね。少し補強をしようと思ったのだよ」と言いながら、“土の壁”という魔法の呪文を唱えた。
俺たちの目の前に、高さと幅が二m、厚さ五十cmほどの土の壁が出現した。
俺はその大きさとスピードに驚いていた。
俺自身、土属性魔法で風呂を作ったが、これほどの大きさの土を生み出すことはできない。恐らくこの半分の大きさでも魔力切れになるだろう。
そして、そのスピードだが、俺が土を生み出す速度は厚みが十cm、幅が一mほどのもので、一秒間に五cmほどだ。だが、教授のアースウォールは厚みが五倍、幅が二倍、つまり面積では十倍も大きいのに、上に伸びていく速度は一秒間に十cmを超えている。
感覚的には、二mの土のゲートがリフトでせり上がってくるような感じだ。
後で知ったのだが、教授の土属性レベルは八十を超えているそうだ。俺の土属性レベルが二十ほどだから、比べるのもおこがましいレベル差だった。
教授は俺の驚愕に気付くことなく、「これくらいでいいだろう」と言って、土の壁を軽く叩いた後、“石生成”の魔法で土を石に変えた。
城壁から切り出したような石造りの壁が僅か数分で現れ、俺とシャロンは言葉を失っていた。
昔は城塞都市の城壁を、魔法で作っていたという話を聞いたことがあるが、本当のことだったのだと、場違いなことを考えていた。それほど衝撃的だったのだ。
当の教授は何事もなかったかのように俺たちの方に振り返り、「これでいいだろう」と言って、二十mほど距離を取る。
「火属性魔法は得意なほうではないのだが、一応、この場所で使える最も強力な魔法を使ってみよう」
教授はそう言うと、一分ほど精霊の力を溜めた後、呪文を唱え始めた。
「火の神よ。すべてを焼き尽くす業火の槍を我は求めん、我は御身に我が命の力を捧げん。我が敵に、獄炎の槍」
教授の頭上に直径三十cm、長さ五mほどの強大な火の柱が横倒しになった状態で現れる。
教授が右手を軽く振ると、その炎の柱は矢のような速度で、先ほど教授が作った壁に飛んでいった。
僅か二十mという近距離であったため、一秒も掛からずに炎の柱は壁に激突する。一枚岩の石の壁にぶつかった瞬間、赤い炎の柱は真っ白な眩しい光とドーンという大きな音を放って消えていった。
光と音が消えた後、壁は煙に包まれ見えなくなる。
そして、煙が風に流されていき、徐々に姿を現していく。
そこには上半分がなくなった壁の姿があった。俺は言葉を失って立ち尽くし、ただその壁の残骸を眺めているだけだった。
(これで火属性が苦手? 獄炎の槍? 槍じゃないだろう。あれはどう見ても破城槌だろう……)
「これでいいかね。ミスター・ロックハート?」
教授が声を掛けてくるが、俺は頷くだけで言葉が出なかった。
言葉を失った理由の一つは教授の魔法に単純に驚いたことだが、魔法という存在に恐怖を感じていたのだ。
ラスペード教授は魔術師ギルドに所属する魔術師の中でも高位の魔術師だが、世界最高の魔術師というわけではない。研究者としては超一流なのだろうが、サルトゥース――北の王国、エルフが多く魔法が盛ん――の魔術師のように実戦で経験を積んでいるわけではない。
それでも、これだけの威力の魔法を使えるのだ。
俺がこの先相手をするかもしれない敵は、神に警戒されるような奴だ。だとすれば、この程度の魔法ではなく、もっと強力なものが使えるだろう。あと数年でそんな敵と戦えるのか。俺はその事実の方に、より衝撃を受けていた。
俺は何とか「ありがとうございました」とだけ搾り出すように言い、今の魔法について話を聞いた。
「今の魔法は獄炎の槍と聞こえましたが?」
「その通り。ヘルファイアランスは竜や巨人用の強力な単体攻撃魔法なのだよ。まあ、威力の割に射程が短いのが弱点なのだがね」
こともなげに教授は説明するが、俺は竜や巨人用と聞き、唖然とする。
(竜……巨人……確かにこの威力なら、城攻めに使う以外はそんな相手しかいないだろうな……)
俺はその時、ようやく周りの様子がおかしいことに気が付いた。
シャロンはまだ完全に呆けているし、五年生たちどころか、メイヒューと呼ばれた女性講師ですら、言葉を失い立ち尽くしている。
