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ドリーム・ライフ~夢の異世界生活~  作者: 愛山 雄町
第二章「学院生時代:学術都市ドクトゥス編」

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第二十話「実技試験」

 八月三日。


 実技試験の日になった。

 さすがに真夏ということもあり、朝から蒸し暑く、少し体がだるい。

 俺の部屋は二階の南東だが、昨夜は木窓を開けて寝ても風が通らず、部屋の中は蒸し暑かった。更に網戸と言う便利な物が無いため、蚊が入り込み、それも寝不足の原因の一つだった。

 ちなみに部屋割だが、俺の横、北東がリディの部屋で、シャロンは俺の向かい側の南西の部屋に決まった。リディの部屋の向かいの北西の部屋は客用として、ガイが使っている。


 いつもの日課である素振りをしてから、共同の水場である井戸に向かう。

 既に隣のハンナさんが水を汲みに来ており、笑顔で挨拶を交わす。

 顔を洗い、汗を拭き取ってすっきりしたところで、家に戻ると、既にシャロンが朝食の準備を終えていた。

 この辺りは旧市街で働く人の住宅地となっており、近くに市が立つ。

 俺たちも隣のハンナさんに教えてもらい、かなりいい食材を手に入れていた。

 朝食はパンに目玉焼き、ベーコン入りの野菜スープと牛乳にチーズがついている。


「おはよう、シャロン。今日もおいしそうな朝飯だな」


 俺がそう言うと、少し恥ずかしそうにしながら、「おはようございます」とぺこりと頭を下げる。

 既にガイは食卓についており、最後にリディが降りてくる。


(シャロンが一緒で一番楽をしているのはリディだな。まあ、俺も大分楽をしているがな)


 朝食を取った後、のんびりとした時間を過ごし、シャロンと二人で学院に向かった。


 午前九時過ぎとかなり早かったが、することもないので、校庭の木陰で寝転んでいた。シャロンは俺の横にちょこんと座り、二人でのんびりと空を眺めている。

 俺はシャロンをちらりと見上げ、「緊張していないか?」と尋ねた。


「大丈夫です。思いっきりやるだけですから」


 そう言って微笑んでいた。

 その笑顔に不安の色はなく、本当に緊張していないように見える。


(しかし、凄いもんだ。筆記試験の時もそうだったが、初めての試験なのにそれほど緊張していない。今日は一人一人が受ける面接のような試験なのに本当に凄いもんだ。俺が入社試験を受けたときは結構緊張していた記憶があるんだけどな……)


 一時間ほどのんびりと過ごしていると、十時の鐘が聞こえてきた。

 俺はゆっくりと体を起こし、「そろそろ待合室に入れそうだし、そっちに行こうか」と言って、待合室に指定されている教室に向かった。



 待合室には五人ほどの受験生が待っていた。

 皆緊張しているのか、おしゃべりをするような者もおらず、熱心に参考書のようなものを読んでいる。


(五人ってことはあと一時間くらいか。もう少し横になっていても良かったかな。それにしても、俺たち以外はみんなガチガチじゃないか。まあ、これが普通なのかもしれないが……)


 俺たちが待っていると、突然、ガラリと扉が開かれ、番号と名前を呼ばれる。

 その音に受験生たちはビクリと反応し、呼ばれた受験生はカクカクといった歩き方で職員と一緒に待合室を出て行った。

 一時間ほど待つと、ようやく俺の番が回ってきた。


「五百二十五番、ザカライアス・ロックハート君」


 俺は「はい」と元気よく答えて、立ち上がる。


「私と一緒に試験会場前に向かいます。会場から入るようにという指示があるまで、大人しく座って待っているように」


 俺が「はい」と言って頷くが、職員は不思議そうに立ち止まっていた。


「杖はいいのかね。試験会場に行ったら、忘れ物は取りに戻れないよ」


「大丈夫です。杖は必要ありませんから」


 職員は小さく頷き、歩き出した。



 試験会場は校舎を抜けた裏にある体育館のようなところだった。

 ギルドにある訓練場と同じように見えるので、ここが魔法の練習場になっているのだろう。

 会場の外にテーブルがあり、そこに女性職員が座っていた。


「受験番号と名前を。それからオーブも出して」


 言われたとおり、受験番号と名前を告げ、オーブを見せる。


「ロックハート君ね。もうすぐ前の子が終わるから、そこに掛けて待っているように」


 何となく好奇の目で見られたような気がするが、気にせず椅子に座って待つ。


 耳を澄ましていると、中から木の板に硬いものが当たったときのような、コンという乾いた音が聞こえてきた。


(魔法を撃って的に当たった音かな。それにしては軽い音だな。そこらの石を投げたくらいの音にしか聞こえないぞ……)


