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ドリーム・ライフ~夢の異世界生活~  作者: 愛山 雄町
第二章「学院生時代:学術都市ドクトゥス編」

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第十九話「杖の効果」

 引っ越しも終わり、実技試験まで時間があることから、俺たちはドクトゥスの北の森に入っていた。


 ドクトゥスの北には森が広がり、その先にはサエウム山脈という魔物が多く棲む山岳地帯がある。

 サエウム山脈は数百年前までは、ラクス王国の開拓村が多くあり、不完全ながらも山越えの街道が存在し、発展しつつあった。だが、カエルム帝国の皇帝の気まぐれで突然侵攻が始まり、補給路の弱いサエウム山脈南側の開拓村は王国が防御態勢を確立する前に、すべて壊滅してしまった。

 本来なら領土を得た帝国が入植を進める予定だったが、この辺りは魔物が多く、入植者を守るための兵力が必要となることから、なかなか入植は進まなかった。更に北方を管理する北部総督はラクス王国への侵攻に反対していたため、何かと理由をつけてサボタージュを行っていた。そのうち、当の皇帝が死に、帝国の北方政策が変わったことから、サエウムの南側は完全に放棄され、人に見捨てられた土地になってしまった。

 そのため、山岳地帯に棲む魔物は狩られることなく繁殖していった。その結果、増えた魔物が餌を求めて山を下り、街道や街に出没するようになった。

 ここドクトゥスも例外ではなく、多くの魔物が新市街に入り込むようになった。そこで、冒険者ギルドはドクトゥスに限り、森や山で討伐した魔物の事後申請を了承することにした。

 他の土地では依頼を受けた魔物しか、報酬は払われず、魔晶石分しか儲けにならない。だが、ここドクトゥスでは魔晶石の売却益に加え、依頼達成の報酬まで受けられるため、多くの冒険者が森に入っていく。

 その結果、簡単な柵しかない新市街も、魔物の被害が激減した。だが、供給元の山岳地帯が手つかずであるため、森での討伐数が減ることはなかった。



 俺たちもそんな森に入り、魔物を狩っていく。

 出てくる魔物はバラエティーに富んでいた。狼や熊などの獣系、巨大クモなどの昆虫系、ゴブリンやオークなどの鬼系、吸血蔦のような植物系、更にはスケルトンのような死霊系にも遭遇した。


 初めて見るスケルトンは恐ろしいというより、驚きの方が強かった。

 骨だけなのにどういう原理か判らないが、カクカクと歩いている。映画のCGにそっくりで、既視感すらあった。


(ハリウッドのCGが凄いのか、それとも、俺の感性が鈍いのかは判らないが、リアルなんだが、どうも現実感に乏しいな)


 だが、実際に戦ってみると、CGなどではなく、確かに質量を持った存在だった。錆びた剣を結構な速度で振ってくるため、ビュッという風切音と共に剣風が顔に感じられるし、剣を打ち合えば、思った以上の強い力に押し込まれることもあった。

 驚きはあったが、スケルトンはそれほど強い魔物ではなかった。剣術レベルが低いのか、俺が近接戦を挑んでも、それほど脅威には感じなかった。

 ただ、シャロンが最初、その姿に怯え、戦力にならなかった。やはり、女の子なんだとしみじみと思ってしまった。


 五日間で剣術士レベルが十六から十七に、風属性魔法が二十三から二十四に上がっていた。


(やはり実戦の方が、レベルアップが早い。シャロンのレベルは判らないが、リディもレベルアップしたそうだから、今後は頻繁に森に入る方がいいかもしれないな……)


 シャロンについては、魔術師のオーブがないため、魔法のレベルは判らない。だが、学院合格後にオーブが与えられるので、あと一ヶ月もしないうちにレベルは判るはずだ。リディの見立てでは、レベル十五程度はあるということだ。



 毎日森に入り、七級、八級相当の魔物を中心に狩っていたが、収入はかなりのものになっている。

 七級相当の魔物の魔晶石は十(クローナ)、一万円程度、八級相当は五C程度。それと同程度の報奨金がギルドから報酬として出るため、五日間で三百C、三十万円近くの収入があった。


 今回はガイがいたため、効率よく狩れたが、ガイが帰ったあとは、ここまで効率よく狩りをすることは難しいだろう。だが、森の中での戦闘の目途が立ったことは、今後のことを考える上でとても参考になった。


(俺の気配察知がもう少し上がれば、効率は上がるんだろうが、こればかりは焦っても仕方がない。あとは前衛が俺だけになるのが問題なくらいか。まあ、森の奥や山に入らなければ問題はないだろう……)



