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ドリーム・ライフ~夢の異世界生活~  作者: 愛山 雄町
第二章「学院生時代:学術都市ドクトゥス編」

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第十四話「武人の価値」

 ノートン商会の情報を傭兵のバイロンに聞き終えた後、彼は俺に話を聞いてほしいと言ってきた。

 バイロンは居ずまいを正し、「私の方からもザカライアス様に話があるのですが、聞いていただけますか」と神妙な顔で俺に向き合う。

 俺は何の話だろうと思いながら、「ああ、構わないが」と頷いた。

 それを見たバイロンも頷き、更に真剣な表情で俺の目を見る。そして、静かだが力強い声で、


「私がロックハート家に、ザカライアス様にお仕えすることは可能でしょうか」


 俺には彼の質問の意図が判らなかった。


「俺は当主でもなければ嫡男でもない。だから、ロックハート家に仕えることと、俺に仕えることでは意味が全く違う」


「それは判っております。ですが、私、バイロン・シードルフという男が、武の名門ロックハート家に仕えるに値する男なのか、更にはザカライアス様ご本人に仕えるに値する男なのかをお聞きしたいのです」


(難しい質問だな。俺が値すると言えば、バイロンは希望を持つだろう。だが、俺にロックハート家への仕官を認める権限はないし、俺自身、人を雇うことはあまり考えていない。だからといって、ノーと言えば、彼のプライドを傷つけることになる。実際、この男なら十分にうちの従士としてやっていける。特にこの先、村の人口が増えていくことを考えれば、きちんとした考えを持つ従士は絶対に必要だ。俺が嫡男なら、跡を継いだらいつでも訪ねて来いと言える。だが……)


 俺は判断に困り、ガイに視線を送った。

 ガイは俺の視線を受け止めるが、それ以上何の意思も見せなかった。


(ガイに聞くべき話じゃないな。彼が困るだけだ。ロックハート家に仕えるだけなら、俺が推薦すれば、じい様や父上も会ってはくれるだろう。今のところ、従士が増えることに問題は何もないから、腕と人となりを見て、彼が採用される可能性は高い。だが、問題はそこじゃない。次男である俺に仕えたいというのが問題なんだ……)


 俺はバイロンに逆に質問を返した。


「先に確認させてくれ。なぜロックハート家に? そして、なぜ俺に仕えたいんだ? それに俺の考えじゃ、バイロン、お前は以前どこかの国に仕えていたはずだ。それも平の兵士ではなく、それなりの地位についていたのだろう?」


 彼は僅かに驚きの表情を見せ、こくりと頷く。


「やはり、あなた様には隠し事はできません。おっしゃるとおり、私はカウム王国の国境守備隊、トーア砦におりました。平民ですが、これでも百人の部下を持つ隊長を務めていたのです。ですが、五年前の魔族の侵攻で……」


 彼の話はこうだった。

 彼はカウム王国の国境守備隊の士官として、魔族の土地クウァエダムテネブレとの国境、トーア砦を守っていた。

 彼はクウァエダムテネブレへの偵察の必要性を、事あるごとに上層部に訴えていた。だが、事なかれ主義の司令官に握り潰されていた。

 そして、五年前。魔族の奇襲を受け、トーア砦は陥落した。その時、彼は部下の半数を失いながらも、何とか味方を逃がすことに成功した。

 砦陥落後、彼が偵察の必要性を訴えていたと知る同僚や部下たちが、司令官の失態を軍上層部に訴えようとした。だが、身分の高い司令官は自分の失態を隠すため、バイロンとともに彼の部下や同僚たちを始末してしまおうと激戦地に送り込んだ。その結果、彼の同僚、部下たちの多くが戦場に散っていった。

 結局、カウム王国は各国からの援軍を得て逆襲し、魔族軍を敗走させることに成功した。だが、その勝利を決定付けた決戦、アクリーチェインの戦いでも、彼は多くの仲間を失い、そして、軍にいることに疑問を持った。

