第四十話「新しい仲間?」
冒険者ギルドに向かった。理由はシャロンの実力を獣人の槍術士ベアトリス・ラバルに見てもらうためで、今日はベアトリス、リディ、シャロン、俺の四人で森に入ることにしていたのだ。
シャロンはベアトリスの話を聞き、少し緊張しているようだったが、俺が「悪い人じゃないから」と言うと素直に頷き、少なくとも不安な表情は見せなくなった。
ギルドの前で待っていると、革鎧に身を包んだベアトリスがやってきた。
彼女はシャロンを見るなり、「ちっちゃい嬢ちゃんだ」と言ってシャロンの前でしゃがみこむ。
その動きにシャロンがヒッといって怯え、ベアトリスは少し悲しそうな表情を見せながら、シャロンに謝っていた。
「ザックが怯えなかったから大丈夫だと思ったんだがね……すまないね。あたしは自分の姿が怖いのは自覚しているんだけど……」
俺はシャロンの肩に手を置き、ベアトリスに向かって、
「怖い? 誰がそんなことを言ったんだ。なあ、シャロン。ビックリしただけだろう?」
俺の言葉にシャロンは小さく頷き、ベアトリスに「ごめんなさい」と言って頭を下げる。
ベアトリスはどう言っていいのか判らないという表情で俺を見つめていた。
「ベアトリスは美人だと思うぞ。体が大きいだけで別に怖くもないし」
俺は正直に思ったことを言ったのだが、彼女は「大人をからかうな」と俺の背中を叩いてきた。俺はつんのめりそうになりながら咳込むが、リディが「いつまでも遊んでいないの」と不機嫌そうにそっぽを向く。
俺は素直に謝り、ベアトリスに今日の予定を確認した。
ベアトリスはさっきまでのドタバタを誤魔化すように、真剣な表情を作っていた。
「今日はシャロンの実力を見せてもらうよ。ザックの言うことを信じないわけじゃないが、この目で見てみないとね。だから、今日は近場で狩りをする」
ベアトリスの計画では、比較的危険の少ない近場を中心に魔物を探し、彼女の実力を見て後見に値すると思ったら、ギルドに戻って登録手続きをするというものだった。
どうやら、シャロンの姿を見て不安に思ったようだ。
確かにお嬢様然としたシャロンが、戦力になるとは思えないだろう。だが、今日もベアトリスは驚くことになると密かに思っていた。
ギルドから北の森に向かい、一時間ほどすると、俺やシャロンにとって格好の相手、殺人蜂が十匹ほど飛んでいるのを見付けた。
蜂たちは俺たちの前方二十mくらいを左から右に抜けようとしていたが、俺が先に見つけたため、こちらには気付いていない。
俺はベアトリスに微笑みながら、「ちょうどいい相手だ」と告げた。彼女は信じられないという顔を見せ、「判っているのかい。相手は殺人蜂なんだよ」と小声で言ってきた。
「確かに普通の冒険者にとったら危険な相手なんだろうな。だが、俺たち三人にとってはカモなんだよ」
ベアトリスはまだ何か言いたそうだったが、十匹のキラーホーネットなら自分とリディで何とかできると腹を括ったようだ。
俺はシャロンに「刃の竜巻で行こう」と囁く。
彼女もそれに頷いた。
俺たちは立ち上がり、二人でトルネードスラッシュの呪文を唱え始めた。
キラーホーネットは立ち上がった俺たちに気付き、ブォンブォンという羽音をさせて、こちらに向かってきた。
「「数多の風を司りし風の神よ。荒ぶる竜巻、乱舞する刃を我に与えたまえ。我が命の力を御身に捧げん。我が敵を引き裂け! 刃の竜巻!」」
俺とシャロンが同時に呪文を唱え終えると、直径二mほどの小型の竜巻が二つ、森の中に現れた。竜巻は草や木の葉を巻き上げながら、キラーホーネットに向かっていく。
蜂たちは本能的に危険を感じたのか、左右に分かれて竜巻を避けようとした。だが、それは想定通りの動きだった。俺の竜巻が右へ、シャロンの竜巻が左に針路を変えると、蜂たちは行き場を失った。
