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ドリーム・ライフ~夢の異世界生活~  作者: 愛山 雄町
第二章「学院生時代:学術都市ドクトゥス編」

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第四十二話「ラスモア村調査:前篇」

閑話です。

 私アール・ノールズは、魔術師ギルドの教育研究委員会の常勤職員だ。その私にある命令が下った。



 八月五日。


 その日、マイルズ・イシャーウッド参事が私を呼び出した。

 私はあの妖怪染みたイシャーウッド参事が苦手だった。彼は整った容姿で三十六歳という年齢よりかなり若く見えるのだが、あの蛇のような目で見られると鳥肌が立ってくる。

 その参事が執務室に至急来るようにと伝言をよこしてきた。これが吉兆であるはずが無いと肩を落としながら、参事の執務室に走った。


 彼の部屋に入ると、既に先客がいた。

 良くは知らないが、確か人事委員会の若手の男性職員で、ティリア魔術学院の一年後輩に当たるはずだ。

 イシャーウッド参事はいつものように、あの鳥肌が立つ目で私を見ながら、「ノールズ君、よく来てくれたね」と笑顔を見せた。

 私にはその笑顔が獲物を見つけた爬虫類のようにしか見えず、ブルッと震えそうになるのを必死に抑えながら、何とか挨拶を返していた。


「ここにいるのは、人事委員会のレストン君だ。一時的に君の部下になる」


 彼は私と同じように戸惑っているように見え、「ジェイミー・レストンです」という声が僅かに震えていた。


 イシャーウッド参事は、私たちの戸惑いなどお構い無しに話を始めた。


「さて、君たちに来てもらったのは、ある調査をしてもらうためだ」


 私とレストンは互いに顔を見合わせるが、すぐに参事の方に向き直る。


「調べてもらいたいのは、ラスモア村という開拓村についてだ。特にその村の領主であるロックハート家について調べてもらいたい」


 私はラスモア村という名を、その時初めて聞いた。


「調査の目的をお聞かせ頂けますか? 具体的には何を調査したら良いのでしょうか?」


 イシャーウッド参事はニヤリと笑った。私は背中がぞくっとしたが、体を動かさないよう腹に力を入れて、彼の話を聞いていく。


「では、調査の目的を教えよう。事の発端は一昨日の入学試験の実技試験なのだ。あのラスペード教授が興味を持つほどの天才が、二人も現れたのだよ……」


 参事の説明は、八属性をすべて持つロックハートという少年と、火と風の二属性ながら天才的な魔力制御が行えるジェークスという少女が現れたそうで、その二人がどちらもラスモア村の出身だというのだ。

 更に言えば、二人は領主の次男と従士の娘で、乳兄弟の間柄でもある。このため、ロックハート家に何かがあるのではないかと、学院は考えたそうだ。

 学院から教育研究委員会にその話が上げられ、魔術師ギルドとして正式に調査することが決まった。

 そして、その調査員が私とレストンという訳だ。


 具体的な調査内容はロックハート家が魔法の才能を持つ家系か、特殊な教育を行ったかなどで、生活環境、周囲の自然環境、食糧事情など、出来る限り詳細に調査することが求められていた。


「ラスモア村はここから三百七十kmほど離れている。君たちには往復の行程を含め、二ヶ月間の調査期間が与えられる。出発は五日後の八月十日。合格発表を確認してから調査に向かったという建前だ。本日ですべての試験が終わったが、ロックハートが首席、ジェークスが次席であることは確実だ。というより、レベルが違いすぎて比較するのが馬鹿らしいほどなのだよ」


 更に詳しく聞くと、ロックハートとジェークスの二人は今年卒業した卒業生の中に入ったとしても、恐らく首席、次席を取るだろうということだった。特にロックハートは若手の実技講師以上の実力があるそうで、生徒どころか教員になれるレベルだそうだ。


 私たちはすぐに持ち場に戻り、仕事の引継を始めた。

 私のいる教育研究委員会も、レストンのいる人事委員会も、この時期は一年で最も忙しい時期なのだ。

 九月に定期異動があるし、学院では入学と進級、やることはいくらでもある。

 私はこの時期に出張を命じるイシャーウッド参事を恨めしく思ったが、彼も両委員会にいたので、事情は十分に知っているはずだ。つまり、それほど衝撃的なことだったのだろう。



 慌しく引継などをし、出発の準備が整った出発前日の夜、私たちは仕事の成功を祈るという名目で、魔術師ギルド(職場)近くの酒場で懇親会を行った。

 ある程度料理を平らげ、酒が入ったところで、


「レストン君は今回の調査についてどう考える?」


 彼は少し警戒するように、「どう思うと言われましても……」と口篭る。

 私は聞き方を間違えたと思い、「すまんね。私から先に話すべきだったよ」と、彼に軽く頭を下げ、自分の考えを先に話し始めた。


「ギルドの上層部が気にするのは理解できる。私も引継の合間を見て、あの二人について少し調べてみたんだ。確かにあの二人は天才だよ。というより、早熟といった方がいいかもしれない」