恐らくこれほど強力な魔法を見ることは、滅多にないのだろう。
ラスペード教授は「さて、君たちの魔法も見せてもらおうか」と言って、笑顔を見せる。
衝撃から立ち直っていないシャロンの肩を叩き、とりあえず正気に戻す。
そして、俺から魔法を放つことにしたのだが、折角なので今見たヘルファイアランスを再現しようと思った。
呪文は聞いて判っているが、イメージを固めるため、今見た魔法を思い出していく。
(火の柱は出来るだろう。だが、壁にぶつかった瞬間爆発したように見えた。だとしたら、爆発魔法の一種なのだろうか? 火属性魔法で爆発を再現するとしたら、火薬が一番イメージしやすいな……同じような大きさの物は作れないから、密度を上げてみるか……)
俺は二つの物をイメージした。
一つは砲弾。火の精霊の力を固めた砲弾だ。
そして、もう一つは温度を上げることを考えた。教授の獄炎の槍の色はオレンジ色だった。威力を上げるには密度を上げる、すなわち温度を上げるしかない。全くのうろ覚えだが、オレンジ色の炎なら温度は二千度くらいだったはずだ。白色をイメージすれば、倍くらいの温度にならないだろうかと。
俺は槍というより、砲弾をイメージするため、炎の玉を使うことにした。
「先生の魔法を見て、少しイメージを変えたファイアボールを撃ってみます」
俺がそう言うと教授は何か期待するような表情で頷く。
「火を司りし火の神よ。御身の眷属、精霊の猛き炎を我は求めん、御身に我が命の力を捧げん。我が敵を焼き貫け! 炎の弾――ファイアボール――!」
俺は右手を高く上げ、呪文を唱えながら、直径十cm、長さ二十cmほどの砲弾を作る。呪文に使う発動の言葉は教授が変に思わないようファイアボールとしたのだが、イメージはボール状ではなく、弾丸状にしている。そして、温度を上げるため、白く輝く炎を思い浮かべていく。
二十秒ほどで眩い炎の砲弾が掲げた右手の上に現れる。
そして、砲弾が完成したところで、スピンを加えるイメージで砲弾を放った。
爆発的な加速度で砲弾は真っ直ぐに飛んでいき、教授の作った壁に激突する。その瞬間、教授のヘルファイアランスと同じように爆発するが、やはり威力が弱いのか、壁の一部を剥離させただけだった。
(やはり魔力の絶対量の差は大きいな。イメージはかなりいいはずだ。戦争の資料映像なんかを思い出していたし、砲弾も遅発信管の徹甲弾をイメージしているから、単純に貫通能力が足りないんだろう……)
俺がガッカリしていると、ラスペード教授が手を叩いて褒めていた。
「いやあ、本当に君は天才だよ。私の獄炎の槍を炎の玉で再現するのだから。しかし、あの色と形は何をイメージしたのかね?」
俺は教授の魔法を再現するのに気を取られ、この世界に無いイメージを見せてしまった。
しくじったと反省するが、とりあえず、この場をどう言い逃れるかを考える方が先決だ。
「先生のヘルファイアランスを見て、同じ物を再現するのは無理だと考えました。ならば、長さを短くして細くしてみたのです。形が太い矢のようなものですから、矢のように回転を加えて軌道を安定させました。色は鍛冶師の炉の色で一番熱くなった時が白っぽかったので、それをイメージしたのですが……」
教授は「なるほど」と言って頷き、俺の苦しい説明に納得した。俺はこれからは気を付けようと心に刻んだ。
教授は「では、ミス・ジェークスも好きな魔法を撃ってみなさい」とシャロンに魔法を撃つよう命じた。シャロンは少し困ったような顔をし、俺を見たので、
「シャ、ミス・ジェークス、どうしたんだい?」
「ミスター・ロックハートの魔法を真似しようと思ったんですが、イメージがうまく出来ないので……」
俺は教授に断って、シャロンに自分のイメージを彼女にだけ聞こえる声で伝えた。
「今の俺の魔法だと、ファイアボールというより、ファイアボルトかフレイムボルトの方が近いと思う。弩の太矢をイメージしたらいいと思う。色はベルトラム――ラスモア村のドワーフの鍛冶師――の工房でふいごを吹いて熱くなった炭を思い出して……」