知性のある魔物なら、方向転換して逃げ出すのだろうが、本能で動く昆虫型の魔物は竜巻の縁を抜けようと全速で向かってくる。これは何度か戦ううちに気付いたこの魔物の習性だった。
蜂たちが竜巻に近づくと、次々に引き込まれ、真空の刃に切り刻まれていく。結局、十匹いたキラーホーネットは一匹も竜巻を抜けてくることができなかった。三十秒ほどで竜巻が消えると、俺とシャロンはキラーホーネットに止めを刺しながら、魔晶石を回収していった。
魔晶石の回収を終え、ベアトリスとリディに合流する。そこには唖然とした表情で固まるベアトリスの姿があった。
俺が「シャロンの実力もなかなかだろう?」と言うと、ベアトリスは掠れた声で、
「ああ、あんたが言うとおり、並みの魔術師より腕はいい」
まだ放心しているベアトリスに対し、「なら、登録してもいいな」と追い討ちを掛ける。彼女はただ頷くだけだった。
一旦、街に戻り、シャロンの冒険者登録を行うため、冒険者ギルドに向かった。
シャロンの登録をしようとした時、受付のティナから、昨日のテリーの暴力行為についての報告があった。あまり興味はなかったが、俺が訴えたことになっているので、一応報告を聞くことにした。
報告の概要は次の通りだった。
実際に暴れたテリーは奴隷の首輪を嵌められ、千C(=百万円)の罰金が科される。罰金は報酬から天引きされる形で徴収され、完済するまで首輪を付け続ける。奴隷の首輪だが、命令を遵守しないと苦痛が与えられる魔道具で、一般的には奴隷が逆らえないようにするための道具だ。今回テリーがそれを付けるが、奴隷に落ちたわけではない。逆恨みで被害者に更なる被害を与えないように首輪で強制するためだそうだ。もちろん、今回の原因である飲酒も、完済するまでは首輪によって禁じられる。
テリーのパーティメンバーについては、あの場にいたものは全員同じように首輪を嵌められ、三ヶ月間の禁酒と、その間の報酬の二割を罰金として納める必要がある。
罰金の半分は被害者である俺に渡されるそうだが、正直、被害を受けたわけじゃないからどうでもいい。ただ、きれいに酒の飲めない奴にお灸を据えることには賛成なので、ありがたく頂くつもりだ。
今回は冒険者同士の喧嘩ではなく、一般の客、それも子供相手と言うこともあり、実害が無かったが、かなり厳しく処罰された。
と言っても、傷害未遂でたった百万円の罰金と言うのは軽いような気もするが、加害者のテリーが七級の若手だということから、この程度の罰で済んだそうだ。
これは未遂と言うことを考慮し、更生の機会を与えたという側面が強い。もちろん、級が上がれば更に罰は厳しくなり、一流と言われる四級以上なら、即ギルドから除名され、多額の罰金が科せられる。もちろん、相手を殺した場合や大ケガをさせた場合は、級に関係なく犯罪奴隷に落とされる。これは冒険者ギルドに限った話ではないが。
ティナからテリーたちの話を聞いた後、シャロンの登録を行った。その後、七級相当の魔物、殺人蜂の魔晶石十個をカウンターに出し、俺とシャロンの依頼完了手続きを行ってもらった。
シャロンが冒険者ギルドに登録する前の討伐結果なので、厳密に言えば依頼達成数にカウントできない。だが、ここドクトゥスだけは特別で、事後受付が可能であるため、依頼達成にカウント出来るのだ。もちろん、あまりに古い討伐結果は無理だが、一日程度の時間差なら、受付してもらえることになっている。
その結果、俺とシャロンは九級に昇級した。
その後、再び森に入り、四人で魔物を狩っていく。