 レストンは「早熟ですか?」と少し首を傾げるように聞きなおしてきた。


「そう、早熟だ。特にロックハートという少年は、十歳とは思えぬほど大人びた雰囲気を持っているそうだ……」


 私は受験の受付、属性確認の担当、試験の説明者に接触し、二人から受けた印象を聞いたのだ。そして、ロックハートに関わった者全員が、彼は十歳とは思えぬほど落ち着いており、時折、見せる笑顔が子供のそれではなく、大人の儀礼的なもののようだったと言っていたのだ。


「……一応、騎士階級の子息だから、そう躾けられているのではないかと聞いたんだが、貴族の儀礼的な態度ではなく、自然と滲み出てくるような、そんな感じだったそうだ。学院の関係者だから、貴族の子息との接点は多い。その彼らがそう言っているんだよ」


 私の言葉にレストンは頷く。そして、自分の調べたことを話し始めた。


「僕も一応事前準備として、ラスモア村とロックハート家について調べてみたんです。ラスモア村については面白い話がありましたよ……」


 彼は人事委員会の伝手つてを使って、ラスモア村という辺境の村を知っている人物がいないか調べたそうだ。地理的にペリクリトルからアルス――南部のカウム王国の王都――に掛けて詳しいものがいれば、知っていそうだと、アルスに良く行く武器商人に話を聞いてみたそうだ。


「……アルスのドワーフ職人で、ラスモア村を知らない者はいないそうです」


 私は「ドワーフの職人が?」と思わず、彼の言葉を遮ってしまった。

 レストンは小さく頷き、笑顔を浮かべる。


「そうです。ドワーフなんですよ。僕も最初に聞いたときは、同じように驚きました。で、ドワーフがなぜ知っているかというと、ラスモア村の名産に酒精の強い酒があるそうなんです。それがアルスのドワーフの間で、大流行しているんだそうです……」


 彼の説明では、数年前にラスモア村で作り始めた“スコッチ”という酒が、酒好きのドワーフたちの間で大流行しており、スコッチを飲めるということが一流の職人の証とされているほどだそうだ。


「……それだけじゃないんです。最近、石鹸が安くなったと思いませんか?」


 突然話題が変わり、私は戸惑ったが、確かに数年前から石鹸の値段が急落している。以前は我々庶民では見ることすら叶わなかったものだったが、ここ一、二年は安い物なら、二(クローナ)(=二千円)ほどにまで安くなっている。


「……そして、その石鹸なんですが、アウレラ――西にある世界最大の商業都市――で最高級品と言われているのが、そのラスモア村のものなんですよ。ほとんど流通していないそうなんですが、滑らかさと香りの良さで貴婦人たちが、競って買い求めているそうです」


 私は「酒に石鹸か」と呟き、「今回の調査に関係があるかもしれないな」と口にした。

 レストンは「ロックハートとジェークスの二人が、それに関係しているってことですか?」と、懐疑的な感じで聞き返してきた。


「いやいや、そう言うわけじゃないよ。例えば、ラスモア村に我々の知らない賢者が現れ、村の特産品として、新しい酒と石鹸の作り方を伝授したとする。当然、賢者は領主の館に滞在するだろうから、その傍らで子供たちを指導する……あり得ない話でもないな」


 レストンも「そうですね。確かに……」と何度も頷いていた。

 もちろん、我々も先入観を持って調査するつもりはなかった。

 だが、調査期間は実質一ヶ月しかなく、ラスモア村だけなら十分な調査期間だが、下手をするとアルスまで足を伸ばす可能性がある。そうなると、期間はギリギリだ。ある程度目星をつけて調べる方が効率的だろうと考えたのだ。


 翌八月十日。

 私とレストン、そして、護衛の傭兵五人の計七名は、学術都市ドクトゥスを出発した。


 私はここドクトゥス出身であり、レストンも東のアーマスウェイト――ドクトゥスから百km東にある城塞都市――近くの村の出身であり、二人とも旅慣れていない。

 このため、一日辺りの移動距離を抑え、半月ほど掛けてラスモア村に行く予定にしている。


 アウレラ街道――西のアウレラとペリクリトルを結ぶ大動脈――を東に進み、七日間掛けて冒険者の街、ペリクリトルに到着した。

 護衛たちによると、この先のアルス街道――ペリクリトルとアルスを結ぶ南北の主要街道――は難所が多く、ここで休養を取ってはどうかと提案された。

 私もレストンも初めての旅でテンションが上がっており、あまり疲れは感じていなかったが、旅のプロである傭兵の提案を素直に受け入れることにした。


 我々は観光と情報収集を兼ね、ラスモア村に関する情報を集め始めた。

 ここで集めた情報はラスモア村というより、ロックハート家に関するものが多かった。特に先代の領主、ゴーヴァン・ロックハートに関する話が良く聞かれた。

 ゴーヴァン・ロックハートの評判はかなり良く、特にアルス街道を行き来する商人や傭兵の評判は手放しに近いものだった。彼のおかげで、キルナレックという街近くの治安が保たれ、危険が多いアルス街道で唯一安心できる土地だということだ。