 悩んだ彼は軍を辞めることにし、傭兵として第二の人生を送り始めた。そして、僅か三年で十五人の部下を率いる傭兵になった。


「……私はその時思ったのです。自分が信頼できる人に仕えようと。あなたは必ず大成する方だと思っています。ですが、私にとって大切なのは、そのことではありません」


 彼はそこで言葉を切り、笑みを浮かべる。


「あなたは先日、私の部下に対してもきちんと対応してくれました。副隊長のカーティスの馴れ馴れしい態度にも嫌な顔をせず、奴のプライドを考えながら、私の想いを伝えてくれました。私はその時思ったのです。この方なら、部下を絶対に裏切らないと」


 俺は彼の過大な評価に慌てて首を振る。


「俺はそんなできた人間じゃない。それに十歳の子供に言う言葉じゃないぞ」


 バイロンは「年齢は関係ありません」と首を横に振る。


「それに俺は次男だ。兄上がロックハート家を継ぐことを心から祝福している。だから、俺がロックハート家を継ぐ可能性はほとんどない。そんな俺についてきても、いいことは一つもないぞ」


 俺の言葉にバイロンは笑みを崩さず、更に首を横に振る。


「そのようなことはどうでも良いのです。私が自分の人生をあなたに賭けてみたいと思っているだけですから」


 俺は答えに窮していた。


(そこまで俺を買ってくれるのは正直うれしい。だが、俺はまだ十歳。それに神に与えられた使命がある。そのことを考えると、この男の想いに応えることは難しい……)


「判った。もう一つ聞かせてくれ。お前を俺の配下にするとして、今のお前の部下たちはどうするつもりなのだ? 慕っている隊長が辞めたら困るだろう。それにノートン殿との契約もあるんじゃないのか?」


「その点は問題ありません。少なくともカーティスを一人前の隊長にしてからしか、手を引くつもりはありません。それが部下を持った者の責任だと思っていますので」


(確かに身分が高いだけの無能な司令官では、この男は使いこなせないな。だが、俺に使いこなせるのか? はっきり言って、俺は昔から人を使うのが苦手だ。今でこそ、ニコラスやガイたちが助けてくれてはいるが、それもロックハートという名があるからに過ぎない。だが、その名も兄上が跡を継げば意味を成さない……)


 そして、もう一度、バイロンをしっかりと見据える。


(しかし、本当に勿体無いことをしたな、カウム王国は。この男なら部下も慕うだろうし、判断も的確だろう……だが、これほどの男がなぜ十五人程度の傭兵隊の隊長なのだろう?)


「何度もすまない。最後にもう一つだけ聞かせてくれ。お前ならもっと多くの傭兵を束ねられたはずだ。なぜ、十五人という小さな所帯で満足しているんだ?」


 バイロンは首を横に振りながら、「それは買い被りです」と笑う。


「知らないうちに私のところに集まっただけです。それに、軍という組織を離れた以上、私にはこれ以上の部下は扱えません。一人一人に目を配ろうと思えば、これが限界ですから」


 俺はその答えに驚き、言葉を失った。


(俺なら可愛がった部下を失えば、二度と部下を持とうと考えない……これだけの面倒見のよさがあれば、ロックハート家(うち)の従士になっても、すぐに頭角を現すだろう)


 俺はバイロンの問いに答えを返すことに決めた。


「先ほどの問いに対する答えだが……」


 俺の言葉に、バイロンは表情を引き締める。


「お前との付き合いはつい数日前からだ。まだ、お前の人となりを理解したとは言いがたい。だが……」


 その言葉に彼は僅かに肩を落とす。


「……これは俺の直感に過ぎんが、バイロン・シードルフという男は、ロックハート家に仕える価値がある男だと思う……」


 バイロンは「では!」と眼を輝かす。だが、俺はそれを無視して話を進めていく。


「……だが、俺個人に仕えるというのは断る。理由は判るな?」


「ザカライアス様がご次男であり、ご実家にあらぬ波風を立てたくないと……」


 俺は「そうだ」と頷く。そして、俺の考えを説明していく。


「兄は優しく、そして、聡い方だ。俺個人に仕えると宣言して、ロックハート家(うち)の従士になりたいと言ったとしても、反対はされないだろう。父や祖父はそのことを認めないかもしれない。だが、祖父も父もなぜか俺のことを買ってくれている。その俺が推薦した上で、お前の力量、人格を認めれば、従士に取り立てる可能性は高い。それに、祖父なら兄に対してこう言うだろう。“この男を自らの器量で従えてみせろ”と……」