ベアトリスが加わったことで、俺たちのパーティの戦闘力は飛躍的に上がった。特に前衛が二人になったことで、俺の負担はかなり減った。
そのベアトリスの戦闘力だが、訓練場で見たのは、実力の一端に過ぎなかったようだ。穂先の長い槍を自在に操り、小型の魔物ならハルバートかグレイブのように斬り裂く攻撃で両断する。また、大型の魔物に対しては、正確な突きで急所を貫いていた。
俺たちだけならかなり梃子摺る、防御力の高い岩猪ですら、僅か一撃で倒してしまった。
帰り際にレベルを聞いて見ると、槍術士レベル五十一であることが判った。
俺が逆立ちしても勝てないはずだと思いながら、最後に倒した岩猪をメインディッシュに、俺とシャロンの冒険者登録とベアトリスとの出会いを祝おうということになった。
午後三時頃、俺たちは街に戻り、ギルドで魔晶石を売却してから家に帰った。
ベアトリスを家に招く形となり、この家の主婦であるシャロンが大慌てで仕事を開始する。
リディはパンや酒などを買いに行き、ベアトリスが猪を解体してくれる。
俺はといえば、風呂を入れるために魔力を使って水を張り、湯を沸かしながら、氷を作っていた。
(さすがに森に入った後に一人で風呂を淹れるのは大変だな。水だけでも前の日の夜に入れておいた方がいいな。それなら、魔力をそれほど使わないし……)
俺が風呂を沸かし終わった時、ベアトリスが岩猪を解体し終わり、肉の塊を台所に持ってきてくれた。
「それほど大きくなかったが、かなり肉が余るぞ。どうするんだ?」
彼女が仕留めた岩猪は体重百kgほどの小型のものだった。森の中で大雑把に捌き、不要な部分は捨てているが、それでもかなりの量の肉が取れた。
俺たちは余った肉をよく近所に配っているので、「ご近所に配るから、適当に切り分けておいてくれ」と彼女に頼んだ。
俺たち用にアバラ肉と肩肉、モモ肉を二十kgほど残し、残りを近所に配りにいった。
お隣のリトルフさんとノヴェロさんを中心に数軒の家に肉を配ると、お返しにと言って、果物や燻製肉、鍋に入れてもらったシチューなどが貰えた。
何となく、昔の日本の近所付き合いのようで微笑ましいと思いながら、家に戻っていった。
その頃になると、シャロンが簡単な野菜炒めを作り終わり、更には暖めたオーブンに塩と香辛料を塗りこんだバラ肉を入れていた。
リディもパンとワインの壷を手に戻ってきた。そして、「お風呂の準備は終わってる?」と聞いてきた。
俺が「終わっているぞ」と言うと、嬉しそうな顔で風呂場に向かった。
ベアトリスは食卓の椅子に座りながら、俺たちの会話を聞き、「風呂があるのか?」と聞いてきた。
「俺が作った風呂なんだが、割といい感じだぞ。リディの後に入ったらいい」
彼女は呆れながら、「どこのお大尽の家なんだい」と呟いていた。
うちの風呂はかなり大きめに作ってあるから、ベアトリスでも大丈夫だろう。これは父や従士たちが家を訪れても大丈夫なようにと大きめにしたからだが、こんなところで役に立つとは思わなかった。
リディが風呂から上がってきた。
バスローブのような簡単な服を羽織っただけの艶かしい格好だが、俺以外、男がいないので、本人は全く気にしていない。最初は目のやり場に困ったが、最近はすっかり慣れてしまった。
俺が「ベアトリスに入り方を教えてやってくれ」と彼女に頼むと、「一杯だけ冷えたビールを飲ませて」と拝んでくる。
その仕草があまりに可愛かったので、「一杯だけだぞ」と言って、リディが買ってきた小型のビール樽からジョッキに注いでやり、擬似ペルチェ効果の魔法でキリキリに冷やして渡してやった。
彼女はそれを愛しそうに受け取り、一気に飲み干す。その姿が親父臭いと思うが、それは指摘しなかった。