 音が止み、すぐに受験生が出てきた。目元を袖口で拭くような仕草をしているので、泣いていたのかもしれない。

 前の受験生が試験会場を出てから、二、三分後、「五百二十五番、ザカライアス・ロックハート君。中へ」と声が掛かる。


 木の大きな扉を開き、中に入っていくと、予想通りギルドの訓練場のような地面がむき出しの体育館のような造りになっていた。

 右手側に机と椅子が並べられ、十人ほどの職員が座っている。そのうち何人かが採点者なのだろう。

 進行役なのか、四十歳くらいの男性が試験の説明を始めた。


「試験は最も得意な魔法を見せてもらいます。自分が出せる最高の魔法を私たちに見せてください。的が必要なら、奥の的を狙っても構いません。何か質問は?」


 俺は「ありません」と答え、的に近づいていった。

 進行役の「始め」の合図があり、俺は職員たちに一礼してから、的の方を向いた。

 今日は出力を抑えた旋風の刃(ウィンドブレード)を使うことに決めていたので、ゆっくりと呪文を唱えていった。


「数多の風を司りし風の神(ウェントゥス)よ。引き裂く風、精霊の刃を我に与えたまえ。我、我が命の力を御身に捧げん。我が敵を引き裂け! 旋風の刃(ウィンドブレード)!」


 発動の合図と共に透明の真空の刃が的に向かっていく。

 一m四方の木の板で出来た的に魔法の刃が当たると、バキッという音をたて、木の板に大きな亀裂が入っていた。

 職員たちから、ため息のような感嘆の声が漏れていた。


(少し威力を上げ過ぎたか? いや、これくらいでちょうどいいだろう……)


 俺は終わりだという意味を込めて、頭を下げる。


「今の魔法でいいのだね。納得がいかないなら、やり直しもできるよ」


 俺は首を横に振り、今ので十分ですと答えようとした時、若い男性職員が立ち上がった。


「この試験は自分の出せる最高の魔法を見せることになっているんだ。今のが最高の魔法だと言い張るのかね? 私には手を抜いたようにしか見えなかったが?」


 その男性はよく見ると、長い耳をしたエルフだった。俺がどう答えようか悩んでいると、そのエルフの男性が、


「手を抜くようなら、不合格だよ。早く本気を見せてくれないかね」


 進行役が「ラスペード先生。勝手に合否を決めてもらっては困ります」と(たしな)めた後、俺に向かって、少し強い口調で注意してきた。


「ロックハート君。君も真剣にやりなさい。では、今度は本気で、君の最高の魔法を撃ちなさい」


(本気ね……仕方が無いな。中途半端じゃ、さっきのラスペード先生っていう人が気付くんだろうな。仕方ない、本気を出すとするか……今使える一番威力のある魔法は大嵐(テンペスト)なんだけど、この狭い空間では使えるかな……)


「すみません。この会場では危険なんですが、外で撃ってもいいでしょうか?」


 俺がそう言うと進行役の男性が、「危険? ただでさえ時間が掛かっているんだ。いいから、ここで撃ちなさい!」と語気を強めて言ってきた。

 俺はどうなってもしらないぞと思いながら、了承したという意味を込め、頭を下げる。

 そして、大嵐(テンペスト)の呪文を唱え始めた。


「数多の風を司りし風の神(ウェントゥス)よ。風の精霊の宴、大いなる嵐を求む。我、我が命の力を御身に捧げん……」


 三十秒ほど精霊の力を溜め、発動が可能になったと判断したところで、最後の発動の言葉を放つ。


「……吹き荒れろ、疾風! 大嵐(テンペスト)!」


 呪文の完成とともに三十m四方の試験会場に冷気を含んだ風が吹き始める。

 徐々にその風は集束していき、直径十五m、高さ十mほどの渦巻きを形成していった。

 大嵐の魔法はこれだけでは終わらない。集束する風が上昇気流となり、地面にある物を巻き上げていく。そして、その渦の中には無数の氷の刃があり、その刃が渦に巻き込まれたものをズタズタに引き裂いていくのだ。

 今回は狭い空間ということもあり、風の曲率を上げ直径を可能な限り狭めてみた。そして、その狭めた分だけ、氷の刃が密集することになり、より強力な魔法になる。

 直径を小さくしたものの、自分や職員たちに危険が及ばないよう壁際に向けて発動したため、近くにあった扉や明かり取り用の木窓を何枚か吹き飛ばしていた。危険は及ばないとはいえ、職員たちの周りにもかなり強い風が吹き込み、彼らの手元の書類がバタバタと音を立てている。