 言い忘れていたが、引越しの際、近所にあいさつ回りを行った。

 こういう風習があるのかは判らないが、五年間ここで過ごすのなら、近所付き合いは良好な方がいいだろう。俺はちょっとした手土産を持って、リディとシャロンと共に近所を回った。

 右隣は交易商に勤めるフランク・ノヴェロという人の家で、奥さんと三人の子供と住んでいる。主人のフランクさんは三十歳くらいで、物静かな感じの人だった。奥さんのハンナさんは二十代半ばくらいの明るい感じの女性で、世話好きなところが従士頭のウォルトの妻、モリーに似ている感じがした。三人の子供は上が八歳で全員女の子だった。

 左隣はティリア魔術学院の事務員で、クリント・リトルフという四十代の人だった。妻と娘一人の三人で住んでいる。クリントさんは子供好きの用務員といった感じの人で、俺が学院の受験生だと知ると、頑張れよと声を掛けてくれた。奥さんのヘレンさんは元教師だそうで、この辺りの子供に勉強を教える塾もやっている。娘のシェミーさんは十七歳の私塾の学生で、ほっそりとした美人だ。他にも二人の息子がいるそうだが、二人とも独立して家を出ているとのことだった。


(両隣がいい人そうで良かったな。他の近所の人もいい人そうだったし、ここは当たりかもしれないな……)


 三人の中で唯一大人のリディだが、彼女は人見知りが激しい。俺は両隣の奥さん、ヘレンさんとハンナさんに、先に説明しておこうと心にメモをした。


 俺たちが挨拶周りから戻り、ガイによさそうな人ばかりだと説明すると、彼は「それは良かったですね」と嬉しそうに笑った。そして、近所に同じ歳くらいの男の子がいないと聞くと、僅かにホッと表情を見せていた。

 俺はそれに気付き、思わず噴き出しそうになった。


(ある意味、シャロンは温室育ちだからな。周りの同世代の男子は、俺と彼女の兄のダンしかいなかったし……何だかんだ言ってもガイはシャロンに甘いから……)



 森に入った後は、冒険者ギルドに行くのだが、基本的にはガイとリディに行ってもらっている。

 ガイに理由を聞くと、子供の俺たちが一緒にいると、難癖を付けられる可能性があるとのことだった。俺にはいまいちその理由がピンとこなかったが、子供が来る世界じゃないと言いたいのかもしれない。

 ガイがラスモア村に帰った後は、リディ一人を行かせることになるので、それはそれで問題が起きそうで心配している。



 近所のあいさつ回りと森での討伐、食料品などの購入先などを確認していたため、あっという間に実技試験の前日になった。

 その日は午後三時頃まで森に入り、その後、明日の試験の最終確認に行くことにした。

 二日前に試験開始時間などを確認しており、必要ないと思ったのだが、急な変更があるかもしれないとリディに言われ、再確認に行くことになった。

 入市税が勿体無いが、不安そうなシャロンを見て、二人で学院に向かうことにした。


 学院の門をくぐると、中には数名の受験生が緊張した面持ちで校庭をうろうろしていた。

 今日の受験生のようで、緊張して落ち着かないようだ。


 校舎の中に入ると、明日の試験日程が張り出されていた。

 俺が午前中の十五番目で、シャロンが十六番目。午前中は二十人の予定だから、十一時頃が俺たちの時間になる。


「明日は十時くらいに来れば大丈夫だな。午前中には終わるし、午後は時間が空くな」


 俺の言葉にシャロンが反応しない。不思議に思い、彼女を見てみると、受験生たちをじっと見つめていることに気付いた。

 俺が「何かあったのか?」と聞くと、


「皆さん、杖を持っているんですが……」


 彼女にそう言われ、周りを見てみると、受験生たちは皆、先端に魔晶石を嵌め込んだ杖を持っていた。三十cmほどの短めのものから、大きなものでは一・五mを超えるものまで様々だった。


「そうだな。注意事項を読んでも杖の持ちこみについては、何も書かれていなかったから、持ち込んでもいいんだろう。それがどうかしたのか?」


「えっと……私たちは無くても大丈夫なんでしょうか……」


 どうやら、自分たちだけが魔道具である杖を持っていないことが不安なようだ。


「いらないんじゃないか? 今までも杖なんか使ったことがないしな。第一、実戦で魔法を使うリディも使っていない。問題ないだろう?」


 シャロンはコクリと頷くが、まだ、チラチラと周りの受験生を見ていた。


(人と違えば不安になるから、判らないでもないが……あとでリディに相談してみるか)