ベアトリスは今日何度目かの驚きの表情を浮かべるが、「風呂上りに飲ませてやるから」と言って風呂場に送り込んだ。
シャロンの料理もほぼ完成し、後は風呂に入って食事を始めるだけだったが、ベアトリスが中々出てこない。それどころか、説明するだけのはずのリディも戻ってこなかった。
俺はどうなっているのか気になり、風呂場の前で二人に声を掛けようとした。だが、中から声が漏れてきたので、思わず聞き耳を立ててしまった。
中からは、「本当、何が入っているの、その胸に」というリディの声が聞こえ、「勝手に触るな」と言うベアトリスの少し焦ったような声が聞こえてきた。
(百合百合しいことになっていないよな。聞かなかったことにして、早くするように言おう)
「俺とシャロンがまだなんだぞ! 遊んでないで早く出てくれ!」
俺がそう叫ぶと、中から「あなたも一緒に入ったら。凄い物が見られるわよ」というリディの陽気な声が聞こえてきた。
たった一杯のビールで酔うはずはないのだが、どうやら少し酔っているようだ。
リディが戻ってきたので、酔っているだろうと問い詰めると、
「さっき、屋台で一杯飲んできたのよ。だって、昨日初めて会った人と一緒に食事をするのよ。お酒でも飲まないと……」
俺はベアトリスが女性ということで、リディの対人恐怖症のことを忘れていた。
俺が「ごめん。リディのことを考えていなかった」と謝ると、陽気な声で「あの娘は嫌いじゃないから大丈夫よ。ちょっと勢いが欲しかっただけ」と笑っていた。
ベアトリスが風呂から出てくるのだが、客用のバスローブが凄いことになっており、俺は目のやり場に困ってしまった。何せ、襟を前で合わせようとしているのだが、完全に閉じれず、胸の谷間がはっきりと見えていた。丈もギリギリで健康的な太ももが目に飛び込んでくる。更にバスローブの後ろから、黄色と黒の縞模様の虎の尾が揺れていたのだ。
俺は彼女を凝視しないよう精神力を総動員した。
だが、それが恥ずかしそうにしているように見えたのか、ベアトリスも少し頬を赤らめ、「着ていた服に着替える」と言って、奥に引っ込んでいった。
シャロンが次に風呂場に向かう頃、ベアトリスが戻ってきた。
彼女はさっきの状況を誤魔化すように、
「それにしても凄いね。あたしは初めて風呂って奴に入ったが、こんなに気持ちがいい物だとは思わなかったよ」
俺は「そうだろう。これだけはやめられないんだ」と答え、彼女に冷えたビールを渡す。
彼女はこの十月という時期に冷たいビールが飲めると驚き、五百cc以上入るジョッキを一気にあおった。
「プハァ。リディアーヌが一杯だけと拝んだ理由が良く判るよ。こんなにうまいもんなんだね」
まだ飲み足りないのか、もの欲しそうな表情で俺を見るが、俺は首を横に振り、「食事まで待てよ」と言って空のジョッキを受取った。
シャロンが出た後、俺が風呂に入るが、いつもよりかなり湯が減っている。
さすがにあの体格で入られたら、湯がなくなるなと思いながら、湯に浸かって疲れを癒す。
(新しい仲間か……いや、まだ判らないか。リディは何となく大丈夫そうだが、シャロンの気持ちも聞かないといけない。俺としては彼女がいる方が森の奥に行けるからいて欲しいんだが……もちろん、野性的な美人だと言うのも理由の一つだ。それは素直に認めるよ……)
湯に浸かりながら、なぜか自分に言い訳をしていた。
風呂から出ると、そのまま祝宴に突入した。
近所からのお裾分けとシャロンの作った料理を並べ、最後にメインディッシュである猪のオーブン焼きをテーブルに載せる。
俺とシャロンはぶどう果汁に氷を入れたもの、リディは冷やしたワイン、ベアトリスは冷えたビールで乾杯する。
食事をしながら、ベアトリスがしきりにこの生活を褒めていた。
