第三十九話「後見人」
十月三日の午後。
俺はひょんなことから、ベアトリス・ラバルという女槍術士と手合わせすることになった。
彼女は三級の冒険者であり、彼女が認めれば後見人になってくれるという条件で、模擬戦を行うことにしたのだ。
ギルドの訓練場は、他の街にある訓練場と同じように、二十m×三十mほどの広さがある。中では十名ほどの冒険者や傭兵が訓練に励んでいた。
ベアトリスは壁に掛けてある手頃な訓練用の槍を手に取り、「魔道剣術士だって聞いてるよ。それも結構な腕だとね」と言って、壁にある木剣を指差す。
俺はバランスのいい一本の木剣を選び、彼女から十mほどの距離のところに立った。そして、「魔法はどうしますか?」と尋ねた。
彼女は余裕の笑みを浮かべながら、「この距離だと、普通に呪文を唱えただけじゃ難しそうだね。最初に撃たせてやるよ」と言ってきた。訓練をしていた冒険者たちもベアトリスの実力を知っているのか、同じように余裕の表情で笑っている。
(舐められたものだな。魔術師に先に撃たせるとは……そうは言ってもケガをさせるわけには行かないから、炎系の魔法は使えない。オリジナル魔法を見せるのもちょっとな……いや、逆にオリジナル魔法を見せて、驚かせた方がいいかもしれないな)
俺は「それでは先に攻撃させてもらいます」と言って、最も得意な魔法、燕翼の刃の呪文を唱え始める。
「数多の風を司りし風の神よ。天を舞う刃の燕を我に与えたまえ。我が命の力を御身に捧げん。舞え! 燕翼の刃!」
俺の右手から透明な魔法のツバメが飛び立っていく。俺はツバメを大きく上昇させ、更に同じ呪文を唱えていく。
五秒ほどで二羽目のツバメが現れ、今度は地面を這うようにベアトリスに向かっていった。
俺は二羽のツバメによる同時攻撃を狙ったのだ。
以前、シャロンにツバメの制御方法を聞いた時、自律制御が可能だと気付いた。魔法の発動に時間は掛かるが、発動後はツバメを維持する魔力が必要なだけで、あとは勝手に飛んでいってくれる。つまり、精神集中を必要とするのは発動の時だけであり、それさえ終われば、別の魔法を撃てると考えたのだ。
俺が一羽目のツバメを出した時、ベアトリスは初めて見る魔法に興味深げな表情をしていた。だが、そのツバメが訓練場の天井付近を舞い始めると、何をするのかと訝しげな表情に変わっていく。そして、俺が二羽目のツバメを出すと、その表情は驚愕に変わり、「魔法の複数同時発動だと!」と叫んでいた。
俺はその表情に心の中でニヤリと笑っていた。
(魔術師に先制攻撃を許した時点で油断なんだ。ケガをさせるつもりはないが、もっと驚いてもらうとするか)
俺は二羽目のツバメを出した後、すぐに魔闘術を脚に掛け、一気に距離を詰めた。
俺の作戦はこうだ。
最初の燕翼の刃のツバメを上空に旋回させておき、その間に二羽目のツバメを召喚する。一羽目のツバメは俺の最初に指示に従って、十秒後にベアトリスの後方に回り、後頭部を狙う。二羽目のツバメはタイミング合わせて、側面から彼女の膝を狙うようにした。その間に自らに魔闘術を施し、正面から突っ込んでいく。
つまり、三方向から同時に攻撃を掛けるというのが、俺の作戦だ。
もちろん、致命傷にならないように、ツバメの刃部分が鋭利にならないようにイメージしている。スワローカッターを選んだのはこういった調整が出来ることも理由の一つだ。火の玉ではこういった調整が難しい。
ツバメたちの攻撃に最初は慌てたベアトリスだが、すぐに状況を理解し、行動を起こした。
彼女は俺が同時攻撃を狙っていることを看破すると、俺の方に向かって飛ぶように接近してきたのだ。
今度は俺の方が慌てることになった。
俺の方に向かってくるかもしれないと一応警戒はしていた。だが、彼女の動きの鋭さは俺の想像を遥かに超えるものだった。