 バイロンは何も言わず、黙って俺の話を聞いている。


「……例え、祖父が、獅子心(ライオンハート)と呼ばれる英雄が、そう言ったとしても、生え抜きの若い従士たちとの間に軋轢が起こるはずだ。確かに、うちの従士たちはロックハート家、特に祖父に対して尋常じゃない畏敬の念を抱いている……」


 その言葉にガイが小さく頷く。


「……だから一層、嫡男である兄を蔑ろにするような男を認めたくないはずだ。そして、その間に立つのは俺じゃない。父であり、兄だろう。特に兄はお前に認められようと努力するはずだ。領主の嫡男が従士に対しておかしなことをと思うだろうが、兄はそういう男なんだ」


 ガイが頷き、バイロンは小さく首を横に振る。


「では、私はザカライアス様にお仕えすることはできないと」


 俺が言い難そうにしていると、バイロンはさばさばとした、そして僅かに寂しそうな表情で「判りました。諦めましょう」と言った。


 俺は小さく頷いたが、彼の表情を見て思わず「一つだけ方法がある」と言ってしまった。


「まず、俺の名前を出さずに祖父に認められろ。自分の力だけで祖父ゴーヴァン・ロックハートに会い、その力を認めさせるんだ」


 そして、横で聞いているガイに「お前も口利きはするなよ」と釘を刺す。


「知恵を絞って、獅子心(ライオンハート)ゴーヴァンに会え。そして、自分の力を認めさせるんだ。そうなれば、ガイと同じ位置に立てる。だが、祖父に認められるのは生半可なことじゃないぞ。なあ、ガイ?」


 ガイは「私も一年ほど掛かりましたから」と昔を懐かしむような表情で答える。

 バイロンは「一年ですか……」と呟く。


「祖父に認められれば、父上も従士に取り立ててくれるだろう。そして、従士になって、ロックハート家を、ラスモア村をよく見てくれ。俺に仕えるということがどういう意味を持つのか、俺が何を考えているのかが判るはずだ。その上でまだ俺に仕えたいというのなら、俺も考えてみる。偉そうな言い方だが、今はそうとしか答えられない……」


 バイロンは何か思うところがあるのか、小さく頷いていた。


 正直な話、俺はバイロンのことをよく判っていない。

 確かに優秀な傭兵で、部下想いのいい指揮官だとは思う。だが、彼の思惑がどのようなところにあるのか、本当に俺の将来性を見込んで話を持ってきたのか、どこまで信用していいのか判らない。

 はっきり言って、自分に人を見る目があるとは思っていない。だが、修羅場を潜り、小さな開拓村で苦労してきた祖父の人を見る目は信用できる。父にしてもそうだ。祖父の陰に隠れて気付きにくいが、そこらの領主とは比べ物にならないと思っている。

 丸投げと言われれば返す言葉は無いが、祖父や父にバイロンという男を見てもらおうと思った。そして、二人に認められる人材なら、どのような思惑があろうと、ロックハート領の発展に役立ってくれるだろうとも。

 ロックハート家の従士になれば、現当主、次期当主がどういう人間か判るはずだ。今のバイロンは、俺という存在を通してロックハート家を見ているに過ぎない。だから、時間をおきたいと考えたのだ。