「風呂も凄いが、冷えた酒があるのがいい。氷もふんだんにあるし、貧乏な貴族の屋敷より贅沢な暮らしをしているんじゃないのか?」
俺が貧乏貴族の屋敷というところで苦笑すると、彼女はすぐに頭を下げて謝ってきた。
「あっ、すまん。お前の実家のことを言ったわけじゃないんだ」
「いや、構わないよ。うちの家は貧乏だが、暮らしは豊かだからな。何と言っても大きな風呂があるし、酒蔵も持っているくらいだからな」
実際、今のロックハート家は昔ほど貧乏ではない。スコッチの売上によって、安定的な現金収入があるから、それほど金に困っているわけじゃない。他の騎士領なら、魔物を退治するのに傭兵や冒険者を雇う必要があるし、更に貴族同士の付き合いもあるから、結構な金額の現金が消えていく。一方、ラスモア村では魔物は自警団で処理し、近くに貴族領もなく、宮廷との付き合いもないから、ほとんど現金を使わない。
村人の暮らしだけ見れば、大貴族の領民より平和で生活水準も高く、幸福度は高いと思っている。
食事を終え、片付けを終えると、ゆっくりとした時間が流れていく。
リディとベアトリスは静かに酒を酌み交わしていた。
俺はベアトリスに聞きたいことがあった。
俺が「一つ聞いていいか」と言うと、彼女は静かに頷く。
「森の奥に進んでいくと、サエウム山脈の山裾まで行くんだよな。そこまで行くと魔物の強さはどのくらいになるんだ?」
彼女は少し考えるように、「そうだね」と呟いた後、
「森の中は雑多な魔物がいるのは知っているんだろ? 基本的には森にいる魔物と同じだが、強さがワンランク上がると考えれば判りやすいだろうな……」
彼女の説明では、森には獣系、昆虫系、植物系、鬼系、死霊系など様々な魔物がいるが、山も基本的には同じような構成になっているそうだ。
ただし、すべての魔物に言えることだが、山では魔物の強さがワンランク上になり、更に竜種や巨人のような強力な魔物もいる。森から山に入るパーティは全員が五級以上、かつ、レベル三十五以上は必要だと言われている。
ベアトリスの意見は少し異なり、少なくともレベル四十以上で、全体攻撃が可能な優秀な魔術師の同行が必要だろうとのことだった。
「そうか。ということは、俺たちはまだまだ森の中っていうことだな」
ベアトリスは少し不思議そうな顔をして、
「何を焦っているんだい? あんたの年でその実力なら、十分すぎるほどの力だよ。あと十年掛けても二十歳なんだ。じっくり強くなっていけばいいんじゃないかい」
俺は「焦っているつもりはないんだが」と苦笑し、
「少なくとも五年後、卒業の時までに魔法のレベルを五十、剣術のレベルを四十以上にしたいんだ。今の上がり具合だと、魔法が四十、剣術も三十台後半というところだろう。だから、もう少し強い敵と戦いたいんだ」
リディとシャロンは俺の秘密を知っているため、何も言わないが、何も知らないベアトリスは俺の言葉を聞いて呆れる。
「十五歳で宮廷魔術師長並になりたいのかい。剣術もベテラン傭兵と肩を並べる四十以上……あんたならできそうな気もするけど、そこまで急ぐ理由が……いや、今は聞かないでおくよ。まだ、会ったばかりのあたしに言う話じゃないだろうからね」
少し寂しそうな表情で自分を納得させるように呟き、
「判ったよ。出来るだけ、力になってやろうじゃないか。このベアトリス姐さんに任せておきな」
おどけるようにそう言って笑うが、「だが、無茶なことをしたら、お仕置きするからね」と目を細める。
その日はそこでお開きになり、ベアトリスは名残惜しそうに宿に帰っていった。
帰り際に俺たちの家を見上げ、何か呟いていたようだが、よく聞き取れなかった。