 油断した一人の男性の手から、書類の束が飛んでいった。書類は強烈な渦に巻き込まれ、氷の刃でズタズタに引き裂かれながら、天井に舞いあがっていく。そして、渦を出た書類の破片は紙吹雪のように会場に舞い落ちていった。


 大嵐の魔法は一分ほど続いた後、一気に消える。

 俺は静かに振り返り、「今のが私の限界です。ところで扉や窓の修理代を請求されることはないですよね」と言って頭を下げた。


 進行役はまだ茫然としており、言葉が出ない。

 ラスペードと呼ばれた職員が大きな声で笑いだし、


「うんうん、今回は確かに本気だったよ! 修理代のことは気にしなくていい。君は最初から危険だと言っていたんだからね」


 ラスペード氏以外、誰も口を利かないが、試験は終了したと判断し、もう一度頭を下げて外に向かおうとした。

 俺の背中にラスペード氏の陽気な声が掛かる。


「ロックハート君だったね。私はリオネル・ラスペードだ。いつでも私の研究室に遊びに来なさい」


 俺がそれに答えようと振りむいた時、更にテンションの上がった声が聞こえてきた。


「そうだ! 学生など辞めて、私の助手にならないかね! 私が直接指導するよ!」


 俺はその言葉に「辞めるも何も、まだ合格すらしていないんだがな」と独り言を言った後、黙って頭を下げて、外に出ていった。


 外には受付をしていた女性職員が呆然と立ち尽くしていた。どうやら、突然、試験会場である訓練場の木窓や扉が飛んでいったことに驚いていたようだ。

 次の受験生であるシャロンも驚いていたが、それは俺が手を抜かなかったことに対して驚いているようだった。

 俺は女性職員に軽く頭を下げ、横で待っているシャロンに声を掛ける。


「思いっきり魔法を撃ってもいいそうだから。建物が壊れても大丈夫だって」


 俺が笑いながらそう言うと、彼女は不思議そうな顔をしていた。


 試験会場から離れたところで待っていると、ドーンという重い音が響く。そして、しばらくすると、少し不安そうなシャロンがやってきた。

 その様子に「どうした?」と尋ねると、


空気の槌(エアハンマー)を撃ったんですが、的が壊れてしまいました。あそこにいた人たちが慌てていたんですが……大丈夫でしょうか?」


 どうやら俺の言葉通り、思いっきりエアハンマーの魔法を放ったようで、さっきの轟音は彼女の魔法の音だったようだ。


「大丈夫だよ。俺なんか、扉と窓を壊したんだが、あそこにいた人が気にしなくていいって言ってくれたからな。的くらいなんてこともないはずだよ」


 まだ不安そうなシャロンの肩に手を置き、「昼飯を食べてから、家に帰ろうか」と言って、歩き始めた。




――――


 試験会場にいたリオネル・ラスペードは、二人の受験生を見た後、自分の研究室に戻っていく。後ろからは、実技試験責任者の「まだ、終わっていません!」と言う声が聞こえるが、「これ以上、面白い(・・・)受験生がいるわけではないだろう? それなら、私がいる必要はないじゃないか」と言って、軽く手を上げるだけで歩みを止めなかった。


(ふふふ……それにしても面白い。全属性持ちがいるから見てくれと言われて来てみたが、思った以上に面白かった……彼は大嵐テンペストを使ったつもりだろうが、あれは限りなくオリジナル魔法に近いものだ。テンペストという魔法は、風属性の魔法なのだ。本来、氷の刃ではなく真空の刃で切り裂く魔法なのだよ……)


 そして、もう一人の女子受験生にも驚きを隠せなかった。


(あの娘も天才だな。ただの空気の槌(エアハンマー)だが、魔力の効率に限って言えば、ロックハートと言う全属性持ち以上だ。いや、導師クラスの宮廷魔術師でもあれほど効率の良い者はそうそういまい。それも杖なしでだ……それにしても、今年は面白い生徒が入ってきたものだ)


 彼はぶつぶつと独り言を言いながら、自分の研究室に帰っていった。


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本作品とは毛色が違い、非転生・非転移ものですが、こちらもよろしくお願いします。
最弱魔術師の魔銃無双(旧題:魔銃無双〜魔導学院の落ちこぼれでも戦える“魔力式レールガン戦闘術”〜(仮))
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