 その後、三十分ほど雑談をしてから、バイロンと別れた。



 ノートン商会に向かい、会長のヘンリー・ノートンに面会を申し込む。

 商会の建物に入ったが、小さな事務スペースに従業員が二人いるだけで、普通の民家のように感じてしまう。年嵩の従業員に応接間に案内されると、すぐにノートンがやってきた。

 彼は「ようこそおいでくださいました」と揉み手をせんばかりに歓迎してくれた。

 俺はすぐに用件に入り、スコッチの輸送の話を始めた。


「……ということで、キルナレックの街でうちの酒を受取り、南地区の荒鷲の巣という宿に運んで欲しいのだ。どうだろうか?」


 ノートンは「承りましょう」と大きく頷く。


「一度、ラスモア村にお伺いし、ご領主様、先代様にご挨拶をした上で輸送費などを詰めたいと思います」


 俺はわざわざラスモア村に行くこともないと考え、「父上だけなら、キルナレックに出てもらうが」と言った。

 ノートンはその言葉に驚き、恐縮して「ご領主様にご足労頂くなど……私が出向けば済むことでございます……」と言葉にならない。


 俺の常識はまだこの世界の身分制度に順応していないようだ。宿や店でも、つい丁寧な言葉を使いそうになるし、初めてあった年上の人間に対して、偉そうな口調で話すとどうにも落ち着かない。

 俺は話題を変えるため、キルナレックでの商品の授受での輸送費を聞いてみた。


「ちなみにキルナレック渡しなら、輸送費はいくら必要になる?」


「そうですね。樽の大きさにもよりますが、一樽辺り百(クローナ)(=十万円)と言ったところでしょうか? 但し、樽が破損しても補償は出来かねますが」


(かなり安いな。利益的にはほとんど上がらないんじゃないのか?)


「こちらとしては助かるが、それでは儲けが減るのではないか?」


「確かに剣を運んだ方が利益は上がります。ですが、我が商会にとって、それ以上の価値があると考えますので、是非ともお受けしたいと考えております……」


 やはり、ノートンの目的はロックハート家との関係を作り、アルスのドワーフたちの心証を良くしたいということがあるようだ。さすがにこの場でアルス行きのスコッチの輸送の話を出さなかったが、村に行ったら、その話をするつもりなのだろう。


「八月の終わりには、ガイは村に戻っている予定だ。父上には手紙で話は通しておくから、それ以降なら、いつ村に行ってもらっても構わない」


(これで“スコッチ”のペリクリトル進出は何とかなりそうだ。後は父上とニコラス――ニコラス・ガーランド、内政担当の従士――がうまくやってくれるだろう)


 ノートン商会を出る頃には、午後三時を過ぎていた。

 俺はそのまま宿に戻るつもりで南に向かおうとした。たが、リディは俺の腕を掴み、


「まだ、買い物の下見が済んでいないわよ。結構時間が掛かったから、さっさと行くわよ」


 俺はガイと二人で諦めの表情を浮かべ、リディに引き摺られるように服飾関係の店に向かった。

 結局、宿に戻った時には、午後六時を過ぎていた。


 その夜、宿の主人ヨアンにスコッチの輸送がうまく行きそうだと報告する。回答は先でいいと言ったのだが、既に結論が出ていたようで、いつでもスコッチを置くと約束してくれた。


 そして、翌日はほぼ一日、リディの買い物に付き合わされた。ガイは疲れたような表情を浮かべていたが、シャロンは結構楽しそうな表情をしていたので、買い物の楽しみに嵌ったのかもしれない。


(そういえば、昔、別れた嫁さんの買い物に付き合ったことがあったな。あの時も一日中引き摺り回された。どの世界でも女性はこういうものなのかもしれないな……でも、ペリクリトルで体を休めるはずだったのに、何でこんなに疲れているんだろう……)


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本作品とは毛色が違い、非転生・非転移ものですが、こちらもよろしくお願いします。
最弱魔術師の魔銃無双(旧題:魔銃無双〜魔導学院の落ちこぼれでも戦える“魔力式レールガン戦闘術”〜(仮))
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