シャロンは俺の説明に頷き、魔法を放った。呪文は炎の矢の呪文を少し変え、炎の太矢としたようだ。
「火を司りし火の神よ。御身の眷属、精霊の猛き炎の太矢を我は求めん、我は御身に我が命の力を捧げん。我が敵を焦がせ。炎の太矢」
シャロンの放った炎の太矢は俺の砲弾よりスマートで、炎の矢を太く短くしたものだった。色は俺のよりオレンジ色に近い。
弩をイメージしたことから、炎の矢より飛ぶ速度が速く、教授の石の壁に突き刺さった。さすがに太矢をイメージしたため、爆発することはなかったが、炎で出来ているにも関わらず、石という耐熱性の素材に突き刺さるほどの貫通力を持っていた。
教授はシャロンの魔法にも満足げに頷き、
「うんうん、この魔法でも騎士たちの鎧を貫通できそうだね。十分な威力だよ」
教授はそう言った後、五年生たちの方をちらりと見た後、
「他人の魔法を見て、すぐに自分の魔法の威力を上げる。真似るだけでは駄目なのだよ。君たちのように自分なりに工夫しなければね」
教授は満足気な表情でもう一度頷いた後、「何か聞きたいことはないかね」と言って、俺を見た。
俺は火属性魔法より土属性魔法の方が気になっており、それが表情に出ていたようだ。
「先ほどの土の壁を作ってから、石の壁に変えたことですが、どうしても判らないのです」
教授は「何がかね?」と楽しそうな表情で聞いてくる。
「土の壁の魔法は私も使えるのですが、あれほどの大きさの物を作るにはかなりの魔力がいると思うのです。それにあのスピードも。石の生成も同じであれだけの体積の土を石に変えると、相当大きな魔力があっても難しいのではないでしょうか? 私には先生が何か特別な工夫をしているように思えたのですが、どうしてもそれが判らないのです」
俺が持った疑問は石の壁を作るのに何か工夫をしているのではということだった。いくら高位の魔術師でも、魔力の絶対量的に、俺のやり方ではあの大きさの石の壁を作るのは無理がある。エルフという種族特性があるのかもしれないが、俺は自分の魔力を数値化して見ることが出来るので、一流の魔術師でも精々俺の四、五倍くらいしか魔力保有量はないと予想している。
教授は面白そうな表情を崩さず、「君は何か仮説を考えているのではないかね?」と聞いてきた。
一応推論は考えてあるのだが、説明しきれないところも多い。だが、教授は俺が答えないと素直に教えてくれそうに無いので、一部欠けた推論を披露した。
「まだ判らない部分が多いのですが、一応考えてあります。魔法で物質を作り出すことには多くの魔力が必要です。ですが、現象であれば消費する魔力の量は少なく出来ます。恐らく土の壁は地面の土を利用した物だと思うのですが、それなら地面に土が減った痕跡が残ります。見た限りでは周囲の土を使った痕跡が無いので、先生がどうされたのかは判っていません」
「うむ。着眼点は良いよ。ほぼ正解と言っていいくらいだ。では、石の生成の方はどうかね?」
「石の生成も似たような方法だと思うのですが……そもそも石の生成は土を固めて石を作り出す魔法です。先ほどの土の壁とは異なり、性質を変えるだけですから、何か方法があると思うのですが、こちらはまるっきり判りません」
俺がそう言うと、教授は「ミス・ジェークスはどう思うかね」とシャロンに質問した。シャロンは「判りません」と小さな声で答えながら、プルプルと首を横に振った。
教授は俺たちを焼け焦げた石の壁のところに連れて行く。
「ミスター・ロックハート、君も石を作ってみなさい」
俺は言われるまま、地面の土を材料に小さな石を作り、教授に差し出した。
教授はそれを受取り、近くに落ちていた自分の作った石を拾った。
「良く見比べてみなさい。君たちならすぐに違いに気付くと思う」
俺の作った石は砂を固めた砂岩のような物で、石同士をぶつけると割と簡単に砕けてしまう。だが、教授の作った石は良く見るとセメントのような砂と、何か細かい物質で出来ている。
俺は「漆喰かな?」と呟いていた。
「その通りだよ。正確には漆喰のような物をイメージしたというのが正しいがね。土を石に変えるには、土を密着させて固める方法が一般的なのだが、私は凝固させるイメージを使っているのだよ」
俺は凝固剤のような物質を作り出すことであり、魔力消費量が大きくなるのではないかと質問した。
「必ずしもそうではない。土を石に変えるための魔力と凝固させるために物質を作り出す魔力を比べ、どちらが大きいかを比べてみたのだ。そして、最も効率がいいのが、凝固させるイメージと押し固めるイメージを合わせたものだったのだ。単純に土を押し固めるイメージの魔法の十分の一以下の魔力で済んでいるはずだ」
俺はなるほどと感心した。
確かにセメントのように凝固剤の割合が多ければ、魔力を多く消費するだろう。だが、接着剤のようなものを少量補助に使うだけのイメージなら、それほど魔力は消費しないはずだ。それにしても、今の十分の一の魔力で石壁が出来るなら、城壁を作ることは十分可能だ。
俺は教授の言ったイメージで石を作り出してみた。
さすがに十分の一とまではいかなかったが、魔力の消費量は数分の一に減っていた。
「凄いですね。しかし、この魔法が一般的ではないのはなぜなのでしょうか?」
教授は面白い話を聞いたとでも言うように、クスクスと笑い出した。
「君は本当に面白いね。私や君、ミス・ジェークスのような選ばれた者なら覚えられるだろうが、普通の者にはこのイメージはなかなか掴めぬのだよ。もちろん、土属性魔法の魔導書にも似たようなことは書いておいたのだが、一般的なイメージは、石は土が固まったもの、あるいは、土は石が砕けたものというものなのだ。その固定観念が抜けぬ限り、君のように簡単には再現出来ぬのだよ」
確かに固定観念というのは中々払拭できないものだ。自分自身もそう思うことが多々あるが、魔法に関してはリディを見れば良く判る。
リディは風属性魔法の使い手だが、俺やシャロンが得意な燕翼の刃は苦手だ。旋風の刃は得意なのに、ツバメの形になるだけで威力が落ちてしまう。かなり練習して、誘導まで出来るようになったが、それでも俺やシャロンのような細かな制御は出来ない。
理由を聞いて見ると、まさに固定観念が邪魔している。魔法で生物を模すというのが、彼女にとっては難しいようなのだ。リディも魔法で道具を模すことは簡単に出来る。これは彼女が魔法は武器であり、道具であるという概念を前提としているからだろう。
その点、シャロンは幼い時に俺の魔法を見ているから、その固定観念がない。俺のペルチェ効果の魔法ですら、簡単に再現出来たのだから。
俺は最初の疑問、どうやって土の壁を作り出したかについて、もう一度質問した。
「先ほどの土の壁のことですが、こちらも同じように固定観念を排除すれば出来るのでしょうか?」
「うむ。そこまで難しいことではないが……折角なので、これは宿題にしよう。ミスター・ロックハート、次回の講義までに考えをまとめておくように。ちなみにこれも私の著書には書いてあるが、エルバイン教授――リディの旧友、キトリー・エルバイン――にその本について聞かないように」
その後、魔力切れにならない程度の魔法を使い、教授のアドバイスを貰った。
最後に教授が作った石の壁を処分する。
「これは先ほどの応用だ。凝固させるための素材を分解するイメージをすれば……」
そう言いながら、石の壁に手を当て、砂の生成の呪文を唱える。すると、強固な石の壁が、さらさらの砂に変わり、砂場に作った山のようになった。
「まあ、自分で作ったものは簡単に崩せるが、自然の石はもう少し難しいがね」
俺はそんなものかと聞き流しそうになったが、石を砂に変える魔法というのは、思ったより使い道がある。
岩山にトンネルが掘れるし、部分的な変換が出来れば石材の加工にも使える。更に金属の鉱石から金属を取り出すことや、農地を開墾するときに大型の石を土に変えられれば、開墾の手間がかなり軽減されるだろう。
俺がそのことを教授に話すと、
「君は本当に面白い。どういう育ち方をすれば、そうなるのかね。全く興味が尽きんよ」
そう言って笑っていた。