二m近い巨体ながらも、バネに弾かれたかのように瞬時に距離を詰めてくる。俺の魔闘術を使った動きを凌駕するその速さに、反応が僅かに遅れてしまった。更に、この動きで俺の攻撃はタイミングを外され、二羽のツバメと俺自身による三方同時攻撃の目論見は、脆くも崩れ去ってしまった。
彼女は後ろから迫るツバメを振り向きもせずにギリギリで避け、更に飛び去るタイミングでツバメに槍を叩きつけた。魔法のツバメは、その一撃で消滅してしまった。
俺はその動きに驚愕した。真後ろからくる攻撃を絶妙のタイミングで避け、更に俺のツバメが再び攻撃を掛けることを予想し、先手を打って叩き落としてしまったからだ。
(振り返りもせず、どうやってツバメの来るタイミングに合わせたんだ? これが一流って言われる冒険者か……)
それだけではなかった。
その勢いのまま、彼女は二・五mほどの木の槍を、ビュンという感じで鋭く伸ばしてきた。俺は顔に向けて放たれた一撃を、何とか剣で弾いて軌道を逸らした。
だが、それは彼女の誘いだったようだ。彼女は突き出した槍をすぐに引き戻し、三連続で突きを放ってきた。その速度は最初の突きの比ではなかった。俺はその流星のような突きの一発をもろに腹に受け、無様に地面に吹き飛ばされていた。
(痛っ! こういう時、防具が無いのがきつい……)
俺は胃液と胃の中の物を吐き、地面をのた打ち回りながら、そう考えていた。
だが、俺もやられっぱなしではなかった。
俺の放った魔法のツバメの内、低空を飛ぶ一羽が彼女の太ももの後ろに命中していたのだ。ベアトリスは僅かによろめくが、まだ立ち上がれない俺に槍を突きつけてきた。
命中箇所だが、さすがに最初の狙いである防具の境目には当らなかったものの、太ももの後ろにしっかりと当たっていた。模擬戦ではなく、通常通りの威力なら、俺のスワローカッターは革鎧を貫通する能力があるから、相打ちまでは行かなかったものの、一矢報いたことになる。
俺は口に溜まった酸っぱい胃液をもう一度吐き出し、木剣を杖に立ち上がろうとした。
ベアトリスはさっきまでの陽気さが鳴りを潜め、一言もしゃべらず、冷たい目で俺を見下ろしていた。
立ち上がった俺は彼女の目を見据え、「もう一戦やりますか? それも魔法なしで」と不敵に言い放ってやった。
彼女はそれでも口を開かず、俺を見つめているだけだった。
始まる前には余裕の表情で笑っていた冒険者たちも、同じように表情を無くし沈黙している。
俺は何か拙いことをしたのか心配になり、「じゃ、これで終わりでいいですか?」ともう一度尋ねた。
ベアトリスは小さく首を横に振ると、「あんたは何者なんだい?」としわがれた声で呟く。
「俺はザカライアス・ロックハート。ティリア魔術学院の生徒。それ以上でもそれ以下でもないですが?」
彼女はもう一度首を横に振り、「ああ」と呟くと、
「久しぶりだよ。これほど驚かされたのは……さっきは済まなかった。あんたの魔法を舐めていたよ」
彼女は俺に魔法を先に撃たせたことを謝罪してきた。そして、「これじゃ、テリーを笑えないわ」と言って、俺に笑いかけてきた。その表情がサバサバとした感じで、俺は好感を持った。
俺は「で、どうします? まだ、やりますか?」と笑顔でそう聞いた。
彼女は「今度は魔法なしで」と槍を構えてくる。
俺はそれに頷き、密かに魔闘術を脚と腕に掛けてから、ゆっくりと剣を構えた。
(魔闘術は魔法としてカウントしなくていいだろう。それにしても、さっきとは打って変わって隙のない構えだ……)
結局、その後は一方的だった。
彼女は変幻自在に攻め続け、俺は一度も彼女の懐に入ることができなかった。彼女の槍は連続の突きで槍衾のような壁を作ったかと思うと、今度は蛇のようにうねりながら、俺の体に襲い掛かってくる。実際には槍が曲がっているわけではないが、あまりの早さに残像でそう見えているのだ。
更に体を回転させながら、石突でも攻撃を放ってくるため、魔闘術で強化された脚力でも全く近づけない。
最初のうちは何とか剣で受けていたものの、すぐに体が反応できなくなり、腕や脚、更には胴体にも槍が掠めるようになる。
その状況を打開しようと、足払いやとんぼ返りなどのトリッキーな動きを織り交ぜてみたが、そんな付け焼刃の攻撃は全く効果がなかった。
最後には喉元に槍を突きつけられ、俺は剣を手放した。
俺は上がった息で、「ありがとうございました」と頭を下げる。俺は久しぶりに手練の武芸者から指導を受けることができ、自然と礼の言葉が口をついていたのだ。
ベアトリスは俺の言葉にようやく笑みを浮かべ、「礼を言われるようなことじゃないよ」と言いながら、構えを解く。
「しかし、本当に十歳なのかい? 後ろにいる連中と魔法抜きでやりあえる腕だよ」
彼女は呆れながら、そう言うが、すぐに、「後見人の件は受けてやろう」と言ってくれた。
だが、その後に「但し条件がある」と続けた。
「条件ですか? どういった条件でしょう?」
俺がそう尋ねると、ベアトリスはニヤリと笑い、
「なあに、簡単なことだよ。あたしとパーティを組むだけだ」
俺は「はあ?」と思わず、声を上げてしまった。
それはそうだろう。ベアトリスは三級の冒険者、すなわちベテランの冒険者なのだ。そう、ここにいるリディや、シャロンの父であるガイのような一流の冒険者が、俺のような子供とパーティを組みたいと言ってきたら、驚くより呆れるのが普通の反応だろう。
俺は聞き間違いではないかと思い、「もう一度言って頂けますか?」と丁寧な言葉で尋ねた。
彼女は再び猛獣のような獰猛な笑みを浮かべ、「後見人となる条件はあたしとパーティを組むということだ」と繰り返す。
俺は理解に苦しみ、「どういうことだ」とリディに小声で聞いてみた。だが、リディは「好きにしたら」とそっぽを向く。どうやら、俺が彼女に後見人を頼んだことでへそを曲げたようだ。
困り果てた俺は、
「パーティを組むというのは恒久的なことでしょうか? それとも一回組んでみるということでしょうか?」
「あたしは基本的にはソロなんだ。だが、あんたのことが気に入った。これからどうなっていくのか、間近で見てみるのが面白そうだと思ったんだよ」
俺は漏れそうになる溜め息を堪え、
「私は基本的には学院の生徒です。毎日、森に入るわけにはいかないですし、あなたの都合に合わせるつもりはありません。ですから、恒久的なパーティと言うのなら、この話はなかったことにさせて下さい」
俺がベアトリスとパーティを組むことを断ると、周りの冒険者たちが溜め息をつく。
詳しくは判らないが、彼女と組みたい連中が多いようだ。
同じようにベアトリスも驚きの表情を浮かべ、そして、呆れたような表情に変わる。
「あんたは知らないだろうけど、これでもあたしは引く手数多なんだよ」
そして、大仰な手振りで肩を竦め、「振られちまったね」とおどける。
「まあいいさ。それなら、時々組むのならいいってことだね」
俺がそれに頷くと、
「判ったよ。このベアトリス姐さんがあんたの後見人になってやるよ」
俺は彼女に「よろしくお願いします」と深々と頭を下げた。
訓練場を後にすると、ベアトリスがギルドの受付で俺の後見人になるという話を始めた。
受付嬢のティナは、ベアトリスが俺の後見人になると聞き、目を丸くしている。
ベアトリスは自分のオーブ――身分証明の魔道具――を取り出し、手続きを始めていた。
そして、俺を手招きし、「オーブを出しな」と言ってきた。俺はラスモア村で作ったオーブを腕から外す。
ティナは俺のオーブを見て、「このオーブなら冒険者登録に使えます」と教えてくれた。詳しく聞くと、村で作られるオーブの場合、登録出来る情報が少ない廉価版であることが多く、冒険者としての情報が転写できないことがあるそうだ。その場合は新たにオーブを作らなければならない。だが、ラスモア村の物はかなりきちんとした物のようで、小さな村で登録したと聞いたティナは少し驚いていた。
(じい様はこういうことまで考えて、しっかりした設備を入れたのかな。貧乏な頃は結構大変だっただろうに……)
俺は今、魔術師ギルドのオーブとラスモア村のオーブを持っているため、これに冒険者ギルドのオーブが加わると三つも持つことになる。二つで済んだことを祖父に感謝していた。
受付でティナに冒険者ギルドについて説明を受けた。
俺はリディから聞いており、既に知っている話ばかりだった。
冒険者ギルドとは冒険者の互助組織のことだ。
本部はここに来る途中通ってきたペリクリトルにあり、元々は街道や街近くに出没する魔物を効率的に駆除するために、商業ギルドが主体となって作った組織と言われている。
よって、冒険者ギルドが取り扱うのは魔物や害獣などの駆除が主となるが、薬草や鉱石などの採取なども冒険者の特性を生かせるため、依頼があれば取り扱う。この他にも遺跡の調査や、森の中の魔物の調査などがあるが、商隊などの護衛については傭兵ギルドが取り扱っているため、冒険者ギルドでは取り扱わない。この住み分けは後で説明する級の付け方に関係してくる。
冒険者ギルドでは、依頼者からの様々な依頼を冒険者に斡旋するだけでなく、採取した薬草や魔物の部位などの買取りもしている。
依頼料だが、全体の二割がギルドの手数料、三割が税金となっている。だが、冒険者たちに判りやすいよう、最初から割り引いた金額を報酬としている。サラリーマンの税金と同じく天引きの感覚だ。
依頼に失敗した場合は、報酬の倍額――依頼者が支払う金額と同額――をギルドに支払う必要があるが、これはギルドが依頼者に失敗の賠償するためだ。このため、実力に見合っていない依頼を受けようとする者には依頼を出さないことが多い。
また、年間の報酬額が千クローナ=約百万円に達しない場合は、不足分をギルドに支払う必要がある。支払えなければ除名されるが、これは税金の支払いをギルドが代行しているため、税金逃れに使われないための処置である。ちなみに一般的な街では、冒険者および傭兵以外の市民は、収入の五割近くを税金として徴収されており、冒険者は税的には優遇されていることになる。
冒険者には第一級から第十級の十段階の階級があるが、ランクによって受けられる依頼が制限されることはない。ランクは冒険者のギルドへの貢献度を示すだけであって、単純な実力というわけではない。このため、十級の冒険者が一級相当の依頼を受けても何ら問題はない。もちろん、前述の違約金の話があるので、身の丈に合っていない依頼をギルドが許可することは少ないが。
級を上げるためには、現在のランクと同じランクに設定された依頼を百回達成する必要がある。これはパーティで受けても個人で受けても同じ一回としてカウントされる。
自分のランクより一つ上のランクの依頼を達成すると十回分として、二つ上なら百回分としてカウントされる。つまり、二つ上のランクの依頼を成功させれば、一発でランクアップするということだ。
一方、傭兵ギルドも同じように第一級から第十級までのランクがあるが、こちらは単純に職業レベルと言われる剣術士レベルや弓術士レベルで区分されるため、ほぼ実力通りの分け方になっている。
この違いなのだが、簡単に言うと、依頼者側の利便性を考えているだけだ。冒険者が魔物を駆除する場合、武器や魔法で殺す方法だけでなく、罠を使う場合もある。罠を使う冒険者のレベルは上がりにくいため、レベル制にすると、こう言った冒険者が評価されない。つまり、単純なレベル比較よりも、どれだけ依頼をこなしたかと言う実績を見た方が判り易いという声を反映しているそうだ。
一方、傭兵の場合は魔物を狩るというより、依頼者を守ることが主となる。冒険者への依頼のように特定の標的に対するものではなく、いかなる状況にも対処できる実力者で求められる。よって、実力が判るレベルの方が、依頼者のニーズに合っているというのが理由だそうだ。単純にレベルだけにすればいいかと言うと、依頼者が依頼する場合に幅があった方が出し易い。このため、階級という分け方にしたそうだ。
冒険者にしても傭兵にしても税的に優遇され、更に国境を自由に行き来できる。その分、高い規律が求められている。
冒険者や傭兵が重罪を犯した場合は、即刻ギルドから除名され、更に犯罪奴隷に身を落とすことが一般的である。殺人や傷害、強盗などの悪質な犯罪以外の場合は、ギルド支部の裁量で罰を与えられる。相手に損害を与えた場合などは、奴隷の首輪と言う魔道具を使って強制的に働かせ、返済させることもあるそうだ。
また、ギルド加入時の契約を破る行為、例えば故意に殺人、強盗を犯す、契約違反を故意に行うなどの行為を行うとオーブにその情報が残るため、オーブを確認すれば犯罪を隠すことはできない。
これはオーブを作り直しても同じで、本人の魔晶石にその記録が残るためと言われているが、実際のところは公開されていないので判らない。
これが俺の今知っている冒険者ギルドと傭兵ギルドに関する知識だ。
数分でラスモア村で作ったオーブに情報が書き加えられる。
俺がそれを受取ると、ベアトリスは懐から半銀貨(五C=五千円)を一枚取り出し、登録料を支払った。俺は五C程度なら自分で払えると思い、「自分で払います」と申し出た。
だが、彼女は首を横に振り、「後見人に恥を掻かすな」と言って受取らない。
「これでお前は十級の冒険者だ。普通の街なら、後見人と一緒に依頼を受けるのだが、この街は特殊だからな。自分で狩った魔物なら好きに報告に来たらいい」
ベアトリスはそう言うと俺の頭にポンと手を置く。
「これで登録は終わったが、何か聞きたいことはないか?」
そこで俺はシャロンのことを切出した。俺だけが冒険者になって彼女だけがなれないのは、何となくかわいそうな気がしたからだ。
ベアトリスのパーティを組もうという申し出を断っておきながら、こういう頼みをするのもなんだと思ったが、言うだけ言ってみようと思った。
「私の友にシャロンという魔術師がいます。私と同じ十歳ですが、既にレベル十九の風属性の魔術師なんです。彼女の後見人になってもらうわけにはいかないでしょうか?」
ベアトリスは首を横に振り、「実力を見てみないとな」と言った。
確かにその通りだと思い、「そうですね。すみませんでした」と謝罪する。
彼女は俺の頭に手を置いたまま、俺の顔を覗き込み、
「その堅苦しい話し方は何とかならないか? リディアーヌには普通に話しているんだ。あたしにも同じようにしゃべって欲しいんだがね」
俺はちらりとリディを盗み見る。彼女は知らないとでも言うようにそっぽを向いていた。
「了解。じゃあ、ベアトリス。俺のことはあんたじゃなくてザックと呼んでくれ。こんな感じでいいか?」
俺がそう言うと、彼女は「それでいい」と満足げに頷いた。
俺は僅か十歳にして冒険者となった。
ファンタジーの定番である冒険者になれたのだ。俺はその事実に学院でのいじめのことを忘れ、喜びを噛み締めていた。
ギルド支部を出た後、リディが不機嫌そうな声で話しかけてきた。
「やっぱり美人とは仲良くなりたいものなのよね。彼女はあなたが興味を持っている獣人だし、それにあの尻尾。呆れるくらい見つめていたわよ」
俺は「誤解だぞ、それは」と反論しようとしたが、彼女は更に攻撃してきた。
「最初に顔を見たとき、見惚れていたでしょ。凛々しい感じの美人だし、あなたの周りにはいないタイプだもの。それにあの胸。男の人は大きな胸が好きなんだから仕方ないわ」
俺は何を言っても無駄だと沈黙すると、
「まあいいわ。あの人は悪い人じゃ無さそうだし、この街にいるなら、ああいうタイプの人とも繋がりがあった方がいいもの」
リディも俺と同じようなことを考えていたようだ。だが、俺が鼻の下を伸ばしていた――あくまで彼女の視点だが――ため、へそを曲げていただけのようだ。
俺は彼女の前に回り、「俺の魔晶石をやる相手はリディなんだぞ」と真剣な表情で彼女の目を見つめる。その言葉に少し恥ずかしそうな表情を浮かべ、「判っているわよ」と笑顔を見せてくれた。