 ロックハート家の噂を聞く限り、騎士らしく武のイメージが非常に強い。天才魔術師を輩出したという事実と相反するような情報ばかりで、我々は混乱した。


 一日の休養の後、アルス街道を南下していった。

 護衛たちの言うとおり、アルス街道は難所が多く、私は初めて命の危険を感じた。

 護衛の提案を受け、商隊と行動を共にしていたのだが、その商隊が魔物の群れに襲われたのだ。

 場所はアルス街道北部の最大の難所、カルシュ峠の南側だった。


 我々は難所を抜け、僅かに気を抜いたところでオークの群れに襲撃された。

 私もレストンも学院卒業後は、魔術師ギルド本部で内勤をしており、戦闘経験はほとんどない。学院の五年の時に行われる実習で、ゴブリン程度の弱い魔物を殺したくらいしか戦闘の経験はなかった。

 幸い、オークの数が少なく、護衛の腕も確かだったので、我々はケガをすることなく切り抜けられたが、一緒にいた商隊の連中から、魔術師のくせに役に立たないと、嫌味を言われた。

 確かにオークが現れた瞬間、私もレストンも恐慌(パニック)に陥り、荷馬車の陰に隠れてしまった。一般にはあまり知られていないが、魔術師と言っても魔術師ギルドの職員は、定期的な訓練を行うだけでレベルの割に戦闘では役に立たない。


 その時、偶然調査対象であるザカライアス・ロックハートの噂を聞くことになった。

 商隊の護衛が「一月くらい前には十歳くらいの子供がハーピーを何匹も倒したのに、本家本元の魔術師ギルド直属の魔術師がこんなざまじゃな」と言っていたのだ。


 私はその護衛の剣術士に詳しい話を聞いた。

 彼は名前までは記憶していなかったが、十歳の子供二人にエルフの女魔術師という組合せは、彼ら以外考えられない。

 つい最近までペリクリトルの傭兵の間では、危険なカルシュ峠で商隊を守るため、ハーピーを一人で四匹も撃ち落した少年魔術師の噂でもちきりだったそうだ。


 私は最初耳を疑った。

 確かにレベルが実技講師以上、すなわち私と同じ程度であれば、考えられないことではない。だが、僅か十歳の子供が、空中から襲ってくるハーピーという危険な魔物に立ち向かえたことが信じられなかったのだ。少なくともその段階で、七級相当の魔物と戦えるだけの戦闘経験を積んでいたことになる。


 その後は何事もなく、ラスモア村の入口に当たるキルナレックという街に到着した。

 明日、八月二十六日にラスモア村に入るのだが、この街でもラスモア村の噂を拾ってみることにした。

 ラスモア村の話はすぐに聞けた。

 それほど頻繁ではないが、村から買出しに来る者がいるためで、ロックハート家やスコッチという酒、石鹸の話を聞きながら、我々の考えている“賢者”の存在についても調べてみた。

 ロックハート家や酒、石鹸の話は容易に集まるのだが、賢者の話は中々集まらなかった。

 唯一それらしき人物がいるのだが、それはニコラス・ガーランドという従士だった。

 彼は先代のゴーヴァン・ロックハートと共に村に来た生え抜きの従士だそうで、ドクトゥスの私塾に留学した経験があるそうだ。そして、酒造りや石鹸作りの指揮を執ったそうなのだが、賢者というイメージではなかった。

 彼自身、剣術の達人だそうで、以前はこの辺りの魔物を狩っている姿を良く見かけたという話を聞いた。その当時を知る者は、生粋の剣術士のように魔物の返り血を浴びて真っ赤に染まった姿が印象に残っているという。

 私はとりあえず、このガーランドという従士を中心に調査を進めることにした。

長くなったので、二話に分けました。

後篇は明日投稿します。

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本作品とは毛色が違い、非転生・非転移ものですが、こちらもよろしくお願いします。
最弱魔術師の魔銃無双(旧題:魔銃無双〜魔導学院の落ちこぼれでも戦える“魔力式レールガン戦闘術”〜(仮))
― 新着の感想 ―
[良い点] ノクティスに幸いあれ ベアトリス達の復活が無ければ、鬱になりそうでした。 どのキャラも大好きです。
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