 家に帰り、杖のことをリディに話した。

 彼女はその話を聞いて、意外そうな顔をした。


「あら、杖の持込みができるようになったのね。私の頃は持ち込めなかったから、気が付かなかったわ」


「そうなのか……盲点だったな」


 俺が真面目な顔でそう言うと、彼女はケラケラと笑い始めた。


「ほんと、変なことを気にするのね。ふふふ……あなたたちに杖なんていらないわよ。今でも十分魔物と戦えているのよ……それに杖なんてほとんど飾りよ……」


 彼女の話では、魔術師の杖は精霊の力を集める時の効率を上げてくれる魔道具だが、宮廷魔術師長が持つような高級品はともかく、子供が持つような杖はほとんど気休めにしかならないそうだ。


「最近の流行はやりなのかもしれないわね。昔の魔術師は杖なんか持たなかったのに……子供の時から杖に頼っていると、いざという時に困るから、あなたたちは持たない方がいいわ」


 俺はその言葉に納得するが、シャロンはあまり納得しているように見えない。

 初めて外の世界に出て、人と違うと感じれば、不安に思うのは仕方が無いことだろう。


「そう言えば、リディも杖を持っていたんじゃないのか?」


「ええ、持っているわよ。卒業する時にもらえるから……一応、今も持っているけど?」


「それを貸してくれないか。今から杖のありなしで、どのくらい違うのか試してみたい」


 リディは自分の部屋に戻り、長さ五十cmほどのシンプルな杖を持ってきた。


「一応、首席の卒業生がもらえるのは一級品だそうだけど……使ってみれば判るわ」


 既に午後五時を過ぎており、森に行くのは危険であるため、裏庭で簡単な実験を行うことにした。

 最も判りやすいのは、発動までの時間だろうと考え、最大出力の空気の鎚(エアハンマー)を空に向けて撃つことにした。

 結果は、杖を使わずに呪文を唱えた場合に比べ、杖を使うと一割くらい時間が短縮できるかなという程度だった。

 だが、消費する魔力(MP)は同じであり、呪文の有無のような劇的な差は感じなかった。


(戦闘なら、この時間差は結構大きいと思うが、リディのように弓を手に持つタイプだと、この杖は邪魔にしかならない。だから、杖を使わないのか……)


「確かにそれほど劇的な効果は無いな。シャロンもやってみたら判るよ」


 シャロンに杖を渡し、場所を譲る。

 彼女は初めて手にする杖をじっくりと眺めながら、俺と同じように空気の鎚(エアハンマー)を空に向けて放った。

 空を見上げながら、「少し早く集まったような気がします」と呟き、リディに杖を返していた。


「それほど変わらないでしょ。その程度なら別の武器を持った方が使い勝手がいいのよ。まあ、攻撃魔法だけを使う魔術師なら、あったほうがいいかもしれないけどね」


(砲台として魔法を放つ魔術師なら必要ということか。俺やリディのような他の武器を使うタイプは不要だな。となると、シャロンは微妙だな。剣術は護身程度だから、剣を持って戦闘に加わることはない。なら、杖を持っていた方がいいかもしれない……)


「杖を持ってもいいぞ。俺やリディと違って、シャロンは魔法専門だから」


 彼女は首を横に振り、「無くても大丈夫です。高そうですから」と答える。


「私の杖なら貸してあげるわよ。何ならプレゼントするわ。どうせ使っていないんだし」


 リディの言葉にシャロンは更に強く首を振る。

 俺は困っているシャロンを見て、


「貰うのはともかく、森に入るときには借りていったらどうだ? その方が安全だしな」


 リディが俺の言葉に頷き、俺は「明日の試験はシャロンの好きなようにしたらいい」と言って、リディから杖を受取り、シャロンの前に突き出した。

 シャロンは少し迷いながらも、「ザック様と一緒でいいです」と言って、押し返してきた。

 俺はリディに杖を返しながら、「しかし、魔術師の杖ってどのくらいの価値があるんだ?」と尋ねた。彼女は少し小首を傾げるような仕草をして、


「そうね。私は興味が無いから良くは知らないんだけど……確か、この杖は三級の魔晶石を使っているから、一万(クローナ)(=一千万円)くらいだったと思うわ。宮廷魔術師が持っている物なんかは、数百万Cは下らないって聞いたこともあるけど……」


(リディの杖でも一千万円か……それにしても、数十億円か。ちょっとした戦闘機が買える値段だな。そのくらいの杖なら、威力が上がったり、消費MPを減らしたりできるんだろうか?)


 少なくともシャロンの不安は解消されたようで、帰ってきたときのような不安そうな表情は消えていた。


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本作品とは毛色が違い、非転生・非転移ものですが、こちらもよろしくお願いします。
最弱魔術師の魔銃無双(旧題:魔銃無双〜魔導学院の落ちこぼれでも戦える“魔力式レールガン戦闘術”〜(仮))
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