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ドリーム・ライフ~夢の異世界生活~  作者: 愛山 雄町
第二章「学院生時代:学術都市ドクトゥス編」

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第二十六話「図書館」

 ドクトゥスは学術都市と呼ばれるだけあって、魔術学院の他に私塾などの教育機関が多い。そして、魔術学院や私塾には多くの研究者がいる。

 その研究者たちがこのドクトゥスに集まる最大の要因が図書館だ。

 世界最大の図書館、大図書館とも言われるプラエタリタ図書館には、七十万とも言われる蔵書があり、古いものでは三千年以上前、紀元前の物もある。

 大図書館はドクトゥスの前身である城塞都市の主城がそのまま利用されており、この街で最も大きな建物でもある。


 九月四日。

 俺は二日間授業を受け、この授業を受け続けることに意義を見いだせなかった。

 更に昨日、学院の規則を調べた結果、リディの言っていた出席日数に関する制限が無いことを確認した。念のため、更に担任のベネット先生にもそのことを確認するが、


「確かに授業の出席日数で評価はしないよ。この学院の評価は前期と後期の試験だけで決まるからね……だが、そんなに私の授業は詰まらないかね?」


 先生は最後に嫌味を言ってくるが、


「先生の授業に対してどうこう言うつもりはありません。先生もこの学院の教育方針に従わざるを得ないのですから、仕方が無いと思っています」


 俺はそれだけ言って、彼に頭を下げた。


 そして、今日、九月四日は朝から教室には顔を出さず、リディとシャロンと共に大図書館の前に来ていた。

 図書館は城塞を利用しているため、城門から入ることになるが、そこには利用料を支払う窓口のようなものがある。俺たちは魔術師のオーブを見せ、そのまま中に入っていく。

 灰色の石造りの壁におおわれた図書館の入口は、それに見合った分厚い木の扉だった。ギギィという音を立てて、俺は扉を押し開ける。

 中はたくさんの灯りの魔道具で照らされており、思ったより明るい。そして、城だった頃は大ホールであったであろうその場所は、数mの高さの本棚が並び、多くの人が梯子を掛けて本を探していた。

 紙と革、そして微かなインクの匂いが俺の鼻孔をくすぐる。古本屋と革製品の店の匂いを合わせたような独特な匂いに少し戸惑う。だが、リディは俺の前でくるりと回り、


「懐かしいわね。この匂い。それに静けさ……本当、懐かしいわ」


 彼女がそう呟いていると、司書らしい若いエルフの女性が近寄ってきた。その女性は切れ長の理知的な目と滑らかな白い肌、すらりと背が高く、豊かな金髪を頭の後ろでまとめていた。リディほどではないが、キャリアウーマンのような出来る女という感じの美人だった。


「もしかして、リディアーヌ? 私よ、覚えている? キトリー、キトリー・エルバインよ」


 その司書は図書館という静かな場所ということを忘れ、興奮したような声でリディに声を掛けてきた。

 リディはキトリーさんの方に振りかえり、「キトリー? あっ! 本当にキトリーだわ」と言って、彼女の手を取る。

 どうやら昔馴染みのようで、突然の再会に二人とも驚いているようだ。


「まだ、ここで司書をしているの? 四十年以上も経っているのに?」


 リディのその言葉にキトリーさんが少し口をとがらせ、


「失礼ね。これでも学院の教授なのよ。まあ、図書館に入り浸っているのは昔と一緒だけど……」


 どうやら彼女は司書ではなく、魔術学院の教授だそうで、研究資料を探しに来ていたようだ。

 俺は周りに迷惑が掛かると思い、「ここでは迷惑になる。どこか別の場所に移った方がいい」とリディに小声で話しかけた。

 その声はリディだけでなく、キトリーさんにも聞こえたようで、あっというように口を押さえていた。


 その後、図書館にある会議室のようなスペースに行き、リディが俺たちを紹介していた。


「ザカライアス・ロックハートとシャロン・ジェークスよ。私の教え子たちなの」


 リディが冗談めかしてそう言うが、キトリーさんは俺たちの名を聞き、目を丸くする。


「あなたがロックハート君なの? あのラスペード先生が千年に一人の天才だと言っている、今年の首席の子なの?」


 俺はその言葉に驚くが、すぐに気を取り直して自己紹介をする。


「ザカライアス・ロックハートです。ザックと呼んでください」


 俺の自己紹介が終わっても、彼女の顔はまだ信じられないと言うように目が見開かれたままだった。

 そしてシャロンが自己紹介を終えると、ようやく我に返り、


「キトリー・エルバインよ。これでも神学と歴史の研究をしているの。四年になれば授業を受け持つはずよ」


 キトリーさんは右目をぱちりと閉じてウインクをする。俺がその仕草にどぎまぎしていると、「私のザックに手を出さないでよ」とリディが頬を膨らませていた。

 キトリーさんは意外そうな顔で、「あら、あなたがそんなことを言うなんてね」と微笑んでいた。


 リディとキトリーさんが旧交を温めた後、俺たちが来た理由を説明した。

 キトリーさんは、なるほどというように頷き、


「要は一年生の授業では役に立たないから、自分で勉強したいということね」


「はい。ところで私たちみたいに授業に出ずに自習している人って多いんでしょうか?」


 俺は念のため、教授であり、学院生活が長いキトリーさんに確認する。


「そうね。座学を抜け出してくる子は、毎年、二、三十人はいるわね。まあ、二年になったら減るんだけど」


 俺はその数に驚き、「二、三十人も……」と言葉を失う。そして、「実技の方はどうなんでしょう?」と尋ねた。


「実技はみんな出るわよ。だって、この学院じゃ実技の成績が一番大事だもの」


 俺が「そうですか」と呟くと、「それでここには何を勉強しに来たわけ?」と尋ねてきた。


「闇と金属性について調べたいんです。他には複合魔法に関することなんかも……」


 俺が説明していくと、キトリーさんは面白いものを見付けたというような表情になっていく。そして、それならいい本があるわと言って、本棚の方に行ってしまった。

 俺はどうしていいのか判らず、リディの顔を見た。彼女は、「いつものことよ」と笑っていた。

 しばらくすると、三冊ほどの本を抱えたキトリーさんが帰ってきた。


「この辺りが最初はいいと思うわ。もし、満足できなかったら言ってちょうだい」


 彼女の持ってきた本は、“闇属性入門:魔族に学ぶ実践魔法”と“付加魔法:金属性呪文集”、そして、“二属性魔法は可能か? 複数属性による魔法の実態”という三冊だった。


 俺は彼女に礼を言い、シャロンの本についても相談した。

 俺が説明するとすぐに彼女は頷き、二冊の本を持って帰ってきた。

 シャロンが礼を言うと、キトリーさんはシャロンの頭を撫でながら、


「こんな小さな子が首席と次席なわけね。学院の上の連中が慌てるのがよく判ったわ。それにしても、あなたの教え子ね……あの“引き篭りのリディア”が人にものを教えるなんて信じられないわ」


「あら、図書館の主、古書たちの女王、キトリー様に言われたくないわね。本だけが友達だったあなたが、教授になって授業まで受け持っているなんて、当時を知っている人が聞いたらみんな卒倒するわ」


 リディとキトリーさんは毒舌の応酬をしているが、二人の表情は明るかった。


(この人はリディの数少ない友達なんだな。それにしても、俺たち以外にもこれだけはっきりと物を言うんだな。こんなリディを見るのは初めてかもしれない……)


 二十分ほど話をした後、キトリーさんが「これでお(いとま)するわ。この後、あの(・・)ラスペード先生のところに行かなくちゃいけないのよ」と言って、部屋を出て行った。

 俺たちも会議室を使い続けるわけにはいかないため、図書館の読書スペースに移動する。


 俺はキトリーさんが持ってきてくれた闇属性の本を読み始めた。

 本の内容は一言でいえば、精神攻撃魔法の入門書だった。

 魔族が使うとされている魔法を紹介する形で、睡眠や混乱、恐怖などの精神攻撃についての歴史や理論、そして実際に使用できる呪文も紹介されていた。

 ただ、魔族が使うという風に書かれているが、実際には魔族が使っていたものではなく、闇属性魔法の使い手が記した物のようだ。


 闇属性は、人の根源に恐怖を与える存在で、その作用を利用して精神攻撃魔法を構築するとあった。

 読んでいくうちに夜目の効かない人間ならともかく、エルフや獣人のような夜目が効く種族は闇に恐怖を感じないのではないかと思ったのだが、それについても解説があった。

 エルフや獣人の目は光の増幅率が高いだけで、真の闇の中では見ることが出来ない。このため、人間以上に真の闇に恐怖を覚えると書いてあった。


(なるほど。可視光増倍型の暗視装置(NVD)みたいなもので、赤外線なんかで見えるわけじゃないんだな。俺の“視力強化”も同じなんだろうか? 密閉された地下室みたいなところに行ったことが無いから、判らなかったな)


 話はそれるが、俺の視力はキャラクター設定で得た視力強化のおかげで、夜でもかなり鮮明に物が見える。厚い雲に覆われた雨の新月の夜では見辛くなるが、完全に見えないわけではない。


 闇の性質を利用した魔法というのは、恐怖を利用するため、本能を持つ魔物であれば知性が無くとも効果がある。例えば、昆虫系の魔物でも生存本能に応じた恐怖を感じると考えられるため、精神攻撃魔法はある程度効く。だが、スライムのような原形質の魔物にはほとんど効かないとされる。


 闇属性魔法は睡眠、混乱、恐怖など、集団に対しても使える便利な魔法だが、射程が短い。これは闇を媒介にするため、対象の視界を覆う必要があり、霧のようなものを使うためと書かれていた。


(別に霧や雲でなくてもいいような気がするが……矢のようにして直接体に注入しても効果があるような気がするな……)


 闇属性については、ざっくりと読んだ感じはこんなところだった。



 もう一つの苦手な属性、金属性についてだが、今回キトリーさんが持ってきてくれた本は付与魔法の呪文集だった。

 呪文集の前書きを読むと、金属性は金属の特性を生かした物の強化と、金属そのものの加工に特化していると書かれていた。

 つまり、攻撃魔法と呼ばれる直接相手に作用する魔法はほとんど無く、武器や防具の強化など支援魔法の位置付けだそうだ。

 また、金属の加工については、魔法を使った精錬や合成のことを指し、一般には錬金術と呼ばれている。

 付与魔法については、呪文だけでは永続的な効果を与えることはできず、制限時間がある。永続的な効果を与えるためには、魔法陣との組合せが必要であると書かれていた。


(キャラ設定の時に付与魔法は取っていないんだよな。武器や防具の効果がどの程度かは書かれていないが、前衛が少ない現状では結構役に立つかもしれない……)



 そして、最後の複合魔法についてだが、結論から言うと、複合魔法の呪文の理論は確立していないということだった。俺が疑問に思った炎の嵐(ファイアストーム)は火と風の複合魔法とは看做されず、火属性の魔法との認識のようだ。

 本に書かれていた理由は、炎を渦状にしているだけで、火を風で回しているわけではないということだった。つまり、螺旋状に連続的に炎が形成されているだけとの認識のようだ。

 複合魔法は魔法陣を用いたものだけを指し、呪文ではできないという結論になっていた。


(逆に言えば、無理に複合魔法にしなくても、イメージさえ明確にできれば単属性で同じ効果が得られるということか。だが、本当にそうなのか?)


 この本に書かれていたのは、呪文の構成から言って複合魔法は不可能という結論だった。

 確かに呪文の形から言えば、最初に必要な属性の神の名を唱え、次に求める効果を唱える。そして、与える魔力量をイメージしながら、発動の言葉を発する。

 つまり、最初のフレーズで二柱の神の名を唱えると、集めるべき力の精霊が混乱することになり、発動に至らないという説明だった。

 だが、俺はそれが本当のことなのか疑問視していた。


(魔法陣で出来るということは、手順さえ踏めば呪文でも可能ということじゃないのか? 精霊の力を集める際にうまく制御できれば出来るような気がするが……まあ、どうしても複合魔法が必要というわけでもないから、おいおい考えていけばいいだろう)


 午前中一杯を使って図書館で自習をし、午後は三人で森に入った。

 移動時間分が無駄になるため効率が悪く、結局うろついていたはぐれの狼を一匹倒しただけで終わってしまった。

 次からは図書館での自習の日と森での魔物狩りの日に分けようと思っている。


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本作品とは毛色が違い、非転生・非転移ものですが、こちらもよろしくお願いします。
最弱魔術師の魔銃無双(旧題:魔銃無双〜魔導学院の落ちこぼれでも戦える“魔力式レールガン戦闘術”〜(仮